軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

98 天使様と小悪魔の微笑

結局のところ、ゲーム大会は夕方頃まで続いた。

流石に勉強が続けば集中力が切れてくるので、途中からは勉強に一区切りをつけて周も参加していた。というか、集中力が切れたのは立て続けの自習のせいだけではないのだが。

(尽くしたい人に尽くすってどういう意味だ)

真昼の小さな呟きが頭の中をぐるぐると回っていた。

元々真昼が誰かのために動くのが好きな人間という事は分かっているのだが、ああいう言い方をされると、周に好意があるという風に取れるではないか。

確かに周は真昼に好かれているがそういう異性的な意味ではないと認識していた。

しかし、あんな風に言われると男として好きで尽くしてくれるのではないかという妄想が湧いてくる。

(いや人間として俺がだめだめだから尽くすというか世話を焼きたくなる的なのなら分かるけど)

むしろそっちの方があり得そうなくらいには周は家事が出来ない。いや、努力すれば生きていく分には問題ない程度には出来るが、真昼に甘えきりだ。

面倒を見たくなるという意味での方なのか、それとも好きだから世話を焼きたくなるのか、どっちなのか。

真昼を好きな身としては後者に期待したいし、決して脈がないという訳でもないとは思うが、あの真昼が自分を好きになる、という事を想像する時点で色々と無理が出てしまう。

「あまねー、場外落ちてる」

「えっ」

ゲームの最中に考え事をしたせいで、操作ミスして自キャラを落下させていた。残機ももうないので復活は出来ず、一抜けしてしまった。

樹、千歳、門脇は接戦を繰り広げている。

普段なら、門脇の実力は分からないが即負けなんて事はない。それだけ思考が真昼の言葉に割かれているという事だろう。

「やっぱ勉強で集中力切れてたんだろ、ぼーっとしてるし」

「……そうかもな。真昼、次やるか?」

「いえ、私そろそろ夕食の準備しなくてはいけないので……」

時計をちらりと見る真昼の視線を追うように視線を移せば、もう七時前だ。夕食の準備をするには些か遅い時間だろう。

「あ、ほんとだ。もうこんな時間か……帰らなきゃいけないねえ。流石に泊まるのは無理だし」

「だなあ。ちぃは椎名さんのうちに泊まりたかっただろうけど、着替えとかないし。本人に許可取ってないし、流石にちぃだと椎名さんのはサイズ合いそうにないからな」

「ねえそれどこ見て言ってるのいっくん」

「勿論背丈ですハイ」

そこのカップルがいつものように仲良く喧嘩をしているのを、真昼はくすりと見守っている。

「また今度お泊まりにきてください」

「いいの?」

「はい。事前に言ってくれたら」

「じゃあ俺もそれに合わせて周んちに……」

「飯目的な気がする」

「ばれたか」

椎名さんのご飯美味しいからな、と悪気もなさそうに笑う樹にため息をつきつつ「真昼が許可出したらな」と告げる。

いつもより多く料理を作るのは彼女なので、こっちの一存では決められない。もし許可がでなかったら外食なりコンビニなりになるが、それはそれで男同士の泊まりという感じなので悪くはないだろう。

真昼はにこやかな笑みで承諾しているので、その内また泊まりにくる気がした。

「今度は門脇もくるか?」

「え、いいのか」

「そりゃあ」

「なら周の背中を蹴る会の会合しようぜ」

「おい何勝手に妙な会を作ってるんだ」

「だって、なあ?」

にまー、と笑みを浮かべた樹に頬をひきつらせれば、門脇は呆気に取られた後安堵したように笑みを浮かべた。

「なあ真昼。……その、尽くしたい人に尽くすってどういう意味だよ」

彼らが帰った後、周は気になっていた事を躊躇いつつ、玄関に立ったまま問いかける。

本当は聞くか聞かないか迷ったのだが、樹の帰り際にどうするべきかとこぼしたら「いいから聞いとけ」と蹴られた。

物理的に蹴るとは聞いていなかったので周も仕返しにはたいておいたが、彼には懲りた様子がなかったので無意味そうだ。

真昼は質問にぱちりと瞬きを繰り返して、それからゆるりと口の端を持ち上げる。

「どういう意味だと思います?」

「……世話の焼ける駄目男から目を離したくない的な?」

流石に自分の事を好きだから、なんて自意識過剰にもほどがあるような妄言は言えなかった。

「ふふ、そうですね。周くんから目を離すのは怖いです。油断したら部屋はぐちゃぐちゃになるでしょうし、栄養バランスもガタガタになるでしょうから」

「うっ」

「周くんは私が居ないと駄目駄目ですからね」

「返す言葉もございません」

実際真昼には非常に世話になっている。彼女が居なければ、周はこの生活を維持出来ない。

「……いいんですよ? 私としては、周くんのお世話するの好きですから」

「堕落させてくる……真昼抜きに生きられない体にさせられる……」

「ふふ」

彼女の恐ろしいところは、既に真昼が居ないと生活的にも精神的にも駄目になっているところだろう。

色々な意味で彼女の虜になっていて、離れがたい。というか離れられないし離したくなかった。もちろん、好きだから、というのが一番の理由だが。

これで告白してフラれでもしたら、割と真面目に精神的と生活的に死にそうである。

それだから前に進めないんだよなあ、と声に出さずに自嘲した周に、真昼は何を思ったのか周に体を寄せる。

くっつく、というほどではなく、ほんのりと触れる程度。周に真正面から近寄って見上げて――人差し指で、周の唇をなぞった。

「……遠慮なく駄目にしてさしあげますので、安心して駄目になってくださいね?」

いたずらっぽく瞳を細めてはにかんだ真昼に、周は息をするのも忘れて彼女を見つめた。

今までに見た事のないような、甘くて、それでいて刺激的な……どこか妖艶さすらある笑み。小悪魔的とすら言える、本人の言葉通り人を駄目にしそうな微笑みは、周の心臓を責め立てるのには充分すぎるほどだった。

体の中で心臓が暴れ血流が激しくなるのが、分かる。

美しい天使のような笑みや消えそうな繊細な微笑み、あどけない笑顔と色んな笑い方を見てきたが、今の真昼ほど色っぽさを感じたものはない。

硬直した周を満足げに眺めた真昼が「じゃあご飯作ってきますね」といつものような笑みに戻ってキッチンに向かうのを、周は燃え上がりそうな顔のまま見送った。