軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

71 王子様の悩み

「あれ藤宮、珍しい」

放課後にゲームセンターに寄っていた周が両替機にお札を突っ込んでいると、聞き慣れはしないが聞き覚えのある声が聞こえた。

小銭を財布にしまいつつ振り返ると、門脇が立っていた。どうやら彼もゲームセンターで遊びに来たらしく、財布片手に周の後ろに立っていたのだ。

「門脇こそ珍しい。部活は?」

「今日は休み。毎日負担かけすぎるのもよくないからな」

「そうか」

陸上部のエースだからと言って部活漬けではないのだろう。休養もしっかりとる、という事らしい。

両替し終わったので退いたら、門脇も同じように両替機にお札を飲み込ませ硬貨を吐き出させている。

しっかり二千円分程両替をして財布に仕舞った彼は、つい眺めていた周を見て笑った。

「俺、藤宮は割と優等生イメージで、こういう所で見かけるとは思ってなかったな。見かけてびっくりした」

「普通にゲーセンくらい行くよ。あんまお金の無駄遣いはしたくないから滅多な事ではこないけど」

「ふーん。じゃあ今日は何でまた」

「クレーンゲームしにきた。ぬいぐるみ頼まれたっつーか」

頼まれた、というよりは千歳が『これとかこれまひるん好きそうだよー?』とゲームセンターのホームページにある入荷表を見せてきたので、最近微妙にしょんぼりしてる真昼へ贈り物として取りに来た。

それに、千歳から送られてきた例の写真を見た感じでは、あまり装飾品のない部屋だった。折角ならこういった可愛らしいぬいぐるみをあげたいし、くまのぬいぐるみにも仲間を作ってやるべきだろう。

「ぬいぐるみとか取れるのか」

「割と得意」

このゲームセンターはアームの力が強いので取りやすいし、物の重心や配置、アームの力のかかり方さえ理解していれば案外ぽろっと取れるのだ。

小学生時代、志保子に『これはねー、ここにアーム差し込むと取れるのよ。こっちはタグのところにアーム通せばいけるわね』と色々教えてもらったお陰だろう。

母親が無駄に多才なところを見せてくるので、周も妙なテクニックやら知識やらが付いていたりする。

意外そうに門脇が見てくるので、物は試しと彼を伴ってクレーンコーナーに移動して、新入荷コーナーにあるうさぎのぬいぐるみが積まれた台に無造作に硬貨を投入する。

アームの強さや配置を見た限りでは、ワンコインで充分だろう。何百円かかけないと取れないものもあるが、これくらいなら問題なく取れる。

あまり知らないが何かのキャラクターらしいうさぎのぬいぐるみの頭と胴体の接続部分を狙ってアームを合わせると、うまい事アームに頭が引っかかって胴体は落ちているが頭で支えて固定された状態のまま持ち上がる。

あとはレバーから手を離せば、自動的に取り出し口に落ちてくるものだ。

ぽてんと落下したうさぎのぬいぐるみを取り出して軽く門脇に振って見せると、門脇は感心したように「おー」と声を上げた。

「ここのゲーセンはアーム強いし、店員が親切だから困ってたら取り方とか教えてくれるから初心者にもおすすめだぞ」

「だからここがいいって樹達が言ってたのか」

門脇は「なるほどなー」と得心したように頷いていた。

「ちなみにこれ人にあげるやつ?」

「おう。世話になってるし、日頃の感謝としてあげようかと」

嘘は言っていない。

相手が真昼と言っていないだけだ。お世話になっているのは事実だし、日頃の感謝の気持ちもこもっているのも事実だ。

あとは単純に、ぬいぐるみに囲まれた真昼も可愛いだろうな、とちょっぴり私欲が混じっていたりする。

「藤宮はまめな男子なんだな。でもなんか分かる」

「分かるってなんだよ」

「いやー、藤宮って気が利くし紳士的だよなあって。さりげなーく人助けたりしてるし」

「たまたまだろ」

「たまたまでもこっちは助かってるしな。ほら、例の袋とか」

あれすごく助かった、と爽やかな笑顔で再度礼を言われて、微妙に気恥ずかしさを覚える。

別に大した事ではなかったのだが、門脇はまだ覚えていたようだ。別に買い物袋なんてよく手に入るし、恩に着せるつもりはなかったのだ。

「……そういや門脇ってバレンタインのあれ全部食ったのか」

正面から感謝される気恥ずかしさを誤魔化すように疑問だった事を聞いてみると、門脇は微妙に表情を曇らせた。

「あー……内緒な? 市販のは食べた」

「手作りは食べなかったんだな」

「……手作りはなあ、なんというか……ほんと、ちゃんとしたのを作ってくれる子も居るんだけどな」

「まずいって事か?」

「いや、たまに髪の毛入れたり明らかに入っちゃいけないようなもの入れてるやつがある」

「なんの呪術だよ……」

偶然混入ならまだ分からなくもないのだが、門脇の調子だとそれが何度も起こっているらしく、意図的に混ぜられているという事だ。

体の一部を入れると仲が近付く、なんておまじないが昔あったような気がしたが、つまりはそれだ。食べさせられる身としてはたまったものではないだろう。

「差し入れとかももらうんだけどさ……そういうのが前にちょくちょくあって怖くてさ、手作り品は受け付けないって事前に言ってるんだ。それでも渡してくる人は気持ちだけ受け取ってお返しする。市販品のようにして紛れ込ませているものは、申し訳ないけど……な」

流石に異物混入を繰り返されると受け付けなくなって……と哀愁を漂わせた表情で途方に暮れたように呟かれて、同情せざるを得なかった。

「……大変だなモテ男も」

「これで妬まれるんだからやっていられないというか……俺はモテたい訳じゃないんだよ。こんな目に遭うくらいならモテなくていい」

「切実だな」

「だって怖いだろ。笑顔で変なもの入れたお菓子とか食べ物を渡してくる女子って」

それはごもっともなので、周も頷く。

普通は女子の手作りなんて価値があるものだが、彼にとっては恐怖の対象でしかないのだ。稀有な体験を何度も繰り返しているというのが可哀想すぎた。

「言い寄られないのって特定の相手作るのが一番かもしれないけどさ……その子がいじめられそうで怖いし」

「……嫉妬って怖いな」

「な……」

困り果てたように肩を落とした門脇は、ひどく疲れたように見えた。

あまりに同情を誘う立ち姿に、周は近くにあった大袋のポテトスティックの菓子をクレーンで取って彼に押し付けておいた。

「まあ何だ……俺や樹で良ければ相談くらいは乗るから。食って元気出せ」

「助かる……辛い……」

本気で悩んでいる門脇の姿を見て、モテるっていうのも楽じゃないし楽しい事だけではないんだな、と実感したのであった。