軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28 天使様のクリスマスの約束

「クリスマスの予定ですか? 特にありませんけど」

洗い物が終わった後にソファに腰かけていた真昼に問いかければ、実にあっさりとした返答があった。

てっきり女子会をしたりするのかと思っていたのだが、予定はなかったらしい。

意外だと顔に出ていたらしく、真昼は周を見てほんのりと呆れた顔を浮かべている。

「基本的に、私と交友のある同性の級友は大体彼氏が居ますよ。男性から誘われてもお断りしていますから、予定はどうしても空きますね」

「男子涙目だな」

外行きの際の真昼は非常にガードが固く、淡い期待を込めて真昼を誘った男子達は堅牢な守備に涙を飲んだ事だろう。

周からしてみたらよく誘えたな、という感想である。自分に自信がなければあの天使様を誘えないだろうし、陽キャはすごいなと感心すらしていた。

「……そんなに私と過ごしたいものなのですかね」

「あわよくばお近づきになりたいんだろ」

「なんのために?」

「そりゃ、お付き合いしたいからでは?」

「何故付き合いたいのでしょうか」

「……付き合ってあれこれしたいんじゃないのかね」

「不純ですね」

ばっさり切り捨てられている男子諸君に内心合掌しつつ「まあでも」と付け足す。

「そういうやつばっかりじゃないと思うから、あんま疑ってやるな。お前なら、男が向けてくる視線の質くらい分かるだろ」

「そうですね。全員が全員不埒な眼差しで見てくる訳でもありませんし。周くんだって違うでしょう?」

「俺がお前を不埒な目でいつ見たんだ」

可愛いとか頭撫で回したいとかその程度の考えならよぎった事はあるが、どうこうしたいとまでは考えていない。

そもそもそんな事を考えていたら真昼が気付いて離れていただろう。

無害な男だから彼女の隣に居座れるのであって、仮に牙の一つでも見せたら彼女はすぐに居なくなる。

特にこれといって彼女ほしいという願望はないし食欲の方が大切なので、今の関係を崩すつもりもなかった。

「そうでしょうね。周くん最初から私に興味なさそうでしたし」

「まあ」

「ですので、信頼してます」

「そりゃどうも」

男としてそれでいいのかという信頼のされ方をされている気がしなくもないが、ひとまず安全な男の立ち位置に不満はない。

「……で、私のクリスマスの予定を聞いてきた周くんは何か予定が?」

「ん? ああ、俺、二十四日は昼に樹達がここにくるから、まあいつも通りだが晩ご飯が遅くなるかもしれんっていう連絡しようと思ってな」

ようやく話が本筋に戻ってきたので改めて説明する、真昼は納得したように頷いた。

「分かりました。そのクリスマスパーティーが終わったら呼んでください、そこからご飯作りますので。用意だけはしておきますね」

「おう、なんかすまん」

「いえ。楽しんでください」

「……寂しくないのか?」

「慣れてますし、一人は」

何て事のないように告げられて、少しだけ胸が痛んだ。

彼女の脳内でも親の事が一瞬よぎったのかもしれない、どこか自嘲するような笑みが浮かんでいる。

「……あー、その」

「はい?」

「……非常におこがましい申し出ですが、イブは無理でもクリスマス一緒に居る、というのは」

なんというか、こういった提案をするのは、非常に気恥ずかしい。

特に他意はないのだが、クリスマスを共に過ごそうと誘うのは、普通特別な意味を持つのだ。

決して、他意はない。

ただ、真昼がどこか寂しそうな眼差しで瞳を伏せたのが、嫌だっただけなのだ。

提案に、真昼は目をぱちりと瞬かせていた。

「一緒にって、何するのですか?」

「え? あー、別にする事ないよな。ごめん」

そこを指摘されると、周としてはそれ以上は強く押せない。

他人に見かけられた場合の面倒を考えれば一緒に出かける事はまずない。

では家で過ごすという事になるが、この家には真昼の興味を引くようなものはほとんどないだろう。

となると何もせずに二人で側に居るだけなのだが、恐らくめちゃくちゃ気まずいのではないだろうか。

それくらいなら、別々に過ごした方がいいのかもしれない――そういう考えで撤回しようとしたのだが、真昼は周を静かに見つめていた。

「……じゃあ、あれ、してみたいです」

予想外だったのは、真昼が存外乗り気だった事だろうか。

か細い指が、テレビの方を示す。

正しくいうと、テレビボードの中に格納されているゲーム機だろう。

最近の夕方は真昼が居るのであまり起動しなくなったのだが、それに興味を示したらしい真昼は「ああいうの、した事ないですし……」と小さく希望を示している。

クリスマスに特に交際している訳でもない男女がゲームして過ごすというのは何だかシュールな気もする。

「いや、まあ、それでもいいけど……いいのか? ゲームとかで」

「駄目なのですか?」

「駄目ではないが」

「じゃあ、それでいいです」

「お、おう」

それでいいんだ……とは思ったものの、真昼の希望なので出来うる限り叶えてやろうとも思う。

ささやかな楽しみくらい、あげたい。特にクリスマスに予定を入れている訳でもないし、真昼と食事が出来るだけでももうけものだろう。

「ま、クリスマスとか関係なしにまったり過ごせばいいだろ」

「そうですね」

小さく笑った真昼が何だか直視しにくくて、周はうなずいてさりげなく顔を背けた。