軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百二十四話 拳での会話

今回は剣ではなく、無手での手合わせ。

正直、無手は得意ではないのだけど、アルナさんの方が得意ではないことは明白だし、情けないことは言っていられない。

「アルナさん、いきますよ」

「ん。かかってこい」

手をくいくいとさせながら許可を出したアルナさんに、対しゆっくりと距離を詰めていく。

力を制御して、怪我だけは絶対に負わせないように注意し……その上で、速攻でケリをつける。

ある程度の距離までにじり寄ったところで、一気に距離を詰めて拳を振るった。

腹部を狙ったボディブロー。

左手はガードのために残しつつ、抉り込む角度で放った右の拳。

反応できるギリギリの速度での一撃のはずだったが、アルナさんは予想以上に楽々とバックステップで躱すと、そのまま回し蹴りを叩き込んできた。

ガードのために残していた俺の左手を見てか、窮屈な姿勢から左足で蹴り込んできたため、俺は潜るようにしてその回し蹴りを回避。

アルナさんは回し蹴りの勢いそのままに一回転すると、華麗に体勢を立て直した。

一瞬の攻防だったけど――やっぱり手合わせは楽しい。

戦闘は基本的に、相手の行動を読むことに注力する。

そのため俺はアルナさんの考えを読み、アルナさんは俺の考えを読むのだ。

言葉の会話では気まずさもあって口数が少なくなってしまうからこそ、拳を介しての対話が心地良く感じる。

「ニヤケ面、むかつく」

どうやら表情が緩んでしまっていたのか、その表情のせいで舐めていると思われ、アルナさんを怒らせてしまったようだ。

俺が弁明する暇もなく、今度はアルナさんから攻撃を仕掛けてきた。

「【加速】【強打】」

スキルを使いつつ、本気の一撃を打ちこんできたアルナさん。

俺はその【加速】による【強打】の連撃を、ステップを踏みつつ回避しまくる。

パンチも無駄がなくスムーズだし、蹴りも不意を突いてキチンと蹴り込んでくる。

弓使いだし、超近距離戦はそこまででもないと思っていたが……流石はアルナさんだ。

近距離戦でもしっかり動けるし強い。

「またニヤついてる。躱せているからって――調子に乗るな」

「乗ってませんが……ここからは一気にいきますよ」

最初のボディブローを放った以降は防戦一方だったが、そろそろこっちからも攻撃を加えさせてもらう。

五割ほどまで力を入れ、一気にアルナさんに襲いかかる。

ジャブで軽く攻撃を加えてバランスを崩させてから、ストレートを打ち込んだ。

駆け引きのない、力と速度による攻撃の連打。

アルナさんも上手く躱してはいるが、流石に近距離戦では分が悪かったのか……三発の有効打を浴びせ、あっさりと俺の勝利で手合わせは終わった。

最後は力をつけたことを認めてもらうべく、力によるゴリ押しで倒させてもらったが、駆け引きしながらの打ち合いは本当に楽しかったな。

俺は大満足し、満面の笑みでアルナさんに握手を求めに行ったのだが――なにやらアルナさんの様子がおかしい。

下を向いたまま動く気配がなく、ぷるぷると体を震わせている。

「手合わせありがとうございました! 楽しかった……あ、アルナさん? どうしたんですか?」

「……ずるい。弓を解禁してもう一回」

「それは無茶ですって! 街の外に出なきゃいけませんし、弓を使ったら生き死にの戦いになりますよ!」

「構わない。勝ち逃げされるよりマシ」

ぶすっとした表情でそう言ったアルナさん。

流石に生死のかかった試合は勘弁なため、なんとかして宥める。

「軽い手合わせということでしたし、アルナさんが不得意な分野で戦っていたってことは理解してますよ! 俺も正式にアルナさんに勝ったとは思っていませんので! だから一度落ち着いてください」

「……………………冗談。本気では言っていない」

数秒溜めたあと、冗談と言葉を漏らしたのだが……絶対に冗談じゃなかったよな。

俺が了承していたら、即座に街の外まで連れ出されて戦闘になっていたと思う。

「とりあえず、一度座って話をしましょうか」

「……ん」

落ち着き、バックヤードの椅子に座り直したところで、俺は『鷲の爪』でアルナさんと別れてから、帝国に行った話を軽く説明した。

旅と呼ぶには短いものだったけど、それなりの土産話もあったからな。

表情は一切変えず、俺の話を淡々と聞いてくれたアルナさんだったが、ところどころで表情が緩んだ場面もあったし……。

しばらくパーティを組んでいて、アルナさんの細かな表情の変化に気づけるようになったから分かるけど、結構楽しんでもらえた様子だ。

「とまぁ、ざっと話すとこんな感じでした」

「ふーん。逃げ帰ってきた訳じゃなかったんだ」

「ええ。しっかりと強くなって戻ってきました。それで、アルナさんは……パーティ解散後何をやっていたんですか?」

俺の話ばかりになってしまったため、俺は多少の聞きづらさを感じつつも尋ねたのだが、そっぽを向きながら口を閉ざしてしまった。

今の様子を見る限りでは、俺とパーティを組む前の生活に戻ったようにも見えるけど、はたしてどうなのだろうか。

「……私のことは後で話す。ロザリーのとこにも顔を出すんでしょ?」

「はい! まずはアルナさんから声をかけようと思ってきました」

「ん。じゃあ、行こう」

「えーっと……。でも、これから仕事なんじゃないでしょうか?」

「構わない」

俺の問いに、短くそう言い捨てたアルナさん。

構わないかどうかはアルナさんが決めることじゃないと思うんだけど……まぁ来てくれた方が俺は嬉しいからいいのかな?

「大丈夫なら……行きましょうか。ロザリーさんのところへ」

「ん」

こうして、久しぶりにアルナさんと手合わせをし、まともな会話も交わすことができた。

『亜楽郷』に来る前は恐怖で胸がいっぱいだったけど、来て、話すことができて良かったと心から思う。

背中を押してくれたディオンさんとスマッシュさんには、後で感謝の言葉を伝えるとして……ロザリーさんのところへ顔を出すとしようか。