作品タイトル不明
第155話
テントの中は広々としており、無駄なものは何一つ配置されていなかった。
ベージュ色の室内の壁際にはいくつもの間接照明が設置されており、柔らかな室内空間が演出されている。部屋の中央には大きなデスクが一つ、そして巨大なスクリーンが一つ設置されているだけの非常にシンプルな内装であった。
デスクを囲むように十人のプロ探索師が各々タブレットなどを眺めながら、会話をしていた。
唯一腰の悪いリィメイ学長だけが椅子に座り、他の探索師たちは立って話しを聞いているようだ。
(史上最大規模の黒繭、そして世界中の名だたるプロ探索師か。なんとなくこの状況が掴めたよ。そっか、あれを本気で倒すつもりなんだこの人たちは)
テンジはテントに入って早々、そこにいた探索師たちの殺気のような空気感に驚いていた。
立っているだけで圧迫感を感じてしまうほどのオーラを、シルクの羽衣でも羽織っているかのうように纏う強者の威圧がこの空間を満たしていた。
(ただいるだけなのに、少し息苦しさを感じる。これが――)
世界で知らない人などいないレベルの探索師たち。
日本のチャリオットギルド団長、九条霧英。そのSチームを筆頭している稲垣炎。ロシア内最強で最恐なギルド総隊長、アレクサンドロ・アドフォカート。中国三強ギルド、四川炎帝のギルド総長、ウォン=ギリードなど。
この世界の探索師業界を引っ張る、先導者たちばかりだったのだ。
そして、その先導者たちを零級探索師ウルスラ=リィメイが指揮していた。
アドフォカートはちらりと入ってきたテンジたちに冷徹な視線を向けるが、すぐに興味を失ったように視線を移し、椅子に座っているリィメイ学長に問いかけた。
一度テンジたちは置いておき、話を続けるようだ。
「じゃあ、また子飼いが出てきた場合……俺たちはメインではなく、子飼いの殲滅に尽力するだけでいいんだな? 特に南西から南東方向を死守すればいいと。ただ場合によっては俺含め、人選されたメンバーがババアのサポートに回ると」
「そうね、それでお願い」
「わかった、努力するとは言っておこう。だが、俺のギルドは俺の意志でしか動かない。それだけは覚えておけ。例えババアが何と言おうと、奴らは俺にしか従わない」
「それくらいわかっているわよ」
一人の男性探索師が理解を示すと、リィメイ学長が呆れたように頷いていた。
面倒くさい団長だとでも思っているのだろう。
もし探索師に詳しくない人がこの状況を見れば、ロシアのマフィアが腰をいたわる優しいお婆ちゃんを脅しているようにしか見えない。しかし、実際にはここでの立場はリィメイの方が上なのだ。あきらかに異様な光景であった。
「一度、話は終わりにしましょう」
傍に控えていた秘書のイロニカが全員に向けて言った。
そこでようやく全員の視線がテンジたちへと向かった。
ちょうど話し合いに一区切り着いたところだったのだろう。十人の世界的な探索師の鋭い視線が、テンジと冬喜へと向かった。
テンジたちも彼らが重要な話し合いをしているのだと理解していたので、ここまでは静かに壁際で待機していた。
そんなテンジのたくましくなったオーラを感じ取ったチャリオットの九条団長が、思わずニヤリと口角をあげ、ずしずしと近寄ってきた。
「よぉ、天城。私を覚えているか?」
「お久しぶりですね、九条団長」
「お前に団長呼びされる覚えなんてないけどな。私はチャリオットで、お前は千郷の弟子だろ? ……にしても強くなったようだな。佇まいが”らしく”なった」
九条は良いものでも見たように不敵に笑って見せつつも、子供が生意気だと言いたげにテンジの額をデコピンすると、稲垣炎の隣へと戻っていくのであった。
ちょうどそのとき、炎も不器用ながら「まさかここで会うことになるとはな」と小さな声で呟き、テンジに向かって目線を送ってきていた。
テンジもそれに気が付き、ペコリと頭を下げておく。
「待っていたわよ、テンジ、冬喜、千郷」
そこでようやく、リィメイ学長が三人へと声を掛けてきた。