軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第153話

「ん? 誰か俺のこと呼んだかな――」

福山はキョロキョロと声の主を探し、転移ゲートの方に佇む一人の少年を見つけた。

その見覚えのありすぎる日本人の少年の姿を見て、何ヵ月ぶりかのたくましくなった少年の体を見て、福山は驚きのあまり目をカッと見開いたまま停止した。

両手に持っていたプラスチック製の黒くて大きな箱を、思わずガシャンッと地面に落としてしまうほどに驚く様子を見せていた。

その表情はまるでお化けでも見たかのような、おかしいものであった。

そんな福山に対し、テンジは片手を大きく上げここにいるというアピールをする。

福山は未だに動揺を隠せず、なぜか一度周囲をキョロキョロと見渡す。そして、凄い形相でテンジの目の前まで駆け寄ってきた。

「テ、テンジくんだよね? 人違い??」

「いえ、人違いじゃないですよ。天城典二です」

「えっと、ちょっと待って。……うん。あれ? ここってマジョルカの75階層だよね?」

「そうですよね。ここ75階層ですよね? ここで何が始まろうとしているのか、むしろ僕たちが聞きたいくらいなんですが。福山さんは知っていますか?」

「おいおいおい嘘だろ!? もしかしてテンジくん……本当にここまでたどり着いたのか? いや、まさか。でも、たったの数か月でそんなバカな」

再びペタペタとテンジの頬を触り、髪を優しくかき乱し、現実を受け止めきれずに奇行に奔る福山。少しの間執拗にテンジの体を触り続けると、ようやくこの状況を把握した。

(バカな話に聞こえるけど、実際にテンジくんはここに立っているし……)

この場所はそう簡単にたどり着けるような場所ではない。

それこそ福山ほどの実績のあるプロ探索師でさえ、リィメイ学長や他の探索師と一緒に辿り着くのがやっとな危険な場所が、この第75階層という特別な場所だった。

だけど実際に、目の前にはテンジがいる。

ありえない。

おかしい。ここはそんな簡単に立てる場所じゃない。

たったの数か月前までは自分にも及ばないほどの、非力な少年だった。

でも確かに今、自分の足でここに立つ天城典二という少年が目の前にいる。

前よりもずっと佇まいが”らしく”なった。

落ち着きつつもあどけない表情でこの場に堂々と立ち、その横には日本では有名すぎる将来有望な学生――黒鵜冬喜の姿もあった。そしてその隣には、白縫千郷という、世界の零級探索師百瀬リオンが認めた女性がいた。

その事実がさらに――この現実を肯定してくるのだ。

ふと、テンジは優しく笑いかけた。

「はい、ようやくたどり着きました」

福山はその堂々とした返答に、ありえない現実を理解した。

あり余るテンジの才能ってのをようやく知った。

半年ほど前に天職を覚醒させたばかりの少年が、今ここに立っているというこの状況はあきらかに異常だ。例え隣に立つ二人の援護があったと言えども、そう簡単になせる芸当ではない。

ここまで強者たちにキャリーされながらも、死に物狂いで辿り着いた福山には嫌というほど知っていたし、うんざりするほどに理解できた。

この第75階層に到達するということが、どれだけ凄い偉業なのかを。

この世界はたった一つの行動、たった一つの幸運、たった一つの才能で、世界の果てまでたどり着けてしまうんだという知りたくもない現実を福山は悟った。

まだまだ知りたくはなかった。

福山はまだ25歳で、探索師人生を駆けだし成長の実感を掴み始めた時期。確かに今までも才能の壁にぶつかったことは何度もあったけど、なんとか努力でここまで成り上がってきた。

ついにはチャリオットのAチームに上り詰め、探索師として「ここまで来た」という実感もあった。

だけど――目の前の彼らだけはたぶん、もう手の届かない場所まで行ってしまったのだろう。

表面では喜ばしい雰囲気を繕いつつ、福山はにっこりと笑い返した。

「そっか、そうか。俺が想像していた以上に、テンジくんは大物だったみたいだな」

「大物なんてそんな……褒めても何もでませんよ?」

「ははっ、冗談も言えるようになったんだね。とりあえずリィメイ学長のテントに案内するよ、ついてきて。その方が説明は早いだろうしね。ふふっ、九条団長の驚く顔が楽しみだ」

思わず、黒い笑みを浮かべるイケメンな福山与人。

そんな大人らしくもない無邪気で、大人らしい黒い笑みを浮かべる福山に対しテンジは言った。

「福山さんも面白い顔してましたけどね」

「あらあら? 強さだけじゃなくて、態度まで立派に成長しちゃったのかな?」

福山は悪戯に、そして誤魔化すように笑って見せた。

まだ彼らに自分の弱さを見せてはならない。

だって――、

俺は”プロ”の探索師なのだから。

もっと多くの人たちに夢と希望を与え続けなければならないのだから。

それが福山与人の憧れた、本物の探索師なのだ。