軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

57 修了式と樹の頼み事

案外呆気ないものだな、と壇上で厳格な面持ちで挨拶をする校長の姿を遠目に見ながら、周はあくびを噛み殺した。

修了式の日がやってきたが、特に感慨もなくこの日を迎えて登壇している校長の話を聞いている。正直寝てしまいたい程度には退屈だ。

それは周囲の生徒ほとんどが同じ気持ちらしく、真面目に聞いている生徒はごく僅かで、大半が適当に流すか眠たそうに壇上を見ていた。

流石に大っぴらに退屈そうな顔をする訳にもいかないので真面目な表情を作りつつも、早く終わらないかなといった気持ちで一杯の周は適当に聞き流していた。

これが自分達の卒業式なら感慨はあったのだろうが、修了式なのでこれといった感動やら何やらは湧かない。

言ってしまえば悪いがどうでもいいので、周は優等生の振りをしつつ退屈な時間を過ごした。

「……あー肩凝った」

「校長話長いからなあ」

式が終わって教室に戻れば、みな口々にそんな言葉を漏らしている。

それでもやや声音が弾んでいるのは、この後ホームルームさえ終わってしまえば二週間ほどの自由が待っているからだろう。

やっと退屈な授業から解放される、と口許に笑みすら浮かんでいるクラスメイト達を席で眺めながら、周もそっと吐息を落とす。

明日から春休みになるが、どう過ごしたものか。

一応両親にはこの間顔を見せたので、交通費的にも帰らずともよいと思うが、割と暇になってくるのだ。二年の予習はある程度するにしても、時間が余る。

短期バイトしようにも事前にお目当ての職を見付けてないので日数的に足りないし、休みに遊ぶような友人は樹と千歳くらいだ。

「なあなあ周くんや」

たった今脳内で話題にした樹が、後ろから話しかけてくる。

振り返ると実に爽やかな笑顔……周にとっては胡散臭さすら感じる笑顔で、何だか嫌な予感がした。樹がこういう笑顔を浮かべるのは、何か頼み事がある時や厄介事を持ち込む時だ。

「なんだよ」

「お前、明日から暇?」

「まあ暇だな」

「うんうん、だと思ってたよ。よかったよかった」

「……なんだよ」

満面の笑みを浮かべる樹が、自席の横に下げてある鞄を叩く。

昨日大量に荷物を持って帰ってロッカーも机も空にした筈なのに、こんもりと何かがつまっている。今日は授業がないので荷物なんて精々ペンケースやファイル、財布程度な筈だろうに、不自然なもののつまり方をしている。

「……それは?」

「着替え」

「何故に」

「泊めて」

語尾にハートマークが付きそうな程に弾みつつ媚びた声音でおねだりされて、周の顔が思い切りしかめっ面になったのは仕方ない事だろう。

「あのさ、お前ほうれんそう知ってるか」

「知ってる知ってる、訪問連夜騒音だろ」

「それ単なる夜間の近所迷惑だ馬鹿野郎。騒ぐつもりなのか」

「冗談だよ。泊めてってのはほんとだけど」

基本的に、樹が事前連絡を欠かす事など滅多にない。

となると急遽泊まらないといけない事情が出来た、となるのだが、そんな事情が思い付かない。

「朝親父と喧嘩した」

そんな周の疑問に答えるように、樹はあっさりと事情を暴露した。

「……千歳の事で?」

「ん。うちの親父怒ると数日置かないと話聞いてくれなくてさ。ちぃの家に泊まるのは駄目だろ。ちぃの両親は受け入れてくれるとはいえ、流石になあ」

「俺ならいいってか」

「お前なら泊めてくれると思って」

部屋が片付いていない時も幾度か泊めた事があるので大丈夫だろう、といった考えなのだろう。

周としては、別に泊めるのが嫌、という訳ではない。

ただ、食事を作りに来る真昼が嫌がらないか、という問題なのだ。

真昼が休むための場所で天使様モードを強制されるというのは中々に辛いものではないだろうか。

彼女は周にだけ素を見せているので、樹の前では隠そうとするだろう。

もう一つ問題として、最近真昼が妙に可愛らしい仕草をしたり照れたりして異性として意識せざるを得ないのだが、樹がそれを見てあらぬ勘違いをしそうなのが怖い。

「……あいつに一回連絡する」

真昼の意思も聞いておかないといけないので、メッセージを送っておいた。おそらく帰る前に一度こちらに買い物のメモを送ってくるので、その時に気付く筈だ。

手慣れた動作でメッセージを送った周に、樹は何故か感心したように息をこぼした。

「なんだ、同棲でもしてるのか?」

「お前だけ暖房と布団なしで床に転がすぞ」

「泊めてくれる優しさを褒めればいいのか凍死させる冷たさを嘆けばいいのか」

「俺はお前のあらぬ妄想について嘆きたい」

何言ってんだこいつ、といった眼差しを向けると樹が肩を竦める。

肩を竦めたいのはこちらだ。妙な勘違いをされて真昼の気を煩わせたくない。

樹は何だかんだ空気は読めるので真昼をいじったりはしないと思うが、真昼の居ないところで微妙にからかわれそうなのが若干憂鬱である。

樹の笑みにため息をついていたら、どうやらたまたまスマホを触っていたらしい真昼から『三人分の材料を買ってきてくれるなら普通に作りますけど』と承諾の旨が届いた。

「いいってよ」

「やった、手料理食える」

「それ目当てじゃないだろな」

「若干あった。周が絶賛する料理って一度味わってみたかったんだよな」

「……あいつに迷惑かけるなよ」

「俺はお前にはかけてもあの人にはかけないから」

「俺にもかけんな」

へらりと笑った樹の額にでこぴんを叩き込めば「いってえ!」と言いつつも愉快そうに笑ったので、周はこれみよがしに深くため息をつくのであった。