軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74 天使様の決意

「樹、藤宮ー、一緒に飯食おうぜー」

学校での昼休憩、いつものように樹と昼食をとろうとした周に、最近聞き慣れてきた声がかけられる。

見れば、相変わらずの爽やかで且つ人懐っこそうな笑みを浮かべた門脇が片手を挙げていた。

先日門脇と話した事で彼はわりかし周を気に入ったのか、ちょくちょく声をかけてくれるようになった。といっても挨拶程度だったのだが、今日は違うらしくお財布を片手に近寄ってきた。

「俺は別にいいけど……」

「樹もいいだろ?」

「何オレ断らない前提なの。構わないけどさあ、珍しいっつーか意外っつーか」

門脇は基本的に積極的に周に構う事がなかったので、樹にとっても珍しいのだろう。一番驚いているのは周だが。

「周、お前優太になつかれたの?」

「なつかれたって……犬じゃあるまいし」

「優太は割と犬系だぞ。一回信用してなつくとしっぽ振って構え構えってくるタイプだし。なんつーかゴールデンレトリバーっぽい」

「お前ら本人の目の前で犬とか言うなよ」

樹に突っ込みを入れているが、雰囲気が確かにゴールデンレトリバーだと思うとつい笑ってしまう。

周が肩を震わせたのに気付いた門脇はムッと少し不服そうにしたが、気分を害したというよりはからかわれて表面的に拗ねたというような感じだ。

「藤宮も笑うなよ」

「い、いや、すまん」

「周もやっぱ思ったんじゃねえか」

「いい得て妙だなと……」

「くっ藤宮お前まで。あのなあ、俺は単に藤宮はいいやつだって思ったから仲良くなりたかっただけだよ」

「まあ周のいいところを知るやつが増えるのはよい事だ、近うよれ」

「何様だお前は」

ぺしーん、と手の甲で突っ込みを入れつつ言葉通り近寄ってきた門脇は、周と視線を合わせてにかっと眩しいスマイルを浮かべた。

向ける相手を女子にしたらさぞ落とせるんだろうなという笑顔に、周は苦笑が浮かぶ。

「……一ついいか?」

「ん?」

「お前みたいな人気者が俺みたいな普通のやつと居ていいのかよ。あんま得がないぞ」

門脇は周に興味と友人としての好意を持って仲良くなろうとしてきているのかもしれないが、周としては門脇がわざわざ仲良くなるようなメリットが自分にはあるようにも思えないのだ。

彼には友人がたくさん居るし、わざわざ周と友達になる必要があっただろうか。

もちろん、人間が損得勘定だけで友人付き合いをしている訳ではないと分かっているし、自分はメリットデメリット抜きに感性で付き合いを決めているが、門脇がわざわざ周を選んだ理由が分からなかった。

周の言葉に、門脇はきょとんと不思議そうな表情を浮かべた。

「藤宮は損得で友達付き合いしてないだろ?」

「そうだけどさ」

「じゃあいいだろ。俺は藤宮と仲良くしたいから話しかけてるんだし」

からりと晴れ渡った空のような笑みに、周はやはり彼の存在が眩しくて目を細めた。

「……おう」

「うんうん、仲良き事はよき事だ」

樹がにやにや笑いながらそう感想を口にして、すいっと視線を別の場所に移す。

樹の視線の先には、笑顔で「まひるんはいじらしくて可愛いなあもう」と真昼に抱きついている千歳と、されるがままの真昼が居た。

千歳のスキンシップはいつもの事だし、クラスでも最近慣れ始めたのか美少女同士の触れ合いとして捉えられて微笑ましそうに、もしくは羨ましそうに眺められていた。

周もいつもの事として見たのだが、樹は二人の戯れを見ながら小さく苦笑した。

「どうかしたか?」

「んーにゃ、なんでも」

彼は誤魔化すように笑って三人で食堂に行くべく歩き始めたので、周と門脇もそれについていくように歩き出した。

「私決めました」

家に帰って夕食後、急にそんな事を言い出した真昼に周はぱちくりと大きく瞬きを繰り返した。

「急にどうした」

「決めたんです。我慢しません」

「お、おう、よく分からんがお前はいつも我慢してるから無理に我慢しなくてもいいと思うぞ」

何か理由があって決心したようだが、その理由がわからない。

それでも、真昼は努力家で忍耐強いし我が儘を言わない子なので、我慢するのを止めたというのなら受け入れる、というか率先して褒めるつもりだ。

「本当ですか?」

「おう」

「言質取りましたよ」

「なにするつもりなんだよ……」

「……聞きたいのですか?」

「そりゃまあ」

「怒りませんか?」

「怒る事するつもりなのか」

この調子だと自分に関わる事のようなので、一応聞いておかなければならないだろう。

真昼が人を害する事はまずないのでそう心配はしていないが、果たして彼女は何をするつもりなのか。

じっと彼女を見つめると、恥ずかしくなったのかほんのりと頬を染めて、両人差し指を絡めてもじもじとためらうようなしぐさを見せる。

「……私は、周くんと、学校でも仲良くしたいです」

我慢をやめる、というのは、他人の振りをやめる、という事なのだろう。

「あのなあ」

「私だけのけ者みたいですし」

「う」

ややしょげた顔でそう言われると、弱い。

周は前から千歳とは普通に話しているため、周と真昼の仲を知っている二人とは学校でも普段通りに話せる。ただ、真昼とは流石に話せず、千歳が樹に話しかけにきた時は真昼が仲間はずれになるのだ。

他にもクラスで友人は居るようだが、千歳ほど打ち解けてはいないので、どうしても少し寂しそうに見えてしまう。もちろん天使様の笑顔で包み隠しているが、慣れてきた周にはやはり寂しそうと捉えてしまう。

それは分かっているし何とかしたいものはあるが、流石にはいそうですかと頷けるものでもなかった。

「……でもさ、天使様がいきなり俺みたいな地味な陰キャと仲良くするのはおかしいだろ?」

「そこは織り込み済みです。考えはあります」

「まさかの対策済み」

「当たり前です。……周くんは私以上に自分を卑下しているというか、自己否定が強いのが問題ですけど、周くんに自信を持ってもらえるように私も頑張りますので」

「何考えてるんだほんと……」

存外寂しがりやなのは察していたが、まさか積極的に関わろうとしてくるとは思っても見なかった。

出会った頃では考えられないような懐きっぷりに、喜べばいいのか苦笑すればいいのか。

「……いや、ですか? 私が学校で話しかけるの……」

「もちろん嫌ではないけどさあ。俺みたいな……」

「周くん」

遮るように名前を呼ぶ声は、凛として、どこか咎めるような声だった。

「俺みたいな禁止です」

周くんは自分を卑下する癖あるんですから、とちょっぴり怒ったように、真昼は周の鼻を人差し指で小突いた。

「次言ったら……ええと、めっ、します」

「めっ」

「めっ、して、罰として私の気が済むまでしつこく頭撫で回します」

「それむしろご褒美なんじゃ……」

「えっ」

「あっ」

うっかり本音を漏らしてしまって、頬がひきつった。

真昼に頭撫でられるのは明らかにご褒美でつい言ってしまったのだが、流石にこれは言うべきではなかった。

その証拠に真昼は周を見て固まって、それからうっすらと頬を赤らめておろおろとしている。

まさか罰がご褒美だとは思っていなかったのだろう。可愛らしい罰過ぎてなんら罰になっていない辺りが真昼らしかった。

周も本音というか若干の欲が口から出てしまったが故に口を開けず、沈黙が訪れる。

互いに視線をうろうろとさせ、しばらく忙しなく身じろぎしていたのだが、真昼が意を決した風な表情で周に軽く両手を広げてみせた。

「……し、しますか? 」

これはそこに飛び込んで頭を撫でられろ、という事なのだろう。

そんな事をしたら確実に頭が茹で上がってしまうので、出来ない。いや、ものすごく申し出にはそそられたのだが、本人がやましさは全くなく周にも他意を疑っていないのに、やましい思いを持って密着しにいくというのはよくないだろう。

ごくりと生唾を飲んだものの実行には移せず、首を振って「結構です」と敬語で返した。

流石に、何食わぬ顔で柔らかさを堪能するなんてのは、無理だった。

「お前はそういう事を男にしようとしない。やるなら千歳にしとけ」

「……千歳さんの方が身の危険を感じますよ?」

「あいつはセクハラしてきたらは叩いていいから。あと俺が仮になんかすけべな事をしようとしたら遠慮なく殴れよ」

「そういう事を言う周くんを疑ったりしませんっ。と、とにかく、次言ったら髪をもふもふしますからね!」

結局罰を変えるつもりがない真昼に、おそらく罰は受けると羞恥心と理性が大変な事になると察した周は、なるべく彼女の前で自分を卑下するのはやめようと誓った。