軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第34話

あれからすでに一か月が経過していた。

テンジは無事に学校の講義へと復帰し、順調に学生生活を楽しみ始めていた。

復帰後初めての登校で、教室に入った途端に朝霧愛佳にうわんうわんと泣きつかれてしまったテンジであったが、同じクラスメイトたちが何とか彼女をあやしてくれた。

朝霧も日本探索師協会からテンジが置き去りにされたことを他言しないように聞かされていたようで、泣きながらもそのことだけは触れないようにしていた。

とはいっても「良かったぁ~」と何度も何度も泣きつかれてしまい、後々二人は付き合っているんじゃないかと噂が立ってしまう。

朝霧はその整った容姿で学年では人気者の女性だ。テンジはなんとか誤解を解きつつ、一か月経った今では「不運なやつ」として知られるようになっていた。

ちなみに天職が発現したことについては先生以外に話しておらず、高校一年生で探索師の表層を学ぶ段階だったこともあり、学校で変に騒がれるようなことはなかった。

テンジと朝霧、累の三人は三日間だけ公休を取得し、チャリオットの亡くなった八人の正規メンバーたちの通夜と告別式に参列したりもしていた。

探索師たちは慣れた様子での参列だったが、テンジや朝霧、累にとっては初めてのプロ探索師の葬式だった。

今回は三人とも部外者ではなかったのと、五道さんのお願いもあって参列することにしたのだ。

葬式のあとには、チャリオット流の別れ方というギルドの式に参加することとなった。チャリオット流とは、葬式のような悲しみを分かち合う伝統儀式ではなく、探索師らしく酒を献杯して見送ってやる、というスタンスのお別れ会だったのだ。

場所はチャリオットの所有している事務所ビルを貸し切った豪華なものだった。

どうやら探索師にとっては死が身近な物なので、しみじみするよりもこうして明るく振舞う方が今後の心の在り方を保てるようなのだ。

そうしてチャリオット式のお別れ会も終わり、その後はあのレイドに参加していた探索師を全員連れて五道さんが豪華な焼肉へと連れて行ってくれた。

テンジは事前に言われていたこともあり、そこから妹の真春も参加させてもらえることとなったのである。

それは「お疲れ会」と称し、五道が全員を労うために開催した会であった。もちろんすべて五道の奢りであり、テンジと真春は容赦なく高級肉を食らった。

そんな兄妹二人はチャリオットから後に「財布喰らい」と呼ばれることになるのだが、五道は笑顔を引きつらせることなく余裕綽々に払ったらしい。

「ただいま~」

そんな財布喰らいの一人であるテンジが学校から帰宅した。

貧乏兄妹は以前に600万円も手にしたため、少しばかり食費に余裕ができている。そのため二人の顔色は以前よりも良くなっており、どこか楽しそうにも見える。

「お兄ちゃ~ん、何か荷物届いてたから受け取っておいたよ!」

玄関で靴を脱いでいると、リビングから真春のそんな声が聞こえてきた。

その言葉を聞いて、テンジは表情を一気に明るくさせていた。「荷物」が届く覚えなど、テンジには一つしかなかったのだ。

ドタドタと慌ただしい足音が家中に響き渡り、テンジは勢いよくリビングの扉を開けた。

「ど、どこ!?」

「なに、どしたのお兄ちゃん。そんなに慌てちゃって」

「に、荷物は!?」

「あ~、机の上に置いてあるよ。何あれ、超おっきかったけど」

真春の「一体何を買ったんだ」という痛い視線を浴びながらも、テンジは机の上に置いてあったひと際大きな段ボールを見つけた。

すぐに文房具入れからハサミを取り出し、ガムテープに切り込みを入れていく。

「なになに、そんなにはしゃいで。貧乏なのに何を買ったの?」

「そんなにケチケチ言わないでよ。これは五道さんからあの500万円で買うように言われたんだから、仕方ないって」

「五道さんに? なになに真春も気になる」

真春は兄の方にぴったりと肩をくっつけ、テンジと一緒に段ボールの中身を覗き込む。

ちょうどテンジもハサミで切り込みを入れ終え、力づくで段ボールを空けた。

そこには発砲スチロールやプチプチに包まれてはいたが、テンジが学校を経由して入手したとあるアイテムが綺麗に梱包されていた。

それを見て、真春が「げっ」と声を上げる。

「いいだろ~。ついに兄ちゃんは武器とスーツを手に入れちゃいました、もちろん学校経由で格安入手してますとも!」

テンジは妹に自慢でもするかのようにふんぬと鼻息を鳴らし、ゆっくりと武器とスーツを箱の中から取り出した。

武器は《剣士》に偽装できるように格安の五等級剣アイアンソードを買っていた。

五等級と言っても10万円はくだらないので、天城家にとっては痛い出費と言えるだろう。

見た目は西洋剣に近く、装飾や特殊な金属なんかもほとんどない。それでも威力や切れ味は申し分なく、四等級レベルのモンスターまでなら戦うことができる一品である。

とはいってもいざとなればあの「赤鬼刀」を出せばいいので、これはあくまで自分の天職を《剣士》として周囲を欺くようなのだ。

そして念願のインナースーツだ。

これはプロ探索師ならば誰でも着用しているような装備品であり、テンジはその中でも青色をした四等級のインナースーツ上下を買い揃えていた。

そう、朝霧愛佳と同じ等級のものを買ってしまったのだ。値段で言えば上下合わせて44万円、ちょっとお高いのだがこればかりはテンジの天職でもまだ手に入れられていないものだったので、必要出費内であろう。

本来であればこれらを普通に買い揃えるともう5万円か10万円は高くついてしまう。しかし、そこは日本探索師高校の出番だ。

先生に頼めば、協会から格安で卸してもらえるのだ。生徒にとっては一種の権利と言っていいだろう。

テンジはそれを駆使して、最安値で購入していた。もちろん何度も何度も値引き交渉したのちの値段がこれなのである。貧乏兄妹は誰にも負けない値引き術を持っているのだ、あなどるなかれ。

ただ、それを見た真春の瞳は輝きを失っていた。

「え~、お兄ちゃんだけずるい! 真春も高校に入ったら買ってね!」

「お兄ちゃんは自分で稼いだんだ。真春も自分で稼げるようになったら買うんだよ」

「え~、ケチんぼお兄ちゃん」

とは言いつつも、絶対にテンジは妹に無理をしてでもスーツを買ってあげるだろう。

妹に優しいという性格もあるが、それ以上に自分のようにスーツが無くて後悔するような探索師生活を送ってほしくないという理由も大きかった。

真春にはテンジとは違って勝ち組の固有アビリティ《炎天下》という特殊な能力が備わっている。今は訳あってとあるアイテムで封印しているのだが、封印を解除すれば真春の才能は末恐ろしいものなのである。兄として妹の将来を期待せずにはいられないテンジであった。

「あ、そういえばお兄ちゃん。また稲垣さんのお家からハム届いてたよ? ほんと、何したのさ?」

「また? 金持ちは本当に食べ物を送るのが好きだよね。でもまぁ、食費が浮くからありがたいけど」

稲垣ということは、もちろん稲垣累からの送りものである。

累は同じクラスなのだが、協会から他者への口外を禁じられていることもあり、進んで自分からはテンジに話しかけようとはできなかった。

とはいっても体育の授業や移動教室でことあるごとにテンジを誘い仲直りをしようと努力しているので、周りの腐女子からは良い獲物として見られているのだ。

テンジはそういった経緯もあり、少しづつだが累を許せるようになってきていた。二人の仲はもはや時間が解決する問題になっていたのだ。

「そういえば朝霧さんのお家からもゼリー届いてたよ? もしかしてお兄ちゃん学校では人気者だったり?」

「いや、別に普通の生徒のつもりけどね。その二人はまぁ……縁があったからかな?」

「まぁ真春はたくさん食べられるから何でもいいけどね」

真春は嬉しそうにふふふんと鼻歌を歌いながら、二つの贈り物を大雑把に開けていく。

そして物色するや否や、すぐに蜜柑のゼリーに手を伸ばしぺろりと平らげてしまった。

テンジはその様子を見て、成長期なんだからもっと食べていいよ、と思うのであった。

「よし、僕ももっと頑張らないとね」

テンジは武器を見つめながらそう呟いた。

水橋の言っていた一か月がもう過ぎようとしているのだ。

すでに報道やマスメディアは他の情報へと切り替えており、御茶ノ水ダンジョンや五道、巻き込まれた日本探索師高校の生徒三人についての話題はほぼなくなっていた。

一時期、高校内では「申請が通らない」と話題になっていたが、最近ぽつりぽつりと「申請が通った」という話を耳に挟むようになっていた。

もうそろそろテンジたち日本探索師高校の生徒のダンジョン入場が完全に解禁されるころだろう、とテンジは睨んでいたのだ。

例え五道から身に余るお金を貰ったところでその場しのぎにしかならない。

やはりテンジは荷物持ちとして、それか、五等級天職の《剣士》に目覚めた仮免探索師としてこれからもダンジョンに潜り続けなければならないのだ。

ただ今のテンジは前までのテンジとはまるで違う。

特級天職《獄獣召喚》を操る探索師の卵なのだ。

まだ本領は発揮できていないように思えるが、それはまだ天職のほんの一部しか能力を発揮できていないとも捉えられる。

やっとここからテンジの本格的な成長が始まるのだ。

その兆しはすでに見え始めていた。