軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第182話

ギルド【Chariot】――。

その中で『団長』の肩書を持つ齢29歳の女性が九条霧英という傑物だった。

普段は大人向けファッション雑誌の専属モデルとして芸能方面でも活躍するほど、整ってキレのある容姿を持つ女性だが、その本業はダンジョン内での殺生を司る探索師。モンスターを殺すプロであり、プロ探索師の中でも曲者揃いの探索師たちを束ねるリーダーとして日々才能を振るっている。

なぜ、まだまだ若い29歳の女性である九条に皆がついていくのか。

ダンジョンが世界に現れ始めたのが24年前のことで、その当時彼女はまだ5歳の子供だった。今の時代でギルドの団長や総隊長と言えば、第一期ダンジョン時代にから活躍した、いわゆる古株ばかりが名を連ねている。その中でも29歳という若さで頭角を現したのは、世間から見れば異常な光景に見えていたのだ。

そんな疑問を持つ素人も野良の探索師もたくさんいる。

傍から見れば「美しい探索師」や「顔だけの探索師」なんて玩具のような視線を向けられることもしばしばある。マスメディアにとっては最高のエサだろう。

だが、彼らは九条が戦場で戦う姿を見たことがないだけなのだ。

九条霧英はただ顔が良いだけの探索師ではない。

探索師として誰もが欲しがるような才能の塊、それが九条団長という女性である。

世界では珍しいことに個人の潜在的な能力《固有アビリティ》を二つも有し、天職も戦闘系の中では最高クラスの《一等級》モノ。恩恵なし、素での身体能力も化け物じみており、時代が違えば間違いなく世界クラスのスポーツ選手に成れただろう。

そしてなによりも――直観力や五感などの戦場把握能力が桁違いに鋭かった。

九条と一度でも戦場で友人になった探索師は、彼女のことをよくこう語る。

『――九条霧英は探索師になるために生まれてきた、化け物ですよ』

そんな化け物が、テンジの前でようやく化けの皮を脱ぎ始めた。

「四時方向から三体……大型2,中型1だ。炎、殺れ」

「任せろ」

森林の中、子飼いモンスターの群れの合間を華麗に進みながら、九条は一番後方を走っていた炎へと視線を向けずに声だけで指示を出す。

テンジや冬喜、ましてや千郷にさえ右後方から何かが襲ってくるような兆候は感じ取れていなかった。もちろん炎でさえ何も感じ取れていない。

そっちへと視線を向けてみるが、やはりただただ木々が続く森があるばかり。モンスターの息遣いも、足音も、殺気のような肌感覚も、何も感じない。

(もしかしてこれが……)

それでも九条団長がいると言ったらそこからモンスターがやってくるのだ。

これがこのチームで定められた一つの約束だった。九条団長が言うことは、必ず起こる。

そして――、

「ルィィィィィィイイッ」

「ルァァァァァァァァアッ」

「ルォォォォォォォォオッッ」

その言葉通り、十数秒後には三体の子飼いモンスターが藪の影から飛び出てきたのだ。

すでに攻撃スキルの準備を整えていた炎は、それを視界に捉えるよりも早く中距離攻撃スキル『溶岩力』を発動していた。

炎の右手の平の中にはすでに三つの小さな溶岩が生成されていた。

それをぽいっと何気なく空中に投げ出すと、三つの溶岩が爆発的に巨大化、勢いよく三体の子飼いモンスターへと襲い掛かった。

ジュワッ、と。

影も形もなく、子飼いたちは焼け焦げて消し炭へと変わったのであった。

その戦闘に一度も目を向けることなく、九条は淡々と森を駆けていく。

後を追うように冬喜とテンジが並んで走り、その後ろを千郷が走っていた。そして最後尾を経験豊富な炎がカバーするように突き進んでいく。

ここまで走ってきた道中で、子飼いモンスターとの遭遇はたったの三回のみ。

あれほど湧いていた子飼いの群れを、九条団長の指示一つ聞くだけで、これだけ戦闘を回避できているという事実にテンジは尊敬の念を抱いていた。

(これが……チャリオットの団長、九条霧英さんか。五道さんに昔聞いたことはあったけど、これが例の固有アビリティ《 盤上の監視者(チェス・メイト) 》……ヤバ過ぎるよ。もはや未来予知に等しいレベルだ)

九条が持つ固有アビリティの一つ、《 盤上の監視者(チェス・メイト) 》。

戦場をチェスの盤面のように上から感じ取ることのできる超五感能力で、彼女を知る探索師たちからは第六感なんて呼ばれていたりもする。

周囲数キロは九条の盤面の上であり、手のひらの上なのだ。

「十一時方向に休息中の個体が二体。冬喜、いけるか?」

「はい、任せてください!」

「私の指示するタイミングで撃て、いいな?」

「はい!」

そして――、

まだ子飼いの姿も見えていない場所から九条は数ミリ単位で冬喜の銃口を調整させると、小さな声で「撃て」と言った。

冬喜は半信半疑の中でも、指示された通りの方角、威力、角度で黒い狙撃銃を撃ち放った。

幻獣『シャドースナイパー』には壁や木々なんか関係なしに攻撃できる能力があることを事前に聞いていた九条は、あえてあちらから視認されていないこのタイミングで放つように指示を出していたのだ。

「ルォッ!?」

「ルィッ!?!?」

遥か遠くの場所から子飼いの悲鳴のような音が微かに聞こえてきた。

そんな様子を感じ取ったのか、九条は冬喜へとこう言った。

「良い腕だ、成長したな冬喜」

カッコよすぎる団長の背中に、テンジは思わず見惚れていた。