軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第20話

テンジは物色するような鋭い目つきで、手の中にある二つのアイテムを観察していた。

それは「赤鬼シリーズ」の武器であり、閻魔の書の文言からも、おそらくこのクエストを完全に攻略した暁に手に入る武器たちであることは明白だった。

検分するような目つきが、さらに鋭くなっていく。

赤鬼シリーズの一つ目、赤鬼刀。

その姿は日本刀のように反りがあり、片刃の長い刀だった。刀身の峰は黒く薄光りしていて、そこから刃先にかけて赤い特殊な鉄色へと変わっていた。

柄には深い緋色の布と紐が巻き付けられており、鍔には閻魔の書の表紙に似た鬼の文様が彫られていた。

赤鬼シリーズの二つ目、赤鬼リング。

それはいわゆる指輪だった。ほぼ真っ赤に染まった鉄の素材に、鬼を彷彿とさせる小さな二本の角が施されている。

こういったアクセサリー装備品はダンジョンでも稀に見つかるので、テンジも「何かの効果があるのだろう」と薄々気が付いていた。ただアクセサリー系のアイテムは驚くほどに高価な値段が付くので、貧乏であるテンジには縁のないものであったのだ。

それが今まさに手元にあることで、自然と笑っていた。

「僕がついに自分専用の武器とアクセサリーを……感慨深いな」

そう呟いてすぐのことだった。

ガサガサと近くの茂みが揺れ始め、その音をテンジが察知したのだ。

テンジはすぐに興奮気味の気持ちを抑制し、茂みに向かって刀を中段で構えた。構えたと言っても、それは素人の構えであり決して達人のような気迫は感じられなかった。

それでも得物を手にしたことで、自分が強くなったとほんの少し錯覚する。

「…………おん?」

茂みの先から現れたのは小さな鬼であった。

テンジの腰より少し高いくらいの身長で、肌色は日本人の黄色に近く、ほんのりと赤みを帯びている不思議な肌色をしていた。

ボサボサな短髪はほとんど赤色をしているが、所々に黒いメッシュが入っている。その髪の隙間から2cmほどの小さな紫色の角が生えており、小鬼の瞳も紫色をしていた。

パッと見での姿は「鬼」というよりも「人間の子供」という表現が近い気もするが、よく見ると明らかに鬼であるとわかる雰囲気をもんもんと醸し出していた。

紫色の瞳は、五等級の証のようなものだ。

「こ、これが……五等級の赤鬼。思ったよりもちっちゃかった」

その姿を見て、テンジは少し拍子抜けな感情を抱いていた。

しかし、それはすぐに否定されることになる。

「おん?」

何かをテンジに問いかけているらしいが、「おん」という言葉だけでテンジが理解するのは難しかった。

不意に頭を傾げた小鬼は、再び「おん?」とテンジに問いかける。

(全然何を言いたいのかわからない……それどころか無表情すぎて何を考えてるのかすらわからない)

その間、テンジはただずっと赤鬼刀を構えて動くことはなかった。

どうこのクエストを攻略するべきなのか推し量っていたのだ。

クエストのクリア方法は二つあった。

一つは三時間逃げ切ること、もう一つは赤鬼を倒すこと。

このどちらを選択するべきなのか迷っていたのだ。手元には後者のクリア方法を実現できるだけの武器がある。それがテンジの判断を鈍らせていた。

「おん!」

小鬼が怒ったように叫んだ。

すると小鬼の小さな二本の角が淡く輝きだす。

それを見たテンジは思わず一歩後ずさった。

「おんおん!」

小鬼はさらに怒ったように叫ぶと、すぐ近くにあった極太の樹に片手を触れた。触れた指先が、木の幹へと食い込んでいく。その途端、メキメキと樹から鳴ってはならない音が森に響き渡り、次の瞬間には小鬼が片手でその樹を軽々と持ち上げていたのだ。

その様子を見て、テンジの体中から嫌な汗が流れだした。

「ご、五等級じゃなかったのかよ!?」

テンジの目から見て、その小鬼の力は明らかに五等級のそれを超えているように思えたのだ。

普通の五等級モンスターは、必死になれば大人二人で倒せるくらいだと言われている。

だから、テンジもその指標を目安にして、これは五等級のモンスターと同格の存在なんだと区別していた。

しかし、実際は違った。

あきらかに五等級を上回る力を見せつけられ、テンジは動揺していた。

突然目の前の巨木が片手で振り上げられ、体が硬直していたのだ。それでも次の瞬間には体の硬直が解かれ、僅かに目尻から涙を溢しながら逃げるように走り出した。

(無理、無理、無理! これはさすがに武器があっても無理だから!)

背後からはメキメキと音が鳴り続け、テンジは何度も後ろを振り返りながら全速力で走り続けた。

すでに小鬼の姿は見えておらず、小鬼が持つ巨大な樹の動きだけが見えていた。

何度か横へと逃げるように走ったが、小鬼はまるでテンジの位置を把握しているかのように巨木をテンジのいる場所へと振り下ろそうとする。

そしてかなり逃げ走ったとき、ついにその巨木が振り下ろされた。

聞きたくもない空気を裂く轟音が響き渡り、小鳥や小動物たちが逃げ惑う。

テンジのいる位置は巨木に押しつぶされるかどうかという絶妙な立ち位置だったこともあり、ゆっくりと振り下ろされる巨木の影を観察しながら、必死に走り続けた。

そして――。

巨木がすぐ目の前まで迫っていた。

巨木の真正面は避けることができたが、いくつもの太い枝がテンジを絡めとろうと降りかかってきた。

「うおぉっ!?」

テンジは咄嗟に後ろへと振り返り、手に持っていた赤鬼刀を正面で防御するように構えた。

赤鬼刀は次々と降りかかってくる木の枝をいとも簡単に斬り裂いてしまい、ついにはすべての枝を斬り伏せてしまったのだ。

その切れ味と耐久力に驚きつつも、テンジは慌てて次の攻撃に備えて走り始めるのであった。

† † †

テンジが必死の形相で走り続けて、もうそろそろ三時間が経過しようとしていた。

すでに体中には枝に刻まれた切り傷が無数にあり、深い傷跡もいくつか見受けられる。それこそ死ぬほどの血は出していないが、時々立ち眩みしてしまうほどには血を失っていた。

憔悴しきった表情を浮かべながら、テンジはあの小鬼と対面していた。

「……三時間ぶりだな」

「おん」

その言葉遣いからは、小鬼に対する恐怖と怒りを感じる。

それでもテンジが小鬼の前に現れた理由、それはテンジのすぐそばを常に浮遊していた模造品の閻魔の書のカウントが『残り:3秒』と表示されていたからである。

そう、あと3秒でテンジの勝ちが決まるのだ。

しかし、まだ3秒もある。

小鬼はテンジの姿を見つけた瞬間、テンジの目では負えない速度で駆け出し、何もない手を鋭く手刀のように変え、切迫していく。

その時だった。

カウントが0に変わった。

《領域達成条件その3の終了を確認しました。お疲れ様です》

そのアナウンスが鳴り響くと同時に、小鬼はまるで充電が切れた機械のように立ち止まり動かなくなってしまったのだ。

その様子を見て、テンジは心の底から安堵の溜息を溢した。

「はぁ、なんとか生きてたけど……体中が痛いよ」

まるでその呟きが聞こえていたかのようにタイミングよく小鬼がゆっくりと顔を上げた。

その表情は先ほどまでの怒り狂った本物の鬼のような顔ではなく、ただの子供にしか見えない無邪気な顔だった。

思わず膝から崩れ落ちてしまいそうな変わりようにテンジは不思議に思っていると、小鬼がゆっくりとテンジの方へと歩み寄ってきた。

さすがに今まで生死を賭けた鬼ごっこをやっていたため、反射的にテンジは後ろにバックステップを踏み、赤鬼刀を構えて戦闘態勢をとる。

しかし――。

「おん」

そんなテンジを気にする様子もなく、小鬼は五メートルほど離れた場所で地面に片膝をつき、両手を胸の前で交差させ、まるでテンジを主として認めたかのように懇願の目を向けたのであった。

テンジは再び訳の分からない光景に動揺を見せる。

その時であった。

《続いて、条件その4:膵臓を実行してください。小鬼の頭部に手のひらを置き、氏名を述べた後に『膵臓を担保とし、契約を履行する』と発声してください。それが終了次第、天城典二は地獄獣『小鬼』との契約が成立し、以降「召喚可能な地獄獣」として登録されます》

「膵臓を担保にする? どういうことだよ」

意味が分からない契約を突然突き付けられ、テンジは思わず聞き返していた。

しかしアナウンスが反応することはなく、ただただ静かに木々の揺れる音だけが二人の間に木霊していた。

小鬼もジッと主を見るような紫色の瞳を輝かせて、ずっと待ち続けていた。

「わからないけど、やるしかなさそうだな。どうせクエストをクリアしない限りここからも出られそうにないんだ」

そう、今回のアナウンスに制限時間は存在しなかったのだ。

ということはこのままずっと契約せずにここに放置される可能性もあった。それにこの「小鬼」を召喚できるというのだ。それはテンジにとって都合がよかった。

もしテンジが今後もこの小鬼を召喚できるのならば、一人で地上に帰還できる可能性が最も高いのだ。

契約内容はわからないけど、膵臓の担保一つで生きて妹の元に帰れるのならそれだけでも十分かもしれない、と考えたのだ。元々臓器の一つや二つ、妹のためなら失ってもいいと考えていたから、決意できたのかもしれない。

テンジはゆっくりと小鬼の前に歩み出て、そっと手のひらを小鬼の真っ赤な髪へと置いた。その感触は思っていたよりもふさふさで、まるで妹の髪質を思い出す具合だった。

ふぅ、と息を吐いて決意を固める。

「天城典二は膵臓を担保とし、契約を履行する」

その瞬間、テンジと小鬼の間に運命の糸が結ばれた。

最初の地獄獣である赤鬼種:小鬼を使役することに成功したのである。

ここからテンジのすべてが始まる。