作品タイトル不明
第178話
撤退した彼らに対し、子飼いのモンスターたちは追撃を仕掛けてこなかった。
それどころか一定の境界線を超えたあたりから、ぴたりと追ってくることがなくなったのだ。
なぜか――それはまだ解明されていない。
しかし九条はこうなるのではないかと推測を事前に立てていた。
八年前に現れた零等級モンスター『 石化の魔女(ストーン・ワンダー・ゼロ) 』の子飼いは、本体より半径三キロ以上は離れることのできない性質を持っていたのだ。
その資料を事前に調べていた九条は、この子飼いたちも一定の距離以上の追撃は出来ない可能性があると判断していた。
だからこうして、一時撤退という作戦に踏み切ったのだ。
「さて、どうしたものか……」
九条は崖上のチャリオット拠点に戻ってきたギルド隊員たちの無事な顔を見て、今後の行動に思考を割いていく。
そんな九条の元に、遠くから一人の探索師がものすごいスピードで近づいてくる。
ふと、九条は視線を上げた。
「やはりアレクも一時撤退したか。おそらく四川の奴らも同じだろうな」
彼らに近づいてきていたのは、アレクのギルドに所属する伝達役の探索師だった。
マジョルカの第20階層以降は階層内でも通信を妨害されてしまう。それはどこのダンジョンでも似たような構造となっており、一定以上のMP原子が充満している場所では通常の通信網はまるで役に立たない。低層ならばともかく、深層ともなると通信機は石ころ同然の価値しかない。
さきほどオレリアを通じて通信してきたあの方法が、普通ではないのだ。
だが、あの一度以降きっぱりと通信がないことから、あの通信方法も万能ではないということが容易に想像できる。
伝達役の彼は九条たちチャリオット組を遠目で発見すると、進行方向を急転換して全速力で近づいてきた。
「クジョウ! 総隊長より手紙だ!」
息を荒げながら相当な距離を走ってきたであろう伝達役から、九条は「お疲れ」と労いながら小さなメモ用紙程度の紙を受けとる。
すぐに開き、中に書かれた文字を読み取っていく。気になったテンジはおそるおそる盗み見てみたが、暗号文で書かれているのかまるで内容が読み取ることができなかった。
(さすが徹底してるなぁ。モンスターが文字を読む可能性を考えていたのだろうか……よく分からないけど。まだまだプロ最前線は奥が深そうだねぇ)
テンジがプロの芸達者な凄さを実感していたとき、九条が顔を上げた。
そして困ったように稲垣炎へと視線を向けて、訊ねた。
「メイン級モンスターが『何か』を探している、と」
短く、炎に向かってそう伝えた。
「何か……とは曖昧だな」
「そりゃあ、分からんのだろうよ。そもそも何で『何か』を探してるって分かったんだか。あいつ空気読めないのに、モンスターの思考は読めるのか?」
「さぁな。大概、お前も空気は読めないだろ」
「炎には言われたくない」
「それもそうだ」
熟年夫婦のような会話だと、テンジは傍で見ていて思った。
歳は十以上も離れているので夫婦と言うのは違うかもしれないが、世間には十歳以上離れていても夫婦の家庭だってあるので否定はできない。
(まぁ、炎さんは既婚者なんだけどね。なんだか妙に気が合ってる気もする……)
死地を潜り抜けた戦場から少し離れた位置で休息を取っているからなのか、先ほどよりもギルド全体の空気がぴりつかなくなっていた。
緩んでいるとは違うが、ほんのりと安心感が漂っていたのだ。
それが突然現れるまでは――、
『%$R8〇狼×K!‘?LUu……S▽#“!鮫▽LUu』