軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

247 甘やかしのプロ

「周くんってほんと出汁巻き卵好きですよねえ」

木戸から事情を説明されたらしい真昼は、下校途中に思い出したように笑った。

余程面白かったのかくすくすと、あくまで上品に笑っているので、周囲の視線がちらちらとこちらに向く。

むだにわらうな、と繋いだ手をにぎにぎしておくのだが、彼女の笑みは収まりそうにない。頬をつねりたくても真昼の鞄を握っているし、反対は手を握っているのでままならない。

「お弁当に定期的に入れてるじゃないですか。今日は朝残りも出したし、たまに夕食にも出していますよ?」

「それはそれ、これはこれ。俺はあの昼食べたかったの」

「もう。お陰で真剣な顔で木戸さんに謝られて懇願されたんですからね」

彼女は責任を感じたらしく、律儀に真昼に頭を下げに行っていた。

別に周としては木戸を責めるつもりは一切なかった。小さな事で凹んでいるのはこちらだし、地面に落とした訳でもない。味が多少変わった程度だったのだ。

「や、木戸には申し訳ない事をしたと思ってるよ。俺が勝手に残念がっただけだし」

「周くんが余程深刻そうな顔をしていたそうですよ」

「いやだってさあ……真昼の出汁巻き卵だし」

「いつだって作ってあげますよ」

「……夕飯も?」

「メニュー変更してほしいんですか? 仕方ない人ですねえ」

まったく、と呆れたような言葉を使いつつも声は楽しそうにやや弾んでいるので、嫌という訳ではないのだろう。

穏やかな笑みを向けられて微妙にむず痒さと子供扱いされている感を覚えて、周は微妙に唇に力を入れて尖りそうになるのを抑えた。

「じゃあ今日の夕飯は出汁巻き卵をつけてあげましょう。代わりに今日は甘やかしてもらいますよ?」

「なんだ、そんな事でいいなら全然するけど。頼まれなくてもするし」

基本的にはしっかりとしている真昼が甘えてくるなら、喜んで受け入れるし何なら望まれなくても甘やかすつもりだ。真昼を可愛がる事が趣味の一つになっているとすら言える。

あっさり承諾してみせれば、話を持ち出した真昼が逆にたじろぐ。

「……それはそれで困ります」

「何で」

「だって、周くんは加減を知らないじゃないですか」

「加減って。そんな乱暴にしてたか?」

「そうじゃなくて……甘やかすと決めたらとことん甘やかしてくるというか……」

「そりゃ決めた事はするけど」

「……甘やかされすぎると、私が大変なんです」

しばらく腰が抜けて立てなくなるし、と小さく付け足した真昼に、つい笑ってしまう。

別に甘やかすといってもスキンシップと口付け、抱擁くらいなものなのだが、真昼的にはそれも結構に厳しいようだ。ひたすらに甘やかすと力が抜けてヘロヘロになるのは周もよく見ているので、あの状態にはなりたくないようだ。

「とにかく、過度なものはだめです。普通にしてください」

「普通に甘やかすって言ってもなあ。いつだって普通にしてるし」

「……これが藤宮家の血のなせる技……」

「父さんほどではないから」

流石に父親ほど甘やかしの技術はないし、ナチュラルにしない。

周にとって父親は、非常に身内に甘く優しく、そして愛情深い。多少落ち着かせたくはあるが、ああなりたいと思う理想の一つである。そこにたどり着いているとは思わないし、自分でもスマートさが足りないと思っていた。

「……その台詞を志保子さんに聞かせてみたいものです。惜しむらくは、もうおうちに居ないんですよね」

「なんで母さん。……まあ、帰っちまったからなあ」

既に両親は周の家を発っている。明日から仕事なので当然である。

週末は随分とにぎやかだったので、家に帰るとその落差に戸惑ってしまいそうだ。

「寂しくなりますね」

「真昼は母さん達と居るのすげえ楽しそうだったからなあ」

「そりゃあ楽しいですよ。周くんの昔話も聞けますし」

「……甘やかし特盛かなあ」

「えっ、そ、それはちょっと」

両親が何を喋ったのか暴露してもらうために今日は徹底的に甘やかそうと決めた周に真昼が慌てるが、真昼が口を滑らせたのが悪い。気付かなければ控えめに甘やかそうと思ったのだが、どうにもそうはいかないらしい。

どうふやかしてやろうか、と唇に弧を描かせれば、真昼は微妙に引きつった顔で周の二の腕に頭突きしながらスーパーにつくまで頭突きを続けるのであった。