軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十九話 渓谷の猿

「鬼門の十七階層まで来れましたね。ロザリーさんもアルナさんも大丈夫ですか?」

「はい! 途中の休憩のお陰か、体力にはかなりの余裕があります。荷物も十階層に置いてきましたし、このままなら二十階層まで行けますよ」

「余裕。調子もいい」

十階層のセーフエリアで一泊した俺達は、ロザリーさんの言う通り体力を残しつつ渓谷エリアまで辿りついた。

問題はここからの連戦に続く連戦なのだが、時間にも体力にも余裕がある今の状態なら二十階層まで辿り着けるはずだ。

「大丈夫なようで良かったです。気合いを入れて行きま――っと、もう嗅ぎつけられたようです」

「ブルーオーガ。後ろにはアングリーウルフの群れ」

「上にはゴブリンアーチャーとブラッドバッドもいます! いきなり囲まれました」

「上の魔物はアルナさんに任せます。メインアタッカーはロザリーさんで、俺はサブアタッカーを行います」

これまでの経験も相まって、最適の陣形を組むように指示を飛ばす。

俺達三人は魔物の対処すべく流れるように陣形を組み、こちらへと向かってくる魔物との長い戦闘が始まったのだった。

「横からスラストバッファロー! その後ろから来ているブルーオーガでラストです!」

ソイルバグーを斬り伏せたロザリーさんに敵の情報を伝えてから、入れ替わるように俺は前へと出る。

十八階層の最後の敵二匹。

長い戦闘の終わりが見え、つい気を抜いてしまいそうになるが、スラストバッファロー相手に気を抜いたら命を落としてしまう可能性がある。

自分にそう言い聞かせて気合いを入れなおし、全力で地面を踏み込んで渾身の上段斬りを放つ。

この間までは額の風船のような膨らみに跳ね返されていた俺の攻撃だが、一昨日の植物接種の効果が実ったのか斬り裂けるようになった。

額の膨らみが割れると同時に爆発音に近い破裂音が鳴り響き、頭蓋骨にまで到達した傷から鮮血が吹き出る。

反射的に目を覆いたくなるような光景だが、後ろに控えているブルーオーガのことを考えれば目を背けている暇などない。

振り下ろした体勢から更に前へと足を動かし、背後のブルーオーガを斬りにかかろうとしたのだが……。

「【パワーアロー】」

俺の背後から飛んできた高速の矢は、雄たけびを上げかけていたブルーオーガの頭を勢い良く貫いた。

軽く飛ぶように後ろへと倒れたブルーオーガはそのまま動くことはなく、こうして俺たちは十七、十八階層の魔物の殲滅に成功したのだった。

「ふぅー……。アルナさんが一番美味しいところ持っていきましたね」

「ルインが動けたなら、矢もったいないしやりたくはなかった」

「アルナさんはルインさんがすぐに動けないと踏んで、先回りしての射撃でしたもんね。……とりあえず、十八階層攻略ですよ!」

「ですね。残るは十九階層の一階層だけです。体力の方はどうですか?」

「大丈夫。十九階層は上からの攻撃がないし楽勝」

「私も大丈夫です。上に魔物がいないのはいいですね。かなり戦いやすくなりそうです」

二人の状態を確認してから念のため回復ポーションを使用してもらい、最後の階層攻略へと移る。

ここまで予想以上の苦戦を強いられたが、ダンジョン内で一泊したことで二十階層までは辿り着くことが出来そうだ。

俺達は軽い休憩を挟んでから、十九階層へと足を運ぶ。

警戒して左右を見渡すが、更地が平がっているだけで何もない。

十七、十八階層のような、魔物がひっきりなしに襲ってくるのを想像していたのだが、なんとも拍子抜けな状況だ。

「随分と静かですね。十六階層のような感じなのでしょうか?」

「それだったら拍子抜けなんですけど……。私が昔攻略した時は、十九階層も魔物が跋扈していたはずです」

「ん。映像でもそうだったはず」

俺もアルナさんと同じく、十九階層が魔物で溢れているのを何度も映像で見た。

今回魔物がいないのはたまたまだろうと楽観視したいところだが、付近に戦闘痕が残っていることから、直近で戦闘が行われていたことが分かる。

「至るところに地面が削れたあとがありますね。ちょっと前までここで戦闘が行われていたみたいです。二十階層でキャンプを張っている冒険者が戦ったんでしょうか?」

「だといいけど……多分違う」

アルナさんのそんな否定の言葉に返事をするかのように、斜め前の崖からガリガリという奇妙な音が聞こえ始めてきた。

そして、どうやらその音は崖を登ってくる音のようで次第に大きくなり始め、とうとう崖際にかかった手が見えた。

「あれはキャニオンピークです! こっちに来ますよっ!」

いち早く崖を登ってくる魔物の正体に気が付いたロザリーさんが注意を促し、俺達は即座に戦闘態勢を整える。

一体、そしてまた一体と、次々に黒い体毛に覆われたキャニオンモンキーが崖から登り始め、あっという間に武装したキャニオンモンキーに囲まれてしまった。

「一番厄介とされているキャニオンピークですか。二十階層までの最後の階層で初めて、それも大群に出くわすとは思ってませんでした」

「いや……でも、キャニオンモンキーは確かに渓谷エリアで一番厄介な魔物なんですけど、それは崖から登るルートを取った時の場合だけでして、見たら分かる通りキャニオンモンキーは体も大きくなく力もありません。冒険者の装備に多少の知能はありますが、平地での戦闘はゴブリンに毛が生えた程度なので怖くはないんです。というか、群れであろうと平地では向こうから襲ってくるような魔物ではないはずなんですけど」

アルナさんがそこまで言いかけた時、崖からキャニオンピーク達が登ってきた音よりも一際大きい音が、地響きと共に鳴り始める。

崖を登るその音の大きさから魔物の体躯をイメージし、かなり嫌な予感がした。

ただ、キャニオンピークに背後を突かれる可能性を考慮したら、ここで引き返す選択肢は取れない。

じっと身構えたまま待っていると、崖を駆け上がる大きな音はとてつもない速度で崖を登り、飛ぶようにこの十九階層に姿を現した。

キャニオンピークに似た黒い体毛に金色交じりの金色の毛、それからブルーオーガを凌駕する圧倒的な体躯。

そんな巨体に長く太いシッポを体に巻き付かせると、その魔物は胸を叩いてこちらを威嚇しながら耳をつんざくような雄たけびを上げた。

あの魔物は……映像でも一度も姿を見たことのなかった渓谷エリアの希少種、“ピークガリル”だ。