軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百七十九話 死闘

毒が裏返ったことで体の全ての痛みが吹っ飛んだ俺は、両手をつき構えている熊型ミイラに向かって走り出す。

ダンベル草ポーションの漲るような感覚もなくなったのだが、恐らくまだ効能は切れていないし大丈夫だろう。

常に慎重に行動をする俺としては、“恐らく”で動くのは有り得ない行動なのだが……思考を変えることなく熊型ミイラへと突っ込んでいく。

さて、熊型ミイラはいつ動くのだろうか。

ワクワクしながら間合いを詰めていくと、七メートルほどまで近づいたところでようやく動きを見せ、初撃と同じように爪を伸ばして攻撃を仕掛けてきた。

「――流石に二度も同じ手は通用しない」

単調な攻撃に少しガッカリとした気分になったが、頭は冷静に体を左へと振ってから、伸ばしてきた右腕の脇下のスペースに潜り込むように回避。

その際に脇腹に一発斬りつけ、再び距離を取った。

そこから一切の間も取らず、同じようにもう一度詰めようとしたのだが……熊型ミイラの様子がおかしい。

俺が軽く斬り裂いた箇所を押さえながら、口を大きくあんぐりと開けていた。

聴覚が麻痺しているため耳には何も届いていないけど、何やら叫んでいるようにも見える。

俺はチラッと握り絞めた剣の刃先を確認すると、熊型ミイラの体液が刀身全体にべったりと付着しており、軽く斬り裂いたはずが深い傷を負わせていたようだ。

恐らくだが、熊型ミイラの突っ込んで来た勢いそのままに斬ったことで予想以上のダメージが入ったのだろうけど……。

やはり感触がないとおおよその判別も難しいし、戦いの楽しさも半減してしまっている気がする。

現状を冷静に分析し、俺は更にガッカリはしたものの、熊型ミイラの体勢が整うまで待つような舐めた行動を取るつもりはない。

意図せぬ攻撃だろうが、アンデッドにダメージが入るほどの深い一撃を浴びせることが出来たのであれば、その絶好機を生かさせてもらう。

一瞬立ち止まった足を再び動かし、膝を着いて口を開けている熊型ミイラに一気に近づく。

このまま俺に目もくれないようならそのまま首を撥ねてやろうと考えていたが、赤黒い瞳がギロリと俺を睨むと、立ち上がり覆いかぶさるように襲ってきた。

両手を広げると更に大きくまるで壁のようだが、先に動いていた俺の方が速い。

初撃の借りを返すべく、地面に突き刺すイメージで思い切り踏み込み、一瞬に全ての力を込めて――上段から袈裟懸けに斬る。

両手を上げた肩口から剣が斬り込んでいくのが見え、一瞬にして胴体部分を斬り裂いた。

もちろんのこと手には何の感触もないが、これは完璧に決まったと分かる。

このまま弱ったはずの熊型ミイラにトドメを刺そうと、剣を振り下ろした状態から体勢を立て直し追撃にかかるが……両手を上げた状態のまま、足を一切止めていない熊型ミイラと視線がぶつかった。

危険と瞬時に察した俺は防御に転じ、抱きしめるかのように振り下ろしてきた両の腕に剣をぶつける。

肩から腰にかけて致命の一撃を加えたのにも関わらず、熊型ミイラの力は一切衰えていない。

真正面からぶつからずに剣を這わせながら威力を逃がすことに注力したため、初撃ほどではなかったのだが……しっかりと吹っ飛ばされた。

腹部を深く斬り裂き、更に肩から腰までの致命傷を与えたのにこの威力。

アンデッドの生命力と、熊型ミイラとまだ戦えるということに思わずに口角が上がった。

転がった俺に対して放たれた仮面の女王の魔法を軽く振り払い、熊型ミイラにのみ視線を向ける。

お互いに死んでいてもおかしくないほどの満身創痍の状態。

ははっ、熊型ミイラも俺を見て同じアンデッドだと思っていたりしてな。

そんなくだらないことを考えてから、息を合わせたように互いに動き出し攻撃を開始した。

ここからは正に、どちらかが力尽きるまでの殴り合い。

感情に身を任せて暴れ回る熊型ミイラの姿は、正に理性のない化け物。

その圧にゾワッと鳥肌が立つが、身体能力の全てにおいて劣っている俺の勝機は理性なく攻撃してきているその一点のみ。

俺だけを目掛て伸ばしてきた右爪を強引に体を仰け反らせて回避、地面に左手をつけて押し返し、反撃の一撃を腕に叩き込むが……右手一本で振ったせいか骨までは到達せずまるでノーダメージ。

怯む様子なく熊型ミイラが伸ばしてきた左爪を掻い潜るように回避したのだが、背中が熱くなるような嫌な感覚を覚えた。

……動きに制限される感じはないし、幸い深い一撃ではなかったのだろう。

短くフッと息を吐き、間髪入れずに再び距離を詰めにかかる。

懐まで潜り込むと、今回の攻略で初めて抜くアングリーウルフの短剣で斬りかかった。

超至近距離からでは剣を思い切り振れないのだが、熊型ミイラとの最適な間合いはこの距離。

足元の俺を殺そうと、腕に口に足を伸ばしてがむしゃらに繰り返される攻撃を致命傷は避けながら躱しつつ、胸部を集中的に狙って攻撃を繰り返す。

互いに一秒も動きを止めることはなく、息を荒げながら俺も短剣を振り続けていく。

腕が振り下ろされ、蹴りを出さられる度に俺の体には傷がつき、頭から流れる血が目に溜まって見えている全ての景色が真っ赤に染まっているが――あと少しだ。

あと少しで剣が心臓に届く。

掘り返すように胸部を一点狙いで抉り続けたことで、ようやく見えた心臓を守る胸骨。

今日一の集中を発揮し、振り下ろされた右腕を掻い潜ってから、アングリーウルフの短剣を胸骨の隙間を縫って深くまで突き刺した。

この一撃でようやく熊型ミイラは動きを止めたのだが、何度も何度も致命傷を与えては強力な攻撃を繰り出してくる熊型ミイラが脳裏にこびりついている俺は、すぐさま短剣を引き抜いて距離を取る。

短剣が引き抜かれた心臓部からは噴水のようにドス黒い血が噴き出し、熊型ミイラが左手を添えたが流れる血の勢いは止まらない。

流石に勝負あったかと俺は息を吐きかけたのだが、熊型ミイラは腰を曲げた状態のまま首だけを上げて俺をギロリと睨むと、ゆっくりと俺の方へと歩みを始めた。

その圧は瀕死状態ものではなく、まるで逃げるかのように無意識で後退してしまったが……トドメを刺すべきと自分に強く言い聞かせ、熊型ミイラに斬りかかる。

殺気は漏れ出ているものの、先ほどまでと比べ驚くほどに反応の鈍っている熊型ミイラ。

俺は両足を斬り裂き膝を着かせてから、頭が垂れたところを真横へと回り込み――。

「何度も死を覚悟した強敵だった。……ありがとう」

命を削りに削った殺し合いを行い、魔物でもあり敵ではあるが……最後まで立ち向かってきた熊型ミイラに最大の賛辞を送ってから、俺は首目掛けて上段から剣を振り下ろした。