軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

238 振替休日明けのこと

文化祭振替休日明けの学校は、まだ文化祭の熱気が生徒から抜け切っていないのかやや浮ついたような雰囲気だった。

クラスもいつもより二割増でにぎやかである。時折ひそひそとどの組の誰と誰が付き合い始めた、なんて事を言っているクラスメイトが居て、文化祭はそういった男女交際にも影響をもたらしているのだと痛感した。

たまにこちらにも視線が来るのだが、真昼に向けられているので真昼の文化祭の姿云々の話かもしれない。

「はよー」

若干眠たげな樹が教室に入って真っ先に周の所にくるので、周は緩く手を振って「はよ」と返しつつ樹の顔を見る。

仮に大輝に何かしら言われていたなら機嫌が悪くなっていそうなものだが、至って普通の表情なので内心安堵した。

「椎名さんもおはよ。今日も……うん?」

「おはようございます。どうかしましたか?」

当然のように側に居た真昼ににっこりと挨拶する樹だったが、真昼の顔を見てふと訝しむように瞳を細める。

何かを確認するように眺めた後、頬をかく。

「……周くんや、カモン」

「は?」

「いいから」

何故か周が呼び出しを食らったので、露骨に眉を寄せつつ樹に連れて行かれて教室の端にたどり着く。

それから、少しだけ人目を憚るように近寄って、小さく口を開く。

「あのさ、椎名さんと一線超えたの?」

「は!?」

「こらこら何のために移動したと思ってるんだ。いや、椎名さんの様子がいつもと違うというか……そもそもお前の距離感も違うというか。何かこう、女房感が……」

何か雰囲気が違う、と言われて、周は視線を一度真昼に流す。

真昼は周の席で静かに待っていて、こちらを不思議そうに眺めている。視線が合えばはにかんだ。

「んー、より魅力的になったというか……もう周のものー的な雰囲気がですねえ」

「……先に言わせてもらうが、別に最後までした訳じゃないからな」

「へー、最後まで、ねえ」

ぼかして言えば全部見抜いたと言わんばかりにニヤニヤしだすので、その腹立たしい顔を歪めるべく脇腹を拳でつついておく。

つつくというには多少力がこもっていたが、樹的には大したダメージではなかったらしく「照れ隠しはやめろ」と笑っていた。

むかついたので更に足を踏みつつ、そっとため息を落とす。

変化に気付いた樹の鋭さにはヒヤヒヤするが、どちらにせよ周と真昼のこれからの事は樹や千歳にも伝えるつもりだ。どこまでお互いの体を知ったか、までは言うつもりがないが、将来を見据えている事くらいは伝えるべきだろう。

「……まだ、するつもりはない。真昼と約束したから」

「約束?」

「真昼が十八になるまでしないって。一生の責任を取るつもりだから、それまで待ってくれと」

改めて人に聞かせるには恥ずかしい約束だと自覚しつつ告げれば、樹は目を丸くした後微妙に呆れたような感心したような、相反する感情を内包した瞳でこちらを見る。

「お前のその忍耐力と真摯さは凄いとは思ってるし尊敬してるけど、大丈夫なのか色々」

「……大丈夫じゃないかもしれないが大丈夫だ。大切にしたいし、その、本気だから」

これからずっと共に歩いていく相手を見つけたのだから、相手を尊重して大切にして行きたいのだ。

本音を言えばちょっぴり耐えきれるか不安ではあるが、約束を破るなんて事は自分に恥ずかしくて出来ないので、耐えるつもりである。

「俺は卒業したら真昼と一緒になるつもりだし、そのために今から用意するつもりだよ」

「用意って」

「あ、藤宮くんおはよー。何でそんなところでこそこそしてるの」

ちょうどいいタイミングで木戸が教室に入ってきたので軽く手を上げると、彼女も不思議そうな眼差しで二人を見る。

「何やら男の子二人でひそひそこそこそは怪しいなあ。赤澤くんが藤宮くんに変な話を振っていたに一票」

「オレの信頼なくない!?」

「あはは」

サラリと笑って流す木戸は、周を見て口を開こうか迷ったらしい。ちらりと樹に視線を滑らせたので、恐らく樹が居るが言っていいのか、後にした方がいいのか、という意味があるだろう。

バイトをする事自体隠すつもりはないし樹には理由も伝えるつもりなので、周の方から「頼んだ事に進展はあったか?」と問いかければ、木戸は少し安心したように笑った。

「バイトの件なんだけどね、叔母さんがいいって言ってたからまた都合がいい日教えてくれたら嬉しいな」

「ん、分かった。また後で連絡する」

「はーい」

「ごめんな、手間かけさせて」

「ううん、叔母さんも私が頼ってくれて嬉しいって」

ほんのり困ったように笑った木戸に周も微かに苦笑する。

かなり叔母に気に入られているらしい木戸は困り顔だが、職を紹介してもらった身としては有り難い限りである。

じゃあまた後で、とひらひら手を振って自分の席に向かう木戸を見送って樹を見れば、得心した様子で頷いていた。

「なるほど。大変そうだなこりゃ」

「式代とかは親が出したいって言ってたけど、指輪くらいはな。俺が選んだ事だし、願いのためならこれくらいの苦労は買ってでもするべきだよ」

「お前はホント決めたら一途なんだよなあ。偉いと思う。ただ」

「ただ?」

「……そういうのは、オレに先に相談するとかなかったのかよ」

拗ねたように小さくこぼした言葉に目を瞠り、それから「次からはちゃんと頼るよ」と頭をわしわしと撫でた。

樹的には微妙に恥ずかしかったらしく振り解かれて肩を小突かれたが、照れ隠しだと分かっていたので周は先程の樹のように笑って流した。