軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第188話

両手で必死に刀を押し返そうとする白亜のモンスター。

対して、ありったけの根性を炎刀に宿して首を断ち切ろうとするテンジ。

両者の魂が、叫びが――

火花を散らす。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああッッ!!!!」

「ルォォォォォォォォォォォォォォォオオッッ!!!!」

テンジの新たな炎刀。

名前も、効果も、その実態も、何もかも不明な武器。

それでもたった一つ、これだけは信用できると分かっていた。

酒呑童子が言った通り、これは王の一振りだということだ。

それはこの刀を手に持った瞬間から分かった。

願えば叶う――王が欲すればそれに応えてくれる。

表面的に効果の書かれた赤鬼刀や炎鬼刀なんかとは、まるで比べるられない存在感と強さを持った炎刀だということを知った。

もちろん願えば何でも叶う、なんて表しつつも本当に全てが叶うわけではない。

それ相応の“気持ち”が要求される。

“代償”が要求される。

“願いの強さ”が要求される。

だから、テンジは心の底から願った。

「酒呑童子ッ! もっと……もっと僕に力をよこせ!!」

鬼気迫る鍔迫り合いの中、テンジは魂を振るわせて叫んだ。

これは比喩でもなんでもない。

実際に両者間では、嵐のように火花が散っていた。

他者を寄せ付けないほどの激しい衝突が繰り広げられていた。

ククククッ、と再び笑い声が聞こえてくる。

『まだお前にその資格はない』

返ってきた答えは、否定だった。

その返答に僅かに気持ちが揺らぐ。

テンジは自分で自分の唇を噛みしめ、どうすればいいのだと悔しそうに顔を歪めた。

このままでは奴の異常な自己治癒能力で炎刀が押し戻されてしまう。

間違いなく、僕は負ける。

力が足りない。

もっともっともっと――僕に力があれば。

何か方法はないのか。

今の僕はあの日の弱かった僕じゃない。

ただ弱音を吐いて死ぬだけの僕はもういないんだ。

その瞬間、僅かにテンジの瞼が大きく開いた。

これならいけるかもしれない、そんなひらめきが浮かんだのだ。

「契約だ、酒呑童子ッ!」

それは地獄獣たちと結んできた、契約内容の不明な『契約』という行為だった。

テンジが契約を結んだのは小鬼と炎鬼、雪鬼の三体のみ。

酒吞童子とはまだ、契約は結んでいない。

テンジのその言葉を聞いた酒呑童子は、あまりにも滑稽な未来の王に対して腹を抱えたような笑い声を響かせた。何かをバシバシと激しく叩くような音も同時に聞こえてくる。

あきらかに馬鹿にしたような笑い声だった。

甚だおかしいと言わんばかりの大笑いだった。

自分を嘲笑している酒呑童子の気持ちなどお構いなしに、テンジは再び言い放った。

「僕の臓器をなんでも一つやる! だから、力を貸せ!」

ひとしきり笑った酒呑童子は、ふぅと酒吐息を一つ。

そのままゴクゴクと何かを飲んでいるような喉の音を響かせると、ほんの少しの間のあとに口を開いた。

『足らんな』

考える余地もなく、一蹴だった。

まるでお前は理解していないと言いたげに、溜息までついてくる始末だ。

テンジは必死にモンスターと競り合いながら思考を巡らせた。

酒呑童子が欲しているモノはなんなのか。

あいつはテンジが契約だと言ったあのとき、その言葉を否定はしなかった。

完全否定しなかったということは、契約の余地はあるということだ。

だったらあいつはテンジの何を望んでいるのだろうか。

今までテンジがこの【獄獣召喚】と過ごした中でのヒントを、必死に脳内で整理し、糸口はないかと探し始めた。

何か、何か必ずヒントはあるはずなのだ。

不意に、テンジの脳内には覚醒から今までに起こった出来事が走馬灯のように流れ出し、いくつもの言葉を思い出す。

訳も分からず放置していた言葉たちが流れ込んできた。

――未来の主よ。

――王と成れ。

――地獄の王因子。

――力を貸してやろうか? 未来の王よ……いや、 小(・) 僧(・) 。

テンジはまだ『王』に成れていない。

王が何なのか、テンジの中での明確な回答はない。

それでも酒呑童子ほどの地獄獣を使役するには、テンジが王と成る必要があるのかもしれない。

だけど――今のテンジにその資格はない。

酒呑童子は確かに未来の王という言葉を否定し、テンジのことを「小僧」と呼んだ。

まだなんらかの条件が満たされていないのかもしれない。

(だったら、なんで酒呑童子はこのタイミングで僕の元に現れた?)

必死に、それでもモンスターにこの優位を押し返されないように首を断ち切ろうと力を籠め続ける。

そんな時だった。

モンスターの額に、薄っすらとした傷のようなものが目に飛び込んできた。

(これは!?)

生まれたばかりのモンスターに古傷なんてあるわけがない。

だったらこの国で唯一、こいつに傷を与えられるのはリィメイ学長しかいない。

リィメイを思い出した瞬間、テンジは勢いよく目を見開いていた。

酒呑童子が何を要求しているのか。

それが分かったのだ。

――私は……喜怒哀楽、四つの感情がどんなものだったかもう忘れたわ。

――あの死にかけた日、テンジはどことなく『代償』と似たような行動を取っていた。

代償、だ。

酒呑童子が求めているモノは間違いなく代償だ。

まるであの日の再現をやれ。

そんな酒呑童子の強い意志をテンジは感じ取った。