軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百六十七話 交渉

副ギルド長は慣れていない手つきで、おぼんに置かれた紅茶を俺の前にも置いてくれた。

そんなマグカップにも細かな装飾が施されていて、下手すれば今の俺の全持ち物を足してもこのマグカップ一個の方が高いのではと思うほど。

「それで……君たちは私に何の用があって訪ねてきたのかね?」

一通りのもてなしを準備してくれたあと、再び椅子に座り直してそう問いかけてきた副ギルド長。

問いに対して俺とジュノーが目を合わせると、ジュノーが大きく頷いた。

「実は、私達はとある情報を入手していまして、その情報の拡散にご協力お願いしたいのです」

「とある情報……。それは魔王軍が襲撃してくるって情報のことかね?」

副ギルド長の発言に、俺もジュノーも目を丸くさせて驚く。

もしかしてだが、先日発売されたばかりの新聞を読んでくれたのか?

売上的には確かに読んでくれていてもおかしくないのだが、まさか商人ギルドの副ギルド長にまで読まれているとは思っていなかった。

「俺達の新聞を読んでくれていたのか?」

「もちろん。私は【サンストレルカ】の一ファンだからね。君たち『ラウダンジョン社』の新聞はチェックさせて貰っているよ」

こりゃ、またしてもルイン達に助けてもらったな。

俺の売った小さな恩では釣り合わないほど、ルインからは多くの益を受けてしまっている。

「そうだったんですか。まさか副ギルド長さんまで、【サンストレルカ】のファンだったなんて知りませんでした」

「まぁ、私はリーダーのルイン君とは個人的に取引もしてもらっている仲だからね」

腰に両手を置いて胸を張ると、鼻息を荒くしながら自慢げに語っている。

俺は全く知らなかったが、ルインは商人ギルドの副ギルド長とも親しくしていたのか。

この反応を見る限り、アポなしで突撃したジュノーを歓迎してくれたのはルインのお陰ってところのようだ。

「それはちょっと気になる情報だな。別件でいつか取材させてもらいたいところだが……。今は魔王軍襲撃の情報拡散の助力を願いたい」

俺は頭を下げて頼んだのだが、先ほどまでの上機嫌とは打って変わり、渋い表情へと変わった副ギルド長。

流れ的に協力してくれるのではないかと思ったが、やっぱり見通しが甘すぎたか。

「実はね、私は【サンストレルカ】のことについての話だと思ったから、この応接室に通したのだよ。魔王襲撃については他方の知り合いから色々聞いているが、君たちの新聞で書かれていた内容ほど切羽詰まった状況ではないと私は考えているんだね」

「確かに、私達の書いた記事の内容は出どころも不確かで信用に値しない内容だったかもしれませんが、嘘偽りなく本当のことしか書いていません。どうかお力添え頂けないでしょうか」

一歩も引く気配のないジュノーのお願いに、酷く困った顔を見せた副ギルド長。

逆の立場だったとしたら、俺は有無も言わせずに突っぱねるからな。

困り顔をしている副ギルド長の心境はよく分かる。

「そうは言っても、私に出来ることなんてあまりないからね。それに不確かな情報を流して信用を失う訳にもいかないんだよ」

「情報については紛れもなく本当だ。俺はつい先ほど、西の森で魔王軍らしき奴らを見かけた。そいつらを見かけたのは恐らく俺だけだが、森の魔物が暴れていて兵士が数十人単位で駆り出されていたから、森の異変についての証言は取れるはず」

「うーむ。嘘をついていないと思うし、確かに兵士に証言を取れば分かるんだろうけどねぇ。……君たちはなんでそこまで情報を拡散しようとしているんだね? 頑張らなくとも、先ほど言っていた兵士達から情報が渡り次第、近い内に一気に情報は拡散されると思うんだがね」

「その部分に関しては記者という仕事柄もあるし、利益を生み出すために動いているというのももちろんあるが……」

俺はそこまで話してから、副ギルド長に片手を差し出す。

首を僅かに傾げながらも、恐る恐る俺の手を握って握手の形となった瞬間。

俺は気張っていた意識を緩めて、先ほどの大蛇と魔人を思い出す。

「おっ、おおー……!」

「この震え、分かるだろ。さっき魔王軍の奴らを見てから、無理やり意識しないようにしないと震えが止まらねぇんだ。体の芯から震えて頭がおかしくなりそうなほどにな。……記者として色々な冒険者を見てきたが、あの魔物が襲ってきたら冒険者全員合わさっても防げるかどうか分からない。それぐらいの緊急事態だと俺は思っている」

嘘偽りなく、恐怖が伝わるように副ギルド長に俺の感情を全て晒す。

俺の恐れの感情が本物なのが伝わり恐怖が伝染したのか、副ギルド長の握手している手がじんわりと汗で滲み、次第に軽く震え始めたのが分かった。

「……分かった。ルイン君のことを記事にしている新聞社の方だ。仲良くしておくのも悪くないだろうね。ある程度の情報の拡散は任せてくれ。仲間の商人や知り合いに私の方から広めさせてもらうよ」

「ありがとう。本当に助かる」

「困ったときはお互い様だからね。それにこの街が落とされたら、一番困るのは私だと思うからさ。……それと、ルイン君によろしく伝えておいてくれよ」

「ああ、しっかり伝えさせてもらう」

「副ギルド長さん、本当にありがとうございます」

俺とジュノーは深々と頭を下げてから、応接室を後にする。

半ば無理やりだったし、副ギルド長の人柄の良さに付け込んだような形になってしまったが、情報を広めて貰える約束をなんとか取り付けることが出来た。

どれほど正確に広まるかは分からないが、出来る限り多く人が魔王軍に備えてくれれば最悪の事態は避けられるかもしれない。

この商人ギルドだけでなく、可能な限り回れる場所を回って色々な人の協力を仰ぎに行こうか。