作品タイトル不明
第161話
テンジはそれからもリィメイと少しだけ話をした。
彼女曰く、他の零等級探索師たちも同じように一部の感情や欲求が欠落しているらしい。
欠落とは表したものの、完全に失ったわけではないのだとか。昔の古傷や感情、何かがきっかけとなって一瞬だがそれを思い出すこともあるらしい。
零級探索師、百瀬リオンは【性欲】という欲求が欠落している。
ただ、唯一元カノである春芽麻美子だけが、その欲求を思い出させてくれるらしい。
他の零等級所持者も同じく、【愛】【睡眠欲】【食欲】という何かしらを失っているのだ。
まだ冬喜にはそれは起こっていないが、もう時間の問題だとリィメイは言っていた。
「そろそろ戻るわ。まだやり残したことがあるのよ」
少し話し込んでしまったようだ。
テンジは肌寒そうに自分の腕を擦るリィメイの姿を見て、彼女も一人の年老いた人間であることを思い出した。
「すいません。こんな夜中に長話してしまって……」
「いいのよ。私もテンジと少し話したかったのだから」
リィメイは笑みを見せずに答えると、ゆっくりと立ち上がり拠点の方へと一人戻っていこうとした。
ちょうどそのとき、リィメイのベルトからブチッという何かが切れた音が聞こえてきた。テンジはその方向へと反射的に振り返っていた。
「落としましたよ、リィメイ学長」
地面に落ちたのは、小さな短剣だった。
そのベルトに引っ掛けていた革の部分が切れてしまったようで、テンジは地面に落ちた短剣をすぐに拾い上げ、リィメイへと渡してあげる。
「あら、ありがと。これももう限界だったのかしら……あとでイロニカに新しいのを貰わないと」
リィメイは凄く大事そうにその短剣を抱えながら、テントへと戻ってくのであった。
テンジはその後ろ姿を見届け、もう一度崖上に座り直した。今話していたことを反芻する。
「アンバランス……欠落者。僕もいつかはそうなるのかな」
少し嫌だな、と思った。
その時であった――。
テンジの視界が白く染めあがった。
強い白色の光がこの暗闇を照らした。
ドクンッ、ドクンッ。
史上最大規模の黒繭が、真っ白な光りを放ったのだ。
白い光り――それはこの世界で観測されていない色であった。
突然の出来事でも、彼らは冷静に動き出す。
「――孵化兆候を確認しました! 繰り返します、孵化兆候を確認しました!」
拡声器の雑音交じりの声が、階層内に鳴り響いた。