軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

99 定期考査の結果

「なあ周、お前今回気合い入れすぎじゃね?」

廊下の掲示板に貼り出された定期考査の順位を眺めて、樹はやや呆れたように呟く。

周は、勉強会の後もせっせと勉強に励みテストに挑んだ。単純に最初の目的である自分に誇れるように、というものもあったが……何より、真昼のあの笑みを頭から追い出すために集中していた、というのが大きい。

『……遠慮なく駄目にしてさしあげますので、安心して駄目になってくださいね?』

艶っぽく囁かれた言葉を思い出すだけで悶えたくなるのだ。

なるべくあの言葉と表情に思考を割くまいと勉強に集中した結果――今回の六位に繋がったのであろう。

「や、俺もここまで行くとは」

「頑張ったなー。自信持てたか?」

「……まあまあかな。これを繰り返し取ることが当たり前に出来るくらいじゃないと」

「ストイックなやつめ……」

一回取れたからと言って油断して落ちるなんて様は、真昼に見せたくない。この上位に居る事が恒常的になるようにしなければ意味がない。

今後の大学受験も考えれば、これで満足して止めるなんて言語道断だ。付け焼き刃でどうにかなるものではないので、今後に備えるという意味でも勉強には力を入れていきたい所だ。

ちなみに真昼は今回も首位を独走している。流石には流石だが、常日頃から努力しているお陰なので、流石という言葉で片付けられるものでもない。

「藤宮さんは今回六位なんですね」

後から見にきた真昼が周の名前に気付いたらしく、美しく微笑む。

天使様モードの真昼に、周は動揺を表に出さないようにして軽く笑って見せる。

周囲からちくちくと視線を感じるので、先日を思い出して恥ずかしがってる暇がないというのもあった。

「みたいだな。よかったよかった」

「ふふ。頑張ってましたもんね。休み時間も勉強してましたし」

「……ああ」

「こんなに頑張ったなら自分にご褒美あげてもいいのでは?」

「そう、だな」

ご褒美の存在を思い出して、悶えたくなった。

そういえば真昼の膝枕耳掻きの約束があったのだ。頭から色々と追い出していたために普通に忘れていたが、十位以内に入ればしてくれるそうなのだ。

もちろん拒む事は出来るだろうが……好きな女の子に甘やかしてもらえる、という幸福を蹴る事なんて出来ようか。

「……そういう椎名も一位おめでとう。椎名こそ自分にご褒美与えるべきじゃないか?」

「そうですね。でも、自分を甘やかしすぎるのもよくないので」

「椎名は自分にストイックだからもう少し甘くしてもいいと思うけどな。まあ、俺がどうこう言える事じゃないけど」

そういえば自分はご褒美をもらう事になっていたが、真昼は何もないのでご褒美をあげるべきなのではないか、と思う。

かといって何をしてあげるべきなのかは分からないので、帰って真昼に聞いてみなければならない。

天使様の微笑みをたたえる真昼に、樹が小さく「お前なんか労ったら?」と告げる。

言われなくてもそうするつもりなので、今日帰宅したら聞いてみると心に誓った。

「え、私へのご褒美、ですか?」

帰ってエプロンを身に着け夕食の支度をしている真昼の背中に声をかければ、きょとんとした表情を浮かべて振り返ってくる。

周としてはおそらく夕食後に待っているご褒美やら先日の小悪魔の微笑を思い出して微妙に落ち着かないのだが、どうやら真昼はそれに気付いた様子はなくあくまで想定外という色で表情を染めている。

「別に欲しいものとかこれといってないですけど」

「して欲しい事とか……」

「周くんにですか? うーんそうですね、そこにある胡瓜をスライサーで薄切りにして欲しいくらいですかね」

「そういうのじゃなくて。……いやないなら無理に言わなくても良いけどさあ」

欲がないというか本気に受け取ってない気がするものの、あまり押し付けてもよくないので軽く下がる。

別に真昼が要らないというならそれでいいが、何かして欲しい事があるなら周に出来る範囲で叶えるつもりなのだ。

とりあえず胡瓜をスライサーの餌食にして欲しいらしいので、手を洗って用意してあったスライサーで薄く切っていくが、確実にこれは手伝いをしているだけである。

「それ塩揉みしておいてください」

「あいよ。……ほんとにないのかよ」

「別に、私としては現状で満ち足りてますので。……そもそも、私の本当に叶えたい願いは、自分で叶えるものだと思ってますし」

「本当に叶えたい願い?」

「何だと思います?」

スライサーから顔を上げると、真昼が静かに唇に弧を描かせている。

その表情が一瞬先日の小悪魔めいた笑みに見えてしまって、どうしても直視出来ずきゅうりに視線を落とした。

「……わ、分からん」

「でしょう? ですので、いいです。このままで、いいのです」

周の言葉に苦笑した気配があった。

それ以上は周に何も追求させないような空気をかもしてまた調理に戻る真昼に、周はどうしていいのか分からずただきゅうりを薄切りにし続けるしかなかった。