軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

85 天使様と周のおすすめ

真昼に手を引かれる形で道沿いに並んだ店を眺めていくが、改めて思ったのは真昼はやはり人目を惹くという事だ。

普段から天使様と呼ばれるだけの清楚な美しさを持っているのだが、今の真昼は庇護欲をそそり触れたくなるような愛らしさと屈託のなさを遺憾なく発揮している。

天使様モードの真昼は絵のような美しさと儚さがあり、 触れてはならないといった気持ちにさせる。ただ、それは繊細すぎるし作り物めいた美貌ゆえに、周にはやや生気がないようにも見えてしまうのだ。

今こうして手を繋いでいる真昼は、純粋な笑顔を浮かべ生気に満ち溢れている。声に出さずとも「楽しい!」という感情が周を掴む手や足取りから窺えた。

控えめに微笑むのも綺麗だが、こうして感情を表に出して喜びに満ちた笑みを浮かべている方が、取り繕った姿よりずっと可愛く見える。

「……どうかしましたか?」

「いや、お前と歩くと視線の量すごいなって」

男女共に視線がこっちに向いてるので、真昼の美少女さを思い知らされているのである。

「……私だけが見られてる訳じゃないと思いますよ?」

「まあ付き添いの俺にもある程度値踏みの視線はくると思うが」

「そういう意味じゃないです、もう」

不満げに見上げられたものの、それ以上は続ける気がないのかきゅっと手を握り直した。

小さく「周くんは自覚がないのが困りものです」と呟かれたが、真昼と並べば当然自分も見られるのは分かっているし、比較すれば劣るのは明白なので自覚も何もないだろう。

「まあいいです、これは追々ご理解いただけるまでゆっくりと私がお話ししますし」

「えっ何それこわい」

「怖いとは失礼ですね……あなたが悪いのですよ?」

つん、と人差し指で鼻を押されて黙らされる。

ただ、不機嫌というよりからかうような笑顔を浮かべて周の鼻をちょんちょんと小突いて、満足したのか離して周の手を引いた。いや、正しく言えば周の腕に身を寄せてきた。

「……自信持ってくれたら、もっと話は早いのですけど」

二の腕に額をくっつけながら呟いた真昼に、耐えきれず周は目をそらす。

「あの、真昼さんや」

「なんですか」

「わざとなのか?」

「わざと?」

「……その、胸を当ててくるのは」

無意識でもわざとでも勘弁して欲しいという気持ちを込めて指摘すれば、真昼が弾かれたように離れる。

頬が赤くなるのをなんとか抑えつつ真昼を見れば、真昼の方が顔を赤くしているところだった。

「そ、そんなつもりないですっ」

「うん反応で分かる。お前慣れてくると無意識にくっつくからそれでくっついたんだな。気を付けてくれ」

周も男なのでやっぱり異性の体は気になるし、なんなら胸は触る許可さえあれば触りたいと思うくらいには普通に煩悩があるので、真昼には気を付けてもらいたい。

真昼はまずそういう欲が嫌いそうなので表に出さないようにはするが、無意識に誘惑されると結構きついものがあるのだ。

自分の胸部に殺傷能力がある事にようやく気付いたらしい真昼が真っ赤な顔で唇を閉じてぷるぷるしているので、周は苦笑してそっと距離を取る。

そういう事を意識されている、と気付くのは恥ずかしいだろうし不快になるかもしれないので、との配慮だったのだが、真昼は少しショックを受けたように周を見上げた。

「……手、離さないでください」

「え」

「まっ、迷子になる、かもしれませんし……はぐれたら、やです」

上目遣いにそんな事を言われて無理だとは言えず、羞恥も収まりきらないままおずおずと真昼の手を取る。

前のように小さな掌を握ると、真昼はまだうっすら頬を染めたまま、安堵の笑みを浮かべた。

また距離を戻して、くっつかない程度に身を寄せる。

「……その、わざとじゃないですし……あ、周くんなら、ちょっとくらい平気ですから」

「そういう事を言われると調子に乗るからやめような」

小声で囁かれて不覚にもどきっとしてしまったが、真昼は慣れている人間にちょっと当たったところで怒らないという事を言いたかったのだろうと認識して、静かに息を吐く。

割と調子に乗りそうで自制しないと色々と大変だった。心臓とか、理性とか、その辺りが。

「ほら、あのマネキンの服真昼に似合いそうだぞ。見ていかないか?」

頬の熱を誤魔化すように空いた手で指差せば、真昼が「周くんの好みなんですか?」と興味を示したようで、自然と二人の足はその店に向かっていた。

「これですか?」

「ん、まあ。真昼は何でも似合うけど、こういうのもやっぱ似合いそうだなあと」

マネキンには、白地に細いストライプ柄のオフショルダーワンピースが着せられている。

夏服なので生地はやや薄めで肩も出ていて涼しげな印象を抱かせた。

こういう服は華奢でデコルテが綺麗な女性がよく似合うので、真昼ならよく似合いそうだと思ったのだ。

マネキンの隣に立った真昼を見ながら脳内で着せてみても、爽やかで涼しげな真昼の姿がすぐに思い浮かぶ。麦わら帽子がよく似合いそうな姿だ。

「ちょっと試着してきますね」

真昼の決断は早かった、というか予定してたかのようにマネキンの側にかけられた同じ服を手にとった。

微妙に気合いの入っている真昼にちょっと気圧されつつ鞄を預かれば、彼女はすぐに試着室に消えていく。

なんであんなやる気満々なんだ、と困惑しつつ真昼が着替えるのを待つのだが、何やら周りから生暖かい視線が寄せられて更に困惑する羽目になった。

店員だけではなくて周囲の客まで微笑ましそうにされて、周としては非常に居心地が悪い。

早く帰って来てくれ、と心の底から思いつつ真昼を待っていたら、ようやく試着室のカーテンが開いて真昼が出てきた。

ただ、服は着替えていない。

「お帰り。……着なかったのか?」

「いえ、着てサイズは確かめました。ただ……その、今は下着的な問題で見せられないというか……」

「す、すまん」

今着ているシフォンブラウスもそれなりにデコルテが見えるものの、オフショルダーの比ではない。

ああいう肩だしの服を着る時はいつもと違う下着を着けているらしいので、今は見せる事が出来ないのだろう。

「ただ、周くんが似合うだろうって言ってくれましたし、着て気に入ったので買います」

周からバッグを受け取って腕に抱えたワンピースをレジまで持っていくので、慌てて後を追いかける。

真昼に似合うと自分が言い出したので払うべきかと財布を取り出そうとしたのだが、真昼が鞄を探ろうとした周の手を止める。

「駄目ですよ。これは、私が買って周くんに見せびらかさなくてはいけないのです」

「お、おう」

「といっても、これもっと暑くならないと着られませんけどね。夏までお預けですね」

楽しみにしていてください、とはにかんで会計を済ませる真昼に、周は唇を閉じてその場に座り込みたくなるのを堪えるのに必死だった。

(めちゃくちゃ可愛い事言ってるな、くそ)

まるで自分のために着てくれる、と言われているようで、非常に心臓に悪い。

会計している店員と視線が合えばにこにこと実に愛想のよい表情を向けられたので、周は唇を噛んで視線を逸らすしかなかった。