軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第113話(閑話:日本選抜試験)

――日本探索師協会本部、運動施設1-αにて。

『これより、マジョルカ・エスクエーラ留学権利を賭けた選抜試験を開始します。新たに増設された席は一枠、審査には日本の上位ギルド20から目の肥えた審査員、そして協会所属の上位プロ探索師30人の計50名で詳細に実施します』

白を基調とした巨大なアリーナ空間に集められた総勢500名以上の探索師の卵たち。

募集年齢は14歳から18歳までの少年少女たちだ。

この募集はつい一か月前に突如告知されたにも関わらず、応募総数は5万を優に超えた。

その中から書類審査を通過した約500名がこの場に集まってきている。

これは日本のトップ10ギルド、その中でもナンバーワンとも称される日本屈指の少数精鋭最強ギルド【 CLASS(クラス) 】が協会と協力することで主催した選抜試験である。

ギルド【CLASS】の団長、 鵜飼(うかい) 蓮司(れんじ) は、アメリカのワールドシーカー電報が毎年発表する世界中の探索師ランキングでも常に一桁台の順位を誇っている化け物だ。

今年の順位は9位と、その実力は世界でもトップクラスに位置する。

そんな鵜飼が今年、初めてのマジョルカ・エスクエーラ枠を手にしたのだ。

『試験の内容は段階を踏みますが、まずは一般的な身体能力テストから開始します。一次試験だけで三日ほど掛かる予定ですので、気を張りすぎて倒れないようにお願いいたします』

こうして――。

テンジの知らぬ間に新たな『枠』を賭けた戦いが、日本で始まった。

† † †

試験は日にちを追うごとに間隔が短くなっていき、もの凄い勢いで参加者たちの選別が始まっていた。

一次試験では、500人越えの参加者が300人程度に絞られた。

二次試験では、10人ずつのサバイバル戦闘実技試験が行われ、残った一人だけが次の試験に駒を進める。そうしてこの時点で、参加者の数は30人へと減っていた。

「まぁ、予想通りの結果になりましたね」

「あぁ、全くだ」

運動施設1-αの中を見下ろすように、三階付近のガラス越しに残った30人の勇士を見下ろす二つの影があった。

その一人は協会の人間であり、テンジも良く知る水橋勇次郎その人であった。

その隣には――。

「鵜飼さんのおめがねに敵いそうな人はいましたか?」

「そうだな……あいつとあいつ、あいつくらいか」

鵜飼蓮司はほとんど迷うことなく三人の参加者を指さした。

水橋はすぐに資料と顔を照らし合わせて、その特徴や経歴を語り始める。

「最初に指したのは…… 紅蓮田(ぐれんだ) 総(そう) 、一般の高校二年生ですね。スポーツは経験なし、学歴は……かなり高いですね。私立の名門校出身ですが、今は学費の安い学校に編入し直したようですね。家庭の事情は複雑そうです。それと……」

「あぁ、殺気を放ってやがる」

「ですね、後のない甲子園球児みたいな殺気放ってますね」

「……欲しいな、うちに」

「これは7人目の【CLASS】所属探索師が誕生しそうですね。では、協会も対抗してスカウトしましょう。負けませんよ?」

「たわけが」

鵜飼は水橋との会話が面白かったのか、僅かに口角を上げて笑った。

その様子を見て、水橋は次の資料に目を通していく。

「次ですが……」

「知っている、稲垣累。炎の子だ」

「あらま、鵜飼さんが知っているということは……狙ってたんですか?」

「いや、一度も考えなかった。……が、いい目をするようになった」

「彼も色々ありましたからね。鵜飼さんのおめがねに敵うとは、僕もその成長が誇らしく感じますよ」

「何か?」

「えぇ、彼とはちょっと縁がありましてね。詳しくは言えませんが」

「そうか」

鵜飼は少しつまらなそうな表情を見せた。

自分の知らない場所で、何かが進んでいたことに拗ねていたのだ。

「次ですが……」

水橋がそう言いかけた時だった。

鵜飼が割って入るように、水橋のタブレットを取り上げその内容をじっくりと確認し始める。

「蛇門飛鳥、か」

「そんなに彼が気になりますか?」

「あぁ、内定保有権は【Chariot】【白創輝】【POP】【777】【ゴールドマン】……ほとんどの大手ギルドが手を付けているな」

「えぇ、彼はほぼ全部の大手ギルド入団試験に参加して、全てで結果を残しています」

「なぜうちに来なかった」

「それは入団試験を行っていないからでは?」

「それもそうか」

まさか鵜飼がジョークを言うとは思っていなかった水橋は、少し驚いたように目を見開いた。

それでも鵜飼は水橋に気を配る様子もなく、じっと選抜試験会場を見下ろしている。

「他の参加者はおめがねに敵いませんでしたか? これでもかなりいい人材が揃ったと思うんですが」

「…‥不要だ、カスはいらん」

「相変わらず強気な方針ですね。あの子とかどうですか? 水江勝成、すでに【Chariot】の入団保有権を獲得している期待の逸材です」

「カスだ」

「じゃあ、あの子とかは? 【POP】や【白創輝】などの大手ギルド三つから入団保有権を獲得している、日本探索師高校のホワイト制服ですよ?」

「カスが見繕ったところで、所詮カスだ」

「ところで、天城典二という青年を知ってますか?」

不意に、水橋勇次郎はここにはいない青年の名前を出した。

「どいつだ?」

「あぁ、ここにはいませんよ。今、ひっそりとマジョルカ・エスクエーラに留学しています」

「なぜだ? 一体どのルートを使った」

「さぁ? ちょっと【暇人】が介入してるので、協会でも調査できてないんですよ。【暇人】が介入するのって、鵜飼さんが一目惚れした白縫千郷以来なんですよね」

「……俺は今も諦めていない。千郷は最高のパートナーになる」

「相変わらずですね。で、たぶんですがその白縫千郷と一緒にマジョルカ・エスクエーラに留学しているのが、その青年なんです」

「……臭いな」

「えぇ、超臭いです。あっ、そろそろ始まるようですね」

「もっと近くで見たい」

「では、アリーナに降りましょうか。ご案内しますよ」

「頼む」

「はい、私は鵜飼さんの子飼いなのでなんなりと」

二人はゆっくりとアリーナに降りていく。

鵜飼蓮司の姿をその目で見た参加者たちは少し驚いた様子を見せたが、すぐに気持ちを切り替えて、試験に臨み始めた。

三次試験、つまり最終試験の内容はいたって単純。

五人ずつのサバイバルトーナメント大戦。

ここには日本のトップワンギルド【CLASS】の中でも、一等級天職を持つ治癒役の男性と女性の二人が待機しており、即死以外の状態ならば一瞬で治療できる準備ができている。

つまり、何でもありのサバイバル勝負。

試験を合格するのに必要なのはトーナメントを勝ち上がって優勝することではない。鵜飼のおめがねに適うことが必要になる。

主催者は鵜飼だ。

彼が認めれば、結果なんてどうでもいい。

そうして約5万人の14歳から18歳の中から選ばれた30人により、たった一枠の留学権利を賭けた最後の選抜試験が始まった。

† † †

5人ずつのサバイバル戦いが開始され、30人だった参加者はたったの6人へと人数を絞られた。

そこに名を連ねたのは、稲垣累17歳、水江勝成18歳、紅蓮田総17歳、蛇門飛鳥16歳、 細鐘(ほそかね) 芽衣(めい) 18歳、 黒豪(こくごう) 悟(さとる) 17歳だ。

稲垣累は、未だ高校一年生の卵だ。

一級探索師を父に持つ、今世稀に見る高火力の固有アビリティを扱う神童。

水江勝成は、元一般生徒の仮免探索師だ。

すでにチャリオットへの内定が決まっているが、九条の後押しもあり、この選抜試験に参加している。

紅蓮田総は、この中で稀有な存在、本当にただの一般人だ。

父が蒸発し、母と総の二人で五人の妹弟たちを育てている。妹弟たちが立派に育ってくれるならば、なんだってする覚悟ができている。

蛇門飛鳥は、フランスの探索師高校に通う日本とフランスのクウォーターである。

マジョルカ・エスクエーラ、そこには奴がいる。だから行く。たったそれだけの動機であった。

細鐘芽衣と黒豪悟は日本探索師高校の二年生であり、ホワイト制服の着用を許可された本物の天才たちである。

将来に期待されているのはもちろんのこと、内定保有権は数多く所有している。だからこそ、たかが名も知らない奴らに負けるわけにはいかないのだ。

そんな六人での最後のサバイバル選抜試験が始まろうとしている。

『始めっ!』

† † †

最後の決着は、あっという間に決まってしまった。

『優勝者、蛇門飛鳥!!』

審判の勝利宣言が声高らかに発せられた。

蛇門飛鳥は退屈そうに、ホワイト制服を着用した二年生――黒豪悟――の体の上に腰を下ろして座っていた。

その周りには蛇門に一方的に嬲られて、体中に痣や切り傷を負わされた他の参加者たちが地面に這いつくばっている。累、水江、紅蓮田、細鐘、黒豪の五人は、何もできなかった。

まさに圧倒的、手も足も出ないとはまさにこのこと。

そこにカツカツと鵜飼の足音が近づいてくる。

鵜飼は蛇門の目の前で立ち止まると、鋭い眼光で見下ろしながら物静かな口を開いた。

「見事だ。うちに来るか?」

「マジョルカ・エスクエーラに行く」

「そうか……わかった。貴様にやろう」

「貰う」

それだけ聞くと蛇門はつまらなそうに立ち上がり、鵜飼の横を通り過ぎるように出口へと向かっていく。

そんな蛇門に鵜飼は振り向かずに語り掛ける。

「うちのギルドに来い。その才能、俺が使ってやる」

「考えとく」

お互いに言葉は短いが、それだけで十分だったようだ。

鵜飼も面白そうに、今日一番の笑みを浮かべていた。その笑顔は獰猛で、一睨みで虎を殺してしまえるほどの殺気を放っていた。

――いい、千郷にも劣らない才能だ。欲しい!

蛇門の戦いを見てからずっと、鵜飼はその言葉ばかりが浮かんでいた。

そうしてその場に倒れ伏している一人の青年を見下ろして、同じように言った。

「紅蓮田総、お前もうちにこい」

「……俺か?」

「いいから来い」

「もちろんだ、俺は鵜飼さんの誘いを受けるぞ」

「いい瞳だ。俺がその才能を使ってやる。せいぜい足掻け」

それだけ言い残して、鵜飼は踵を返す。

他の参加者には言葉一つ掛けずに、振り返った表情はもうつまらなそうな顔をしていた。

こうして、日本で行われたマジョルカ・エスクエーラ留学へのきっぷは、蛇門飛鳥という天才の手に渡った。

彼は契約を結んだ後、その日のうちにマジョルカへと飛行機で飛び立った。