軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

52 バレンタインの翌日

「藤宮、昨日は助かった」

翌日登校した周に、門脇があまりに自然に話しかけてきたので、周は固まらざるを得なかった。

昨日は小さな接点があったとはいえ、わざわざあれだけの事でお礼を言いにくるとは思っていなかったのだ。

女子に囲まれている時とはまた違う、人のよさそうな明るい表情で笑っている門脇に、話しかけられている周も周囲からちらちらと視線をもらっていて非常に居心地が悪い。

元より注目される事が苦手なので、あまりこういった興味本意の視線でもやはり気後れしてしまう。

「ああ、別にあれくらいいいよ。大変だったろうし」

「まあな……」

門脇が遠い目をしたので、周も「やっぱモテる男は辛いんだろうな」と同情してしまった。

本人的にはモテている事を自覚しても誇ろうとはしていない。だからこそ周りから好かれているのだろうし、妬む男子達も本気で嫌ったりなどはしていないのだろう。

あれだけの事でわざわざ礼を言いにくる律儀さも好かれるゆえんなのかもしれない。

「とにかく、助かったよ。礼言っときたくてさ」

「別にいいよ、困った時はお互い様ってやつだし」

別に恩を売りたくて親切にした訳でもないし、そんな感謝される事でもない。

気にすんな、と軽く笑えば、門脇も少し安堵したように小さく笑った。

素の笑みに周りの女子がさざめいたので、そういう笑顔は女に向けてくれ、とちょっと苦笑せざるを得ない周であった。

「お前優太になにかしたのか」

門脇が去った後、様子見していたらしい樹が声をかけてくる。

優太、というのは門脇の名前だ。樹はクラスメイト全員と比較的仲がよく人当たりのいいムードメーカーといった感じなので、もちろん門脇ともそれなりに話している。

周としては、よくこんな男が自分の友人をやっているなと感心と困惑があったりするのだ。

「え、あまりのチョコの量に途方に暮れてる門脇にストックしてたレジ袋渡しただけなんだが……」

「あー。想定より多かったんだな。詰めが甘いやつだ」

あの大量のチョコと女子の好意を隣で見ていた樹も周の説明に得心したらしく、同情混じりの苦笑をこぼしている。

あれだけあれば持ち帰りに苦労するだろうな、というのが二人の感想だったので、周が手助けした事も不思議ではない。

周としては、別にちょっとした親切程度なので礼を言われるほどでもないのだが

「まあそれだけだから。別に大した事してないし」

「お前らしいっつーか。……しかしまあ、レジ袋常備とか……所帯染みてきてないかお前。スマホでスーパーの広告見てた時はどこの主婦だと思ったわ」

「男だっつーの。まあ、誰かさんの影響なんだろうなあ……」

間違いなく真昼のせいと言えばいいのか、お陰と言えばいいのか。

食費は二人で折半してるので、なるべく安くあがる方がいいだろうとネット広告をチェックしたり、その広告で安いものから作れるものを提案したりしている。樹にはそれが余計に所帯染みているように見えるのだろう。

むしろそこらの旦那より余程主婦らしい事をしているかもしれない。料理は真昼に任せっぱなしではあるが。

「家庭的なパートナーが居ていいですのう」

「別にパートナーとかじゃねえよ。……千歳はどうなんだよ」

「ちぃ? まあ、うん。奇抜な発想を実行させない限りは、まあ……出来なくはない範囲かな」

「あいつが突拍子もない事をしないとでも?」

「……そういうところも可愛いだろ?」

「おい目をそらすな」

千歳はよくもわるくも刺激好きでかつ気分屋だ。

普通にしていれば別に一般女子高生程度には家事も出来るらしいが、遊び心がうずいたり気分が変わった場合色々とやらかすのだ。

「まあ、結婚したらちゃんとしてくれるらしいから」

「お前の親父さん認めさせるのにどれだけかかるんだ……」

今時珍しく交際に厳しい樹の父親は千歳を快く思っていないので、結婚を前提にお付き合いしているらしい今の状態は樹の父親的には気にくわないそうだ。

逆に千歳の両親は樹ならいつでもウェルカムらしいので、普通逆じゃないのか……とちょっと呆れたりもした。

「まあ、大人になってからじっくり説得するさ。孫の顔見たくねえのかってな」

こればっかりは親父の言う事は聞けないし、とわざとらしく肩をすくめつつ瞳は本気で、争う事も辞さないらしい。

それだけ千歳を愛していると普段でも分かるので、高校生から結婚を考えているのはすごいな、と思いつつ応援する事にしている。

「……ま、お前なら多分向こうが諦めるまで折れないと思うから、頑張れ」

「おう。お前も頑張れ」

「何をだよ」

「だからあの人と……な?」

「……別に、俺はあいつとそういう仲じゃない」

勝手に邪推すんな、とそっぽを向けば、樹のからりとした愉快そうな笑い声が聞こえた。