軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話

「……天職って偽装できるんですか?」

『基本的にはできないよ? そもそも天職を偽装する人なんてあんまりいないからね、いることにはいるんだけど。と、こんな話はどうでもよくてね』

「は、はい」

『たぶんテンジ君の天職は、協会の持つ「天職測定樹」では判別できないんだよね。リオンがそれを渡したってことは、たぶんそういうことなんだと思うよ。あぁ、ちなみに言っておくよ僕は基本的に何も知らないからね? リオンはいっつも口数少ないから、行動から推測するしかないんだ』

最初はドキリと胸が鳴ったけど、海童の知らないという言葉にどこかホッとしてたテンジ。

それでもほんのりと推測されているんだとは、気が付いた。

「僕の天職が判別できないことと、この青い石に関係があるんですか?」

『そうそう、リオンも昔苦労したんだけど……天職測定樹は天職が判別できない場合、天職なしと記録するんだ。そうなると、探索師を目指す君にとっては不便だよね?』

その言葉にテンジは思わず頷いていた。

思えば盲点だったのだ、というかそもそも天職測定樹で測定のできない天職があることを知らなかった。

例え日本探索師高校に通っていたとしても、プロのライセンスを取得するには天職の発現が必要になってくる。

もしテンジがこの青い石『偽装青石』をリオンから受け継いでいなければ、テンジは一生探索師になれなかった可能性もあったのだ。

「た、確かに……そうですね。一つ聞いてもいいですか?」

『うん、僕で答えられることならなんでも質問していいよ』

「天職測定樹が測定できないってのはどういう意味ですか? 学校では聞いたこともない話というか……」

『あ~、それね! それはね、そもそも「天職測定樹」が一等級アイテムということが原因なんだよね。単純な力関係として、一等級より零等級の方が強いよね?』

「あっ、そういうことですか。天職測定樹はその等級よりも高い等級の天職を測定できないってわけですね」

『そういうこと! ……にしても、テンジ君はやっぱり零等級以上の天職を手にしちゃったのかぁ~。これで確証が持てたよ』

海童の言葉に、意味もなくテンジは自分の口を両手で塞いでいた。

単純に口が滑ったのだ。話がうまく、親しみやすい海童の話術にはめられたと言っていいだろう。

「そ、その……」

『あ、大丈夫だよ? リオンが協会にも手を回していたようだし、テンジ君は当分普通の高校生として過ごせるはずだよ。そもそもうちのギルドは過度な干渉を相互に嫌うという掟があるから、僕も君の情報は一切他者に漏らすことはないからね』

「そ、その……やっぱりこれって他の人に話さない方がいいんですか? まだ高校一年の僕ではそこら辺の判断が付かなくて……」

『うん、あまり周囲に話さない方がいいよ。協会が本気になっちゃうからね、そうなると僕たちだけでは擁護することができなくなってしまう』

「協会ですか? それは別に悪いことには思えないんですが……」

『まぁ、君も追々わかってくると思うよ。今はまだ協会を信じてもいいけど、心の底から信じてはいけない。それが世界探索師協会って組織なんだよ』

「……よくわかりませんが、とりあえずあまり信じない方がいいってことですね?」

『そう、今はそれくらいの認識でいいよ。あ~、それとその偽装青石は五等級の《剣士》に偽装できるアイテムだから、協会にも《剣士》に覚醒したと話していいよ』

「剣士ですか、偽装にはもってこいな天職ですね」

『うん、その通り! 剣士には特筆すべき技能もなければ、ただ身体能力が高くなるだけの天職だからね。人前ではスキルをできるだけ使わないように注意していれば、そう簡単に本当の天職がバレることはないと思うよ』

「本当に……何から何までなんと感謝したらいいのか……」

『感謝かい? だったら一つだけ注文してもいいかな?』

「は、はい! ぜひ、僕にできることなら!」

テンジはこの時、感謝できる方法があるのだと思いその話に飛びついた。

しかし、海童の口からは思ってもいなかった言葉が飛び出てくる。

『リオンよりも強くなって。ただそれだけが僕から君にお願いすることかな? どう? できそうかな?』

「僕が……リオンさんよりもですか?」

『そう、それだけがリオンと僕からの望みかな? 正直に言うと、もう僕たちが欲しいものはそれくらいしかないんだよ。金も地位も何もかもを手に入れたリオンに、テンジくんが用意できるものは何もないんだよね。ごめんね? こんな大人げないこと言っちゃって』

「い、いえ……言われるまで気が付きませんでした。確かにそうですよね、零級探索師のリオンさんに僕があげられるものってなにもありませんよね」

『そう、だから君にはもっともっと強くなって、リオンと立ち並べる存在になってほしい』

「できるかは分かりませんが……やれるだけやってみます」

『うん、期待しているよ! あっ、ちなみに誰にも話さないから聞いてもいいかな? 君の天職について』

「僕のですか?」

『うん、僕の知識で良ければ無償で提供するよ。あ~、こんな電話だと会話が漏れる可能性があるね。それじゃあ、入院が終わったらうちのギルド事務所においでよ! そこで色々と話さないかい?』

「いいんですか!? ぼ、僕なんかが!?」

『いいも何も僕から誘ってるからね! 来ちゃいなよ! 僕も一度テンジ君の顔を見てみたかったしね!』

「で、ではお言葉に甘えさせていただきます」

『うんうん、そうしよう! それじゃあ入院が終わったらまた電話してくれるかい? こっちは大体暇だからいつでもいいよ?』

「わかりました。またご連絡させていただきます」

『それじゃあ、また会おう!』

そうして海童との電話が終わった。

結局、テンジは言葉で感謝できても形として返せるものが無くなってしまった結果になっていた。

それでも海童という人物と話せて、心の底から良かったと思えるテンジであった。

ただ、一つ疑問に思っていることもある。

「なぜ僕なんかを……」

なぜ僕なんかをこれほど気遣ってくれるのか、それだけが腑に落ちていなかった。

とはいっても一人で考えて答えが見つかるような疑問でもないので、今日も今日とて暇をつぶすために日課を始めるのであった。

テンジが入院生活を始めてから、新たにいくつかの日課を始めていた。

一つは、日に日に増えていく経験値を記録していく作業だ。

大体、毎日15時を目安にスマホのメモ帳に記録することにしている。

天職を手に入れたのはちょうど10日前。その日から経験値の欄は「128/1000」へと変化していた。

おおよそ24時間で平均12の経験値を得ていることになる。それも小鬼は一切の休息を必要としていないのか、朝でも夜でも変わりなく経験値が増えているのだ。

このまま行くとあと73日でレベルが一つ上がる計算だ。約2か月と少し長いような気もするが、何もしていないのにこつこつと上がるのはずるをしているような気分にもなる。

そしてもう一つ始めた日課が運動だ。

あの地獄クエストのような地獄トレーニングがいつ発生するのかもわからないため、日々激しい運動を病院のすぐそばに隣設されている公園で始めていた。

その運動は今まで日課でしていた運動よりもかなりハードめの内容となっている。

その運動の中でテンジは攻撃力が50も増加した恩恵を肌身でしっかりと感じていた。

例えば腕立てだ。

「……1000っ!」

全身汗だくになりながらも、テンジは人影の少ない芝生の上でそう叫んだ。

今までは100から200も休みなしでできれば調子のいい日、50くらいで力尽きれば調子の悪い日だと判断していた。

それが今では1000回くらいはできてしまう。

テンジは芝生の上にあおむけで寝ころびながら、はぁはぁと息を荒げていた。

「今日……やってみようかな」

息が整ってきたところでテンジは空に向かって呟いた。

この一週間でずっと考えていた地獄領域の「1/2」という数字。

おそらくこれは召喚できる地獄獣の数なのではないかと推測していて、すぐにでも召喚できるか確かめてみたかったのだ。

しかし、御茶ノ水ダンジョン前総合病院は真夜中でも通常通りに営業をしているため、人目を盗んで外に出る方法がなかった。

普通に外に出ようとすると、例え検査入院だとしても「天城さんはダメですよ! 協会からそう言われているんです!」と断固として拒否されてしまうのだ。

だからこの一週間、テンジはどうやって外に抜け出せるのか看護師たちの仕事ぶりを観察していた。

そして、今日その脱走を実行すると決めたのだ。

「さて、今坂さんにがみがみ言われる前に帰ろう」

テンジは汗だくになった体をタオルで拭きながら、病院へと帰っていく。

そうして夜はあっという間に訪れた。

テンジはベッドに大量のタオルを突っ込み、人が寝ているような形を築き上げていく。

そして、足音を鳴らさずにそっと病室を出ていく。廊下に出て、エレベーターを使わずに廊下を下っていき、病院の裏口を目指す。

表口には当たり前のように看護師たちや受付嬢が仕事をしているため、抜け出すには不向きな場所であるのだ。そこでテンジは一般人でも出入りできそうな裏口を探し、見つけたのだ。

周囲を確認しながら、テンジは病院をバレることなく抜け出した。

そのまま全速力で病院の敷地内を駆け抜け、隣接している公園へと移動した。

「ふぅ、上手くいった。それに今日は今坂さんも休みの日だったし、誰にもバレることはないはずだ」

なんだか監獄から脱走を試みる犯罪者みたいだな、と思いふと笑うテンジであった。

そうして誰もいない、誰も夜には近寄らない公園の林の中で立ち止まった。

「よし、二体目の召喚の検証だ」