軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

245 同僚(予定)との昼食

普段は昼食を真昼達と取るのだが、今日は木戸の誘いで木戸と茅野の二人と食事をとる事になっていた。

木戸は口にしていなかったが、要するに同じ職場で働く事になる茅野と親睦を深める機会を作る、という事らしい。

木戸に連れられて屋上までやってきた周は、既にレジャーシートを敷いて待機していた茅野を見る。茅野は周が来る事を承知していたのか、特に動揺はない。

「という訳で藤宮くんがそーちゃんと一緒に働く事になったよ!」

レジャーシートの一角を借りて腰かけた周を見ながら、木戸は人の良さそうな笑顔を浮かべている。

「ああ……彩香に巻き込まれたんだね」

「ま、巻き込んだとは失礼な! 私は適切な人材を適切な職場に導いただけですー!」

ぷりぷりと不服そうにしている木戸はいつもより少しだけ幼く、恐らく茅野にだけ向けるものなんだろうな、と微笑ましさを感じた。

「いや、俺から申し出た事だから木戸には助けられてるよ」

「そう? でも、文華さんには困惑しただろ」

「それはまあ……」

まさかああいうタイプだとは思っていなかったので多少気圧されはしたが、悪い人では無さそうだし、ああいうタイプは恐らく燃料を適度に与えておけば大人しくなると思うので、自分達に実害がない程度に話をしていけたらと思っている。

ただ、事前に言ってくれていたら心構えが出来ていたのは事実なので、そこは木戸には物申したさもあった。

ちらりと木戸に視線を向ければ、お弁当の巾着を開きながらぎくりと体を強張らせている。

「だって文華叔母様みたいな人をどう説明すればいいか分からなかったんだもん。強烈だから……」

「いやまあ結果的に働ける事は決まったしいいよ。悪い人ではなさそうだしな」

「いい人ではあるんだよ? ただ、こう、懐に入れると甘やかすし日々妄想が激しいだけで」

「糧になる事はまあ仕方ない。実害さえなければ」

「……多分ないよ、うん。まあ、えっと、多分」

自信ないんじゃないか、と突っ込もうか迷ったが、こればかりは本人のせいではないのでやめておいて、周も真昼手製の弁当の包みをほどく。

昨日は修斗が夕食を作ったしパスタであったので、この弁当は作りおきに真昼と修斗が二人で作ったおかずが詰められている。

朝からわざわざおかずをそれなりの量作ってもらった事は非常に申し訳なく思っているのだが、二人が楽しそうだったので止められもしなかった。

ちなみに両親は周達が家に帰る頃には居ないので、朝に別れの挨拶をしておいた。お互いに随分とあっさりとした言葉だったのは、どうせ冬休みか春休みにまた帰省する約束があったからだろう。

真昼は名残惜しそうだったのだが、また会えるとの事で笑顔で二人を見送ってきた。

「あ、それ椎名さんが作ったやつ?」

弁当箱の蓋を開けて今日も真昼手製の出汁巻き卵が入っている事に満足していた周を観察していた木戸が、好奇心の滲み出た笑顔で問いかける。

「真昼と父さんが一緒に作ったかな。今日まで居るから」

「お父さんが料理出来るんだね。うちの父さんと一緒だ。母さんはまあ料理出来ないし家事も出来ないからね、父さんがやってるんだよね」

「香織さんはあまりにも特別な気がするんだけど」

香織というのは恐らく木戸の母の名前なのだろう。どうやら家事が全く出来ないようだ。

「まあ、だから両親は私に家事出来るようになってほしかったんだろうねえ。や、出来るようにはなったんだけどさ」

「女の子らしくなってほしいという願いを込められて育てられて、そう育ったのはいいけど筋肉大好きっ子になったからオレよく泣きつかれるんだけど」

「そーちゃんが私を歪ませたの」

「人のせいにしないでくれ」

木戸の頬をうにうにとつまむ茅野と、舌足らずになりつつ不満を訴える木戸にくすりとつい笑みがこぼれる。

付き合っているというのもあるだろうが、これは幼馴染の距離感なのだろう。樹や千歳のカップルともまた違った距離感は、見ていて新鮮だった。

「……な、なんで笑ってるの」

「いや、仲良いなと思って」

「それは藤宮くんには言われたくないなあ。椎名さんといちゃいちゃしてるのに」

「そこまでじゃないよ」

「いーや、いちゃいちゃしてます。こっちがあてられちゃうもん」

ビシッと人差し指で周を指し示した木戸に茅野が「人を指で指さない」と掴んで収納させてる辺り本当に息があっているな、と思いつつ、周は静かに息を吐く。

「……別に、意図的では」

「つまり日頃から仲良しでらぶらぶしてると。すごいねえ」

「うるせえ」

「でもまあ、だからこそ椎名さんのためにバイトを決意したんだろうね。将来を見据えて動けるってすごい事だと思うよ」

「……ああ、急にバイト決めたのは椎名さんのためにだったのか」

説明をしていなかった、というよりはあまり言いふらさないで欲しいと木戸に言ったからであろうが、知らなかったらしい茅野が得心したように頷くと、木戸が微妙にバツの悪そうな顔になる。

恐らく真昼のためと言った事を、約束を破ったと思ったのだろう。

どうせ茅野とは同じ職場で働くようになるので、そこは隠してもいずれは問われるであろうから無駄なので、本人に言わない限りは問題ない。

「真昼には内緒な。驚かせたいから」

「そういう事です。言ったら駄目だよそーちゃん」

「彩香が口を滑らせたんだろ」

「あいたっ」

デコピンされて額を涙目で押さえている木戸を仕方なさそうに一瞥した茅野は、呆気にとられた周に困ったように笑う。

「まあ、そういう事で認識した。オレも何かあったら出来る範囲で力になるよ」

「……ありがとう」

「こちらこそこんな彩香と友達になってくれてありがとう」

「……あれーおかしいな、私はそーちゃんに心配されるほど残念な子じゃないんだけど」

「彩香は喋ってるとぼろが出るから」

「ひどい!」

茅野の言い方にムッと唇を尖らせた木戸が脱ぐと逞しい(木戸談)胸板を叩くのを、周は温もりを胸に感じながら見守った。