軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第48話

福山が《 羅生防術(らしょうぼうじゅつ) 》のスキル『羅生門・暗転』を発動した。

何もなかった天井から巨大な羅生門がドシンと落ち、福山とグフゥの間に壁を作り上げていた。その壁にドカッと体当たりをしたグフゥの生々しい音が部屋の中に響き渡り、テンジたちは突然目の前に作られた異様な光景に唖然とするほかなかった。

(こ、これが……二級探索師の力!?)

「まぁ、こんな感じで盾役の探索師が間に割って入るしかないんだよね。あー、ちなみに俺はこんな物騒な門を落としておいてなんだけど、一応盾役だからね?」

福山はさぞ当たり前のように自分を盾役だと言うが、その羅生門は攻撃にも非常に有効な手段にも彼らには見えていた。直接モンスターに叩き落す、囲い込む、挟み込む、突き上げるなどいくつも思いつく。

しかし、すぐに福山の口から否定の言葉が紡がれる。

「俺の天職の攻撃じゃあ、半一等級以上相手だとまるで効かないんだよね。こうやって壁を作ることはできるんだけど、落とすだけじゃああんまり使えないんだ。そもそも落下地点を操作するのって超難しいんだよね」

福山は苦笑いしながらレクチャーをすると、右手を前に突き出し、軽く振ると羅生門を掻き消した。

その奥にはごてんと仰向けにひっくり返って目を回すグフゥの姿があった。

「あー、頭揺れちゃったかな? こんな感じでグフゥって突進攻撃する割に頭が弱いんだよね。ちょっと衝撃を与えればこうやってひっくり返るから、あとは全員で叩き潰せば終わりだよ」

レクチャーを終えたのか、福山はまだ息のあるグフゥを背にして、ゆっくりと足音をボスエリア内に響き渡らせながらこちらへと戻ってくる。

その様子は余裕に満ち溢れており、この程度のボスに苦戦するはずがないという自信に溢れているように見えた。

そんな福山が四人の目の前までたどり着き、「どうだった? 勉強になったかな?」と優しく問いかけてきた。

もちろん全員が食い気味に頷き、福山はやり切ったような清々しい表情を浮かべた。

「あ~、それと。基本はこの方法で倒すんだけど、それはあくまで三級探索師以上がいない場合ね。俺のような探索師がパーティーに一人でもいれば力技で押し切れるから。だからなのか、よくグフゥを倒せるか倒せないかで探索師の実力って判断されるんだよね」

福山が言った、ちょうどその時だった。

後方でのっそりとグフゥが起き上がり、脳震盪を起こしていたのか頭をぶんぶんと振り冷静さを取り戻していた。そして自分に攻撃を加えた福山を見つけるや否や、緑色の瞳が血走った。

「グフゥゥゥゥゥゥゥウッ!!」

怒り狂ったようにグフゥが五メートルの巨体を揺れしながら、こちらへと駆けだした。

びくりと体を反応させ、慌てて武器を構えた四人の参加者たちに福山はにっこりと笑いかける。

「さて、これが二級探索師の力技だよ。――『羅生門・圧殺』」

福山はスキル名を唱えると、グフゥに向かって両手のひらを見せた。

その瞬間、グフゥの両端からあの羅生門のような巨大な壁が二つ出現する。そして福山はパンッと両手を胸の前で両手を勢いよく合わせた。

その姿は、和尚の合掌の形に凄く似ていた。

「グフゥ!? ……グゥ…………」

両端に出現した羅生門が、福山の打ち手と同時に勢いよくグフゥへと切迫し、いとも簡単にボスの巨体を胡麻を摩るように押しつぶしてしまったのだ。

まさにそれは圧殺であり、辺りには血飛沫と肉片が勢いよく飛び散る。

「と、まあ、見ての通りなんだよね。俺の攻撃能力って思いっきり死体をすり潰しちゃうから、0円なの……わかる? 魔鉱石化もしなければ、死骸も残らないし本当、経理に何度怒られたことか……はぁ」

福山は怒られた過去を思い出したのか、明らかに落ち込み始め、はぁと大きく溜息を吐いたのであった。

しかし、四人の耳にそんな些細なことは届いていなかった。

圧倒的な強さを見せつけられたことに、彼らは心の底から感動していた。

現代において、二級探索師以上の戦闘を間近に見る機会はほとんどなくなってしまった。一昔前までは地上にモンスターが闊歩していたこともあり、ニュースや動画配信サイトでも取り扱っていたのだが、ここ最近はめっきりそんなこともなかったのだ。

実際に自分の目で二級探索師、それも日本で有数のチャリオットで活躍する探索師の戦う姿を見られたことを、彼らはその眼に焼き付けた。

「す、すごいです!」

「あっ、そう? いや~、最近褒められること少なかったから照れるなぁ」

立華の率直な感想に、福山もまんざらでもなさそうであった。

「はい、これが福山さんのスキルなんですね! お見せいただきありがとうございます!」

「凄い……これがチャリオットの力」

「さすが……次元が違う」

さらに畳みかけられる褒め言葉の数々に、福山はイケメンスマイルを通り越して、気持ち悪いニンマリ顔を浮かべ始めた。

その様子を見て、探索師も普通の人間なんだと、改めて再認識する彼らであった。

探索師は化け物や人外などと比喩されるが、そんな彼らも元を辿れば皆同じ人間だったのだ。

似たような食事を食べ、似た教育を受け、同じ文化を学んできた。どこにでもいる普通の人と変わらない。

「さて、次に行くよ。ここからはまた君たちの地力を俺に見せてくれ」

気を取り直した福山が、参加者四人に向かって発破をかけるように言った。

今一度三人が気合を入れ直し、再びこの第26グループはダンジョンを突き進んでいく。

† † †

彼らの連携はモンスターとの戦闘を重ねるごとに洗練されていく。

道中で出てくるモンスターは潜りマウスだけだが、それでも一度の戦闘に五体までであれば、彼ら三人で立ち回ることができるようになっていた。

グフゥの先では最低でも四体の群れで、多くて七、八体の群れで現れることになる。さすがに六体以上が現れると誰かが軽い怪我を負ってしまうのだが、それでも回を追うごとに負傷率は段々と減っていった。

「はぁ、はぁ……結構長いですよね?」

「そうだな、通常のサブダンジョンよりは長いと思う。俺も初めての経験だから、知識での答えでしかないがな」

「やっぱりそうだよねぇ……僕もだいぶ体にガタが来てるよ。正直、試合なんかよりも数倍は辛いかな」

主に戦闘を行っていた三人は、休息を取るべくダンジョンのごつごつとした壁に腰を掛け、息と整えていた。

そんな彼らの元に福山が近づいていく。

「さすがに四時間の戦闘は疲れたかな?」

「はい……ここまでハードだとは思ってもいませんでした」

「そうですね、想像以上に神経の消耗が激しいですし、筋肉の疲労も無視できなくなってきました」

「うん、僕もそう思うよ」

立華、水江、草津の順で答えていく。

その様子を見て、どこか嬉しそうに微笑む福山であった。そんな福山が自分の外套の中に手を突っ込み、どこからともなく三つの水筒を取り出した。

(えっ……なんか最近は当たり前のように色々な物を出してくる人に会うけど……あれ、なんなんだろう。そんなスキルの話ってあまり聞かないんだけど)

なぜか最近凄い探索師ばかりに会っているテンジは、当たり前のように不可思議な現象を起こす事態に正直頭の整理が追い付いていなかった。

そもそもゲームにあるようなアイテムボックスや異次元ポーチのような、多次元収納アイテムなんかは未だに発見されていないと聞く。またはどこかのギルドや個人で秘匿しているか。それくらいしか考えられない。

(いや、そういえば海童さんがアイテムを出し入れする天職があるって言ってたな。そういうのに関係があるのかな?)

そうは言ってもだ。

リオンといい、福山といい、白縫といい、彼らは当たり前のようにどこからともなく色々な物を取り出すのだ。ほんの少しだが、テンジは上位探索師と呼ばれる探索師の中でも上位10%以内に含まれる人たちの一端を、その目で直接垣間見たような気がしていた。

福山はその水筒を立華、水江、草津へと手渡しする。

水江は受け取りつつも、試験の合否に影響が出ないのか心配しているようで、困惑した顔を浮かべながら福山の顔を見上げた。

「これは? ……貰っても大丈夫なのでしょうか?」

「え? ダメなの? 俺たちだって一時間か二時間おきには水分補給をしてるし、むしろ君たちの方から水やらなんやらを要求されないことに驚いてたんだけど」

「そ、そうですよね、失念していました」

福山の正論を聞かされた水江はすぐに納得したように黙り、水筒の水を少しずつ飲んでいく。

他の二人は少しずつという概念がないのか、ごくごくと勢いよく飲んでいた。

(なんとなく、この試験の全容が掴めてきたぞ。チーム、と最初に言ってたことから、この五人はあくまで一つの完成されたパーティーとして考えられているんだな)

テンジは福山の言動でようやく試験の流れや目的について理解し始めていた。

通常、サブダンジョンでは五人から十人程度の小規模なレイドを結成することが推奨されている。または、パーティーとも呼ぶ。

その中で最もバランスがいいとされているのは、盾役、攻撃役、攻撃役、支援役、支援役だと言われている。

盾役と攻撃役の三人でモンスターを倒していき、支援役二人が彼らのサポートを分厚くする。その支援には荷物を持つことや、指揮すること、強化や治癒の能力を使用することが含まれている。

(今に思えば、草津さんが盾役で水江くんが攻撃役、立華さんも攻撃役という構成になっている。そして、僕と福山さんが支援役か……バランスがいいな)

あきらかに計算されて組まれたであろうパーティー構成にテンジは驚く。

(それにしても……福山さんという支援役の信頼感が強すぎるけどね。あと僕という支援役の頼りなさもおかしいよね)

バランスは良いのだが、支援役の二人だけは少し歪だなぁ、とおかしく思うテンジであった。