軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

243 顔合わせの帰宅後

いいのか悪いのか、即採用が決まった周は、雇用契約書をもらって家に帰ってきていた。

面接というよりは単なる顔合わせだったが、お眼鏡に適ったようなので一安心である。

あんなにあっさり決まっていいのかは分からないが、働き口を見つけられたのは良い事だろう。

後は自分と両親の署名と捺印をして契約書を送付すればいいようだ。

帰る途中に木戸には謝られたが、糸巻のキャラが濃そうなのは聞いていたしあれなら木戸もたじたじになるのは仕方ないだろう。これは志保子とはまた違った押しと我が強いタイプだ。

「ただいまー……って、真昼と母さんは?」

「二人、というか三人かな? みんなでお食事だって。急な事だったし私はお留守番してたんだ。今日は私が夕食を作るよ」

「ふーん」

出迎えた修斗の報告に軽く返事をする。

お出かけに行ったとは聞いていたがまさか夕食まで共にするとは思っていなかった。ただ、それだけ意気投合したのだろうしよい事ではあるのだが、一日の楽しみである真昼の料理がないのはいただけない。

もちろん、修斗の料理に不満がある訳ではない。料理好きで料理上手なだけあって、父の腕前は非常に高い。食べ慣れた味だ。

ただ、周にとって真昼の料理は格別だった、それだけの事である。

「そんな露骨にがっかりしなくても」

「い、いや、そういう訳じゃないんだけどさ」

「まあまあ。親の料理なんてあと何回食べられるか分からないんだから、今日は私ので我慢しておくれ。どうせ明日から毎日食べるだろうし」

まるで先が長くないというような言い方をされたが、恐らくこれは高校卒業したら結婚して家庭を持つんだから今の内に食べておけ、の意だろう。

両親は定期的に病院で検査をしているし、今のところ健康体そのもの。家系的にも長生きしそうな家系なので、そういった心配は今のところ必要ない。

つまるところ、これはからかわれているという事だ。

む、と眉を寄せれば控えめな微笑みを向けられたので、周はそっぽを向いて部屋に着替えに行った。

父のお手製のミートソースパスタを平らげて一息ついたところで、真昼達が帰ってきたのか玄関から解錠音がした。

真昼を出迎えるのは珍しいと思いつつ玄関に向かえば、紙袋をわんさか抱えている真昼と志保子が居た。

「……何でそんな荷物あるんだ」

「あら、周の分もあるから心配しなくていいわよ?」

「いや俺の分はどうでもいいけどなんでそんな買い物してきて何を買ったんだ」

「真昼ちゃんに着せたい服とか可愛い小物とかそのあたりかしら。周にも真昼ちゃんチョイスで敢えて着せたい服とか買ってきてるわよ?」

「敢えての時点で俺が普段着ないようなやつ買ってきたな」

母親に服を買ってきてもらうのは複雑であるが、真昼が選んだものなのでそうひどいものではないだろう。

それはまた追々真昼から事情聴取するにしても、紙袋の量が多い気がする。

ただそれを指摘する前に志保子は軽快な笑みを浮かべながら周の横をすり抜けていくので、残された真昼を見る。

「……変なもの買ってないよな」

「へ、変なものはないですけど……?」

「そっか、ならいい」

不思議そうな真昼に一安心しつつ真昼から紙袋を受け取っておく。真昼のものかどうかは知らないが、荷物を持たせ続けるのも悪い。

「そういえば、バイト先の見学はどうでしたか」

「ん、まあ気に入られたらしくて採用だってさ」

「ちなみに店主さんはどんな方ですか?」

「なんというか、独特なお姉さんというか……」

「お姉さん」

「心配しなくても、カップル大好き見守りたい派らしいので俺と真昼の仲良くしてる話を聞きたがってたぞ?」

小さなやきもちが発生しそうだったので事前に防いでおくと、真昼はさっと顔を赤らめてもぞりと居心地悪げに身を縮めた。

「……別に疑っている訳ではないのですよ? ただ、もし周くんに惚れたらどうしようって思っただけで……」

「ないない」

「あります」

何故か力説してくる真昼に苦笑を返しつつ、不安がらせたのは悪いなとそっと頭を撫でる。

最初はほんのりムッとご不満そうだった顔が次第に緩むので、そのまま柔らかな髪の手触りを楽しむように優しく髪に指を通す。

「たとえそうなったとしても応えないし、もし万が一そんな事があって、業務に支障をきたすようだったら辞めるよ」

「そ、そこまでしてほしい訳じゃ……その、もやもやするなって、思っただけです」

「ああ。だから、彼女に嫌な思いさせるならそこで働かない方がいいだろ。別に俺の目的はそこで働く事ではなくて、目的に必要な金を手に入れる事なんだし」

あの様子では万が一にも周に惚れるなんて有り得ないのだが、もしその万が一があった場合で何かあった場合は、木戸には申し訳ないが辞めて別の仕事先を探すだろう。

真昼を幸せにするために働くのであって、真昼を悲しませるならそこに拘る必要はない。別の手段を取るだろう。

だから心配しなくても、と付け足せば、真昼は周の胸に顔を埋める。

「どうかしたか?」

「……そういうところが好きです」

「そういうところ『が』?」

「そういうところ『も』です、ばか」

茶化せばちょっぴり拗ねたように呟いて周の胸に頭突きしてきたので、周は笑ってそれを受け入れつつ真昼の背中を優しく叩いた。