軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87 王子様の追及

「門脇さん」

門脇の姿に、真昼がすぐに学校で見せるような天使の笑顔を浮かべる。

ただ、いつもよりややぎこちなく感じるのは、内心かなり動揺しているからだろう。

ゴールデンウィークなので同級生と出会う可能性は大いにあるとは認識していたものの、まさか最近話すようになった相手が現れるのは思ってもみなかった。

「椎名さんがゲームセンターに居るって意外というか……ええと、もしかして邪魔した?」

周の姿を見て困ったように眉尻を下げる。まだ周だとは認識されていないようだが、喋れば確実にばれる。それに、門脇は割と人をよく見ているので、気付かれないとも限らない。

「いえ、そんな事は……」

「椎名さんに恋人居たって初耳だよ」

「恋人とかそんな関係ではないです」

きっぱりと否定した真昼に、微妙に胸が痛くなったものの、事実付き合っていないのだから当然否定するだろう。むしろそこではいそうですと言われる方がおかしいのだから、期待しても無駄だ。

「い、いやどう見ても……ん?」

真昼の頑なな態度に困惑しつつ更に追及しようとして、門脇はふとこちらを見る。

視線が合って、周の頬がひきつった。

訝るように周をじっと見つめてくる門脇。周としては、非常にまずい状況だった。

「……藤宮?」

案の定、こっちが誰かを見抜いてきた。

まだあまり長い期間接していないが、それでも門脇には洞察力があるのは分かっている。幾ら周が髪を整えて普段と違った格好をしていようと、親しくなり始めた今はもう誤魔化せない範囲らしい。

そう親しくない人間はそもそも周の顔なんてわざわざ注視しようとしないからこの顔と結び付かないだろうが、門脇にはそうは行かなかったようだ。

「え、藤宮……だよな? 背丈とか顔立ちとか、よく見れば……。もしかして、椎名さん藤宮と前々から知り合ってて学校で接触するようになったのか?」

「いえ、その……」

真昼が言いよどんだのを見て確信に至ったらしい門脇が周と真昼を見比べて、やや呆気に取られたような表情を浮かべる。

以前なら接点がないので否定出来たのだが、今はそうはいかない。

はあ、とため息をついて額を押さえた周は、物珍しそうというか困惑が強そうな顔を浮かべている門脇を見る。

「……よく分かったよな、俺って」

「やっぱりか。いや、なんか雰囲気とか顔立ちが藤宮だったし」

「そんな分かりやすかったか?」

「いや、多分クラスの人間でもそうそうにはバレないと思う。藤宮、あんまりそういう顔しないし」

そういう顔とはどういう顔なのか分からなかったが、とりあえず例の男と周が顔面理由にイコールで結びつけられる事はなさそうなので安心した。

「というか、椎名さんと藤宮の関わりが意外すぎる」

「……隠しても無駄そうだから言うけど、門脇が言う通り、確かに俺達は二年になる前から知り合っていた。まあ仲がいいのも認める。けど、別に門脇が思ってるような関係じゃないよ」

「……そうか?」

「そうだ」

真昼もきっぱり否定していたので、自分で言うのも悲しくなってくるがきっちり否定しておく。

ここで誤解されたままだと真昼が困るだろうし、門脇だからそう心配していないが邪推されて外に洩らされても困る。口止めもしないといけないだろう。

毅然とした態度を取れば、真昼がこちらの服の裾を掴んで見上げてくる。何か言いたげだったが、口を開こうとはしないのでとりあえずそっとしておく。

門脇は周と真昼の様子を見て納得しているのか納得していないのか、小さく肩を竦めた。

「ふーん……。まあそれはいいんだけど、樹が言ってた通りというか」

「なにがだよ」

樹が何か口を滑らせていたのか、と自然と瞳が細まったが、門脇は「心配してるような事じゃないよ」と笑う。

「いや、ちゃんとお洒落すればカッコいいって。しっかり決めてるなあと」

「門脇に言われると嫌みに聞こえるぞ」

学年一、下手すれば学校一の色男に褒められても苦笑するしかない。

門脇は何をせずともカッコよく素がイケメンのタイプなので、周のような格好をつけてようやく人並みより少し上くらいの男からしてみれば羨ましいものだ。妬むとまではいかないが、ああ生まれる事が出来たならもう少し人生が輝いていそうだな、とは思う。

「そういうつもりじゃないよ。ただ、普段からそうしていればいいのにって」

「やだよ、面倒臭いし。いきなりこの格好で学校行ったら目立つし」

「まあそれもそうだけどさあ……椎名さんは藤宮がこういう風になるって知ってたんだ」

「それは、その、はい」

居心地悪そうに頷いた真昼を、門脇はじっと見つめる。

疑うとか値踏みするとかそういった類いの視線ではなく、何かを見定めるように真昼を視界に捉えている、というのが近いだろうか。

「うんうん、何となく分かってきた」

「何がだよ」

「椎名さんも苦労するなあ、と」

その一言に真昼がびくりと体を震わせたものの、門脇は「椎名さんって案外分かりやすいね」と小さく笑った。

浮かんでいるのは淡い笑み。ほんのりと生温かく、そしてどこか寂しげにも取れる羨望の表情でもあった。

「あの、門脇さん」

「うん?」

「その……この事は、他の人に言わないで欲しいです。な、仲がいいとか……色々」

言われては困ると口止めに入った真昼に、門脇はあっさりと頷いた。

「ああ、その事については心配しなくてもいいよ。隠してる理由はなんとなく察するというか俺も気持ちは分かるから。それに、言い触らされたら嫌なのに言い触らして楽しむ趣味はないし」

これほど門脇が人格者だった事に感謝した事はないだろう。

それと、門脇は若干身につまされるところがあったのかもしれない。彼は非常に女性人気が高いゆえに同性から嫉妬を向けられる事もあるし、反対に仲の良い異性が出来たらその子に危害を加えられる、という事を言っていたので、もしかしたら経験からの愚痴だったのかもしれない。

たとえ交際関係になくとも、周のような地味なタイプが表向き誰にでも分け隔てなく優しい天使様と友人だと言われれば、反感はあるだろう。

そういった事を考えて口を閉ざしてくれる門脇には感謝しかない。

「すまん門脇」

「いやまあ普通の事だと思うけどね。つまんない事で藤宮と縁切れるのは嫌だし。折角仲良くなれたんだからさ」

にっ、と爽やかな笑顔を浮かべた門脇に、そりゃこれはモテるよなあ、としみじみと納得してしまった。

男からでも気取らず気さくでいいやつなのだから、女子からしてみれば当然魅力的に写るだろう。顔面だけでなくて中身まで兼ね備えているのだから、男子としてはちょっとやっていられないが。

「ああそうだ藤宮」

「ん?」

「また明後日な」

微妙に含みのある声で告げられた日時は、樹と門脇三人でカラオケに行く日だ。

つまり、そこで事情をもう少し聞かせろよ、という事だろう。

視線が合えばにまっとからかうような笑みを浮かべられた。これは彼なりの信頼に基づくものだろうから、周は微妙に居たたまれなさを覚えつつも「おう」と返す。

そんな周と門脇を、真昼はほんのり羨ましそうに見守っていた。