軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第124話

冬喜の驚きは当然の帰結だった。

それもそのはずだ。テンジがこれまでどれほどレベル上げに苦しんで、努力して、死に物狂いで励んできたのかを知っていたからだ。

天職発現から六ヵ月近くも掛けて、ようやくたどり着いた100分の5レベルという到達点。ようやく、本当にようやくここまでやってきたのだ。

冬喜はつい数日前、テンジのレベルが5に上がったという報告をまるで自分のことのように喜び、祝福したのを鮮明に覚えていた。

兄のように慕ってくれるテンジでもあり、千郷という同じ師から学ぶ同門弟子でもある。だからこそライバル意識も少なからず存在し、追い越されないようにと必死に努力してきた冬喜だ。

それが――。

たったの一週間で塗り替えてしまいそうだ、とテンジは言ったのだ。

「えっ? 俺の聞き間違いかな? 今、一週間って言った?」

「うん、言った」

「なるほど……テンジ、今日はもう寝るといいよ。千郷ちゃんの夜ご飯は俺がなんとかするからさ」

「ちょっ!? 僕はいたって正常だから!」

「いや、正常とは到底思えない……って、マジなの?」

「そうだってば! 今も現在進行形で炎鬼先生たちが鬼の如く、第62階層にいるメインモンスターを倒してるんだよ。閻魔の書のログが次々と更新されてるんだもん」

「第62階層といえば……三等級と二等級モンスターがメインじゃなかったっけ? そっか、元々あの小鬼も三級や二級ならギリギリ勝てなくもなかった強さを持ってからなぁ。さらに上位の鬼なら当然なのかも?」

「そうそう、だからえげつない経験値が次々入ってきてるんだよ。総勢215体の地獄獣の内、174体はたぶんだけど……一級探索師の足元には手を掛けている鬼たちだよ? それも睡眠を必要としない生物だし」

「なるほど……改めて聞くと、可能性としては考えられるのか。はぁ……」

冬喜はあからさまに溜息を吐き、ペットボトルのキャップを閉めた。

そのまま芝生の上にごろんと寝転がり、ぼーっとオレンジ色に染まった空を眺める。

「えっ? なんの溜息?」

「いや、な。テンジが強くなることは俺も凄く嬉しいんだけど、このまま遠くに行っちゃいそうだなぁと思ってさ」

「なんで?」

「なんでって……たぶん俺はすぐにテンジに抜かされるしさ、ちょっとくらいネガティブにもなるさ。最近は千郷ちゃんに指一本すら触れられないし、なんだかなぁって」

「でも、千郷ちゃんこの前言ってたよ? 冬喜くんに対してもう手を抜けなくなっちゃったって。たぶん千郷ちゃんも本気で挑んでるから、そう感じてるんだよ」

「…………そっか、そうだったのか」

冬喜は間接的に聞いた千郷の本心に、少しばかり嬉しそうに笑った。

当たり前のことだが、テンジと冬喜はお互いがお互いを意識している。

もちろん恋愛的な意味ではなく、身近にいるライバルとして、最も測りやすい指標の一つだからだ。テンジは冬喜や千郷を追い抜こうと、冬喜は下からの追い上げに負けまいと、毎日必死に努力を積み重ねている。

その中で実際に認められるという行為がどれほど嬉しいのか、冬喜は噛みしめていたのだ。

努力して良かった、と。

「そういえばテンジ」

「ん?」

不意に冬喜がテンジの顔を見上げた。

「何か欲しい物ってある?」

「えっ? なんで?」

「明日はクリスマスイヴだし、テンジの誕生日だったよね? さっきまで千郷ちゃんも何買えばいいかわからないって嘆いてたからさ」

「あっ! そっか……もうそんな時間経ってたんだ」

ふと、テンジの脳内にこの半年で起こった濃密な出来事がフラッシュバックしていく。

天職の発現が、約六か月と少し前の出来事。

その日から人生が大いに転換し、怒涛の毎日を送ってきた。

あの零級探索師リオンと出会い、師である千郷と出会い、チャリオットの入団試験に参加し、あのマジョルカに留学してきて、ほぼ毎日のようにダンジョンで研鑽する日々。

こうして考えると、両親が行方不明になって途方に暮れていたあの日からは、想像もできない斜め上な人生を歩み始めていた。

借金に追われ、日々の食費に頭を悩ませ、荷物持ちのアルバイトでなんとか生きようと足掻いていた日々が懐かしく感じる。

今となっては、テンジの支援者としてリオン、海童、千郷の三人が名を連ねている。

すでに丸2年分の生活費ももらっており、借金という枷からも解放されたと言っていい状況に変わった。あの苦しい日々と違って、妹ともどもとても幸せな生活を送れている。

そうして明日――、

テンジは17歳を迎える。