軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第169話

「召喚――炎鬼刀」

刹那、テンジの手元には激しく燃え盛る赤黒い炎を纏った刀が握られていた。

刀を訓練した通りの千郷直伝中段で構え、目の前にいる子飼いの群れへと切迫していく。

隣に一緒に走る冬喜が、不意に念を押すように言った。

「テンジ! 未知または格上モンスターとの戦い方、覚えてるよね?」

「もちろん! 冬喜くんが教えてくれた!」

「絶対にそれは守るんだよ! 戦いは始まったばかりだからさ」

「了解!」

お互いの意志を確認すると、二人は別々の方向にいる群れへと突っ込んでいった。

二人が同時に同じ群れへと突っ込んでいくと、あえて攻撃威力を控えめにしなければならなくなってしまう。それほど今の二人は成長していて、威力制御が難しかったのだ。

お互いに力をセーブしないためにも、二人は別の群れへと突き進んでいく。

それに合わせて、一部の子飼いたちの視線が二人へと向いた。

「ルォォォォォオッッ」

「ルゥゥゥゥゥウッッ」

「ルェェェェェエッッ」

奇妙な雄たけびを上げながら、子飼いたちは鋭い殺気をぶつけてくる。

その距離、僅か二十メートルほど。

間合いはまだまだ遠い――普通の人間だったならば。

先に動いたのはテンジだった。

「『斬結』ッ」

ぼぅ、と炎鬼刀のおどろおどろしい炎が一段と燃え上がった。

明らかに攻撃性能の高まったそれを、テンジは慣れた手つきで水平に振り抜く。

「ルォッ!?」

「ルィッッッッ」

「ルェェェェッ!?!?」

普通の人間が瞬きするよりも刹那の出来事だった。

モンスターの群れの前列ほとんどの首筋からジュッと焦げるような音が鳴った。

途端、力が抜けたように地面へと体を投げ、群れ全体の突進に大きなブレーキが掛かる。

たったの一振りだった。

炎鬼刀に付随するスキルによる増大火力の一撃によって、その群れの前線が瞬く間に崩壊した。

後方で一連の流れを視界に捉えていた福山は、驚きのあまり目を瞠る。

「は? 一撃?」

周りの戦況をよく見渡していた後衛の福山だからこそ、その異常性にすぐ気が付いた。

この北西から北東を任されているチャリオットギルドを含め、ここから見渡せる範囲にいる探索師の中でも、数えられるほどしかいなかったのだ。いや、片手で十分に収まるだろう。

何が?

目の前に群がる子飼いを一撃で絶ち伏せた探索師の数だ。

九条霧英、稲垣炎、そして黒鵜冬喜と、天城典二。

たったの四人だけが、この場で子飼いと呼ばれる凶悪なモンスターを圧倒していたのだ。

福山は知ったようでいて、何も知らなかった。

その異常さに思わず空笑いだけが奥底から湧き出てくる。

「ハハハッ……異常だよ、君たちは」

まるで福山のその言葉でも聞こえていたかのように、テンジは次の手を打つ。

今でさえもその赤黒く燃え盛る炎鬼刀で圧倒していた子飼いの群れに、さらに追い打ちをかけようと閻魔の書に命令した。

「炎鬼ノ対剣、召喚」

その一言で、テンジの傍にふわりと二本の赤黒い短剣が出現した。

すかさずにスキル『号炎』を発動し、その二本の短剣を自分の支配下に置く。つまり、手で触れることなく動かそうとしたのだ。

「よし、今日は調子が良いね。いけそうだ」

テンジにとってはまだまだ訓練段階の未熟な技術だった。

それでもこの殲滅戦で扱うことができればかなりの戦力になると踏んでいた。

調子が良い日は自分の第二、第三の手足のように扱うことができるが、調子が良くない日はまだまだ扱うことができずに空振りを連発してしまう未熟な千郷直伝の技術だった。

今日という日はモンスターにとっては不運で、テンジというこの戦場での特異点がすこぶる調子が良かった。

ちらりと冬喜を見る。

(冬喜くんも今日は調子が良さそうだね。僕も負けてられない)

隣の群れを天下無双の如く、龍の爪で屠っていく冬喜の姿を見てテンジはもう一段階ギアを上げることに決めた。

戦功とか、討伐数とか、獅子奮迅の活躍とか、そんなことはどうでもいい。

一つ、テンジには不安要素があったのだ。

こんなちんけな子飼いではなく、たった今リィメイ学長が戦っているだろうメインモンスター。ずっと気になっていた白い瞳を持つモンスター。

その正体に妙な不安感を覚えていた。

ただの勘違いならばいい。

そんな漠然としたなんとも言えぬ不安感がテンジの心に燻っていたのだ。

「いや、今は自分の役割に集中しよう。これも僕のやるべき戦いだ、必要な戦いなんだ」

テンジは再び、子飼いの群れへと炎鬼刀を振り抜いた。

それと同時に第二、第三の手足として機能していた炎鬼ノ対剣が、縦横無尽に戦場を斬り裂いていき的確にモンスターの急所を突いていく。

その無情で、有無を言わせない容赦のなさは――あの日の 鬼(テンジ) によく似ていた。