軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三話 第七階層のボス

パーティでの初めてのダンジョン攻略から帰還した翌日。

昨日と同様の流れで陣形を回していき、俺達はあっさりと六階層まで辿り着いていた。

「ふぁーあ。……眠い」

「アルナさん! これからボス戦なんですから、しっかりしてくださいよ」

「耳元でうるさい。分かってるって」

そう煩わしそうに返事をしたものの、アルナさんは未だにあくびをかみ殺しており、こちらとしてはかなり心配になってくる。

昨日は攻略を終えたあと、いつもの喫茶店でボス戦での立ち回りについての話し合いを綿密に行ったため、連携に関しての心配はないのだが……。

どうやらアルナさんは、昨日のダンジョン攻略後に『亜楽郷』で働いてきたらしく、昨日の攻略から一睡もせずに今日の攻略へ臨んでいると話していた。

そのせいで先ほどから高頻度であくびをしており、今日の大きな不安材料の一つとなっているのだ。

それと……。

「ロザリーさんも動きについては大丈夫そうでしょうか?」

「え、ええ。だ、大丈夫だと思いまひゅ」

「……………………」

何故かロザリーさんはあがり症を発症しており、昨日の圧倒的な戦闘はどこへやらで、この六階層に辿り着くまでの戦闘も、かなり危なっかしい戦いを繰り広げていたのが目に付いた。

同じ条件なのに昨日はあがっておらず、今日はあがっている。

どうしてあがってしまうのかの条件がよく分からないが、いずれにしても今日は昨日のような期待は出来ない。

……二人がこんな状態なのであれば、昨日の内に攻略をしておくべきだったと考えてしまうが——。

流石にそれは結果論というもの。

勢いに任せて突っ込まずに帰還した俺の判断は、間違っていなかったと今でも思うし失敗から学べることだってある。

「あの、昨日は前衛二人を交代でって話をしたと思いますが、やはりアルナさんとロザリーさんの二人の前衛を固定でいきましょう。俺が常にサポートへ回りますので、攻撃の方は二人に任せました」

「ん。分かった」

「わ、分かりました」

本来ならば、弓をメインで使うアルナさんを後衛にするのがベストなのだが、今日の二人のコンディションを考えて、俺が完全サポートに回った方が安全に立ち回れると判断した。

俺は生成した植物で補助から回復に加えて攻撃まで行えるし、地道に生成して貯めた回復ポーションと劇薬ポーションをフル活用すれば更に幅は広がる。

この一年で必死に剣術を鍛え抜いたし、前衛をやりたい気持ちはもちろん強いが……。

俺が最大限に生きる役割は、【プラントマスター】を使ったサポートだというのは理解しているつもりだ。

ミスは許されないという緊張によって荒くなった息を整え、俺達は第七階層へと足を踏み入れた。

第六階層の階段を降りた先には、目を思わず閉じてしまうほどの眩い光が広がっていた。

第六階層までの薄暗い湿気た洞窟とは打って変わり、まるでダンジョンの外に出たのではないかと思うほどの草原が広がっている。

映像では何度も見た光景ではあるのだが、やはり映像と実際に見るのとでは全く別物。

急に暗いフロアから明るいフロアへと出たため映る景色が光り輝き、俺の目にはより一層綺麗に映っている。

フロアの広さは、端がギリギリ視認出来るくらいの広さで、そんな平原の真ん中には七階層のボスである‟双頭のミノタウロス”。

通称‟双ミノ”が、俯いた状態で両手に大きな棍棒を携えて座っていた。

「あの中央に座っているのがボスですね。情報通り、‟双頭のミノタウロス”のようです」

「見れば分かるし、ボスが情報通りなのは当たり前」

「わ、わたし……。ひ、久しぶりなんですが、あんなに大きかったでしたっけ……」

ボスを前にしても態度の変わらないアルナさんと、余計にオドオドとし始めてしまったロザリーさん。

アルナさんは初戦闘で、ロザリーさんは何度も倒しているとのことだったが、反応を見る限りはどうしても逆に思えてしまうな。

「じゃあ殺しにいってくる。サポートよろしく」

「あっ! 双ミノは見た目通りで死角がありませんので、二人で同時に攻撃してください。それと、あの体躯を見れば分かると思いますが、スピードもパワーもありますので不意の一撃には注意をお願いします」

「昨日聞いた。ロザリー、いくよ」

「ひゃいっ! が、頑張ります!」

注意した俺に対して怠そうに言葉を返したアルナさんは、ロザリーさんを連れて一直線に突っ込んでいった。

草原を駆ける足音が響き、アルナさんが蹴り上げた草が空へと舞うが、真ん中で座っている双ミノは未だに動かない。

そんな無警戒の双ミノに対し、ある程度の距離まで近づいたアルナさんは弓を構えると、二つの内の一つの頭目掛けて思い切り矢を放った。

風を切り裂きながら一直線に飛んでいく矢が、そのまま双ミノの頭にぶつかると思った瞬間。

歯軋りのような甲高い音の直後に、大気が震えるような雄叫びを上げて双ミノは立ち上がった。

そんな双ミノの姿は‟ボス”に相応しい迫力があったものの、無防備な状態からアルナさんの一射目を防げる訳は無く、矢は肉を抉り裂くように双ミノの腹部へと突き刺さる。

「ん。立たれたせいで狙いがズレた」

「攻撃に備えてください!」

不満そうに立ち尽くしているアルナさんに注意をしてから、俺も二人をサポートできる位置まで一気に走る。

腹部とはいえ完璧にクリーンヒットした矢だが、見た目以上にダメージは入っていない。

その証拠に双ミノは、刺さった矢など一切気にしていない様子で片手ずつ棍棒を握ると、感触を確かめるように軽々と振り回している。

そして筋骨隆々の体から生えた二つの頭は、それぞれ違う方向を見ており……。

やはり情報通り、双ミノに死角は一切ないようだ。

正面突破でしか倒す術のないこの双ミノに、二人がどう立ち向かうのか非常に楽しみではあるが……。

俺は俺で全力でサポートを行わないと死人を出してしまう可能性があるから、後衛だろうと気は抜けない。

注意深く観察している俺を他所に、二人と一匹は互いに睨みを効かせながらゆっくりと近づき——。

「【パワーアロー】」

俺も初めて見るアルナさんのスキルによって、双ミノとの本当の戦闘が始まったのだった。