軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

237 友人へのお願い

『え、店長に聞いてみるけど人手欲しいって言ってたから多分ゼンゼンオッケーだと思うよ』

早速と言わんばかりに先日の文化祭準備で木戸と交換した連絡先に連絡してみると、あっけらかんとした声が返ってきた。

一応真昼にはサプライズにしたいと思っており、聞かれたくない話なのでマンションの入り口付近で話していた。やはり急な申し出に難色を示されるかと思いきやあんまりにあっさりとした返事で、逆に困惑する。

「いや、あの、面接とかは」

『多分するとは思うけど素通りするんじゃない? 私の紹介になるから人柄とかは問題ないって事だし。ただまあ、これ椎名さん納得してるの? うちのバイト実入りは良いけど、椎名さんヤキモチ焼いちゃうんじゃないかなー』

「うっ、それは」

文化祭の時、周が女性客に話しかけられて連絡先を求められた時には真昼が拗ねていたので、あまり真昼を不安がらせるような真似はしたくない。勿論浮気なんて有り得ないし真昼もしないとは信じているだろうが、心情的な問題は別だろう。

『そもそも何で急にバイトしたいって思ったの?』

素朴な疑問、といった風に問いかけられて、口を噤む。

別に内密にしてくれと言えば木戸は真昼にバラしたりはしないだろうが、指輪の軍資金を貯めるため、と言うのは気恥ずかしさがある。

おそらく知り合い全員周が真昼を溺愛しているのは分かっているだろうし自分でも自覚はしているのだが、指輪を贈りたいからと説明するのはやはり躊躇いがあった。

しかし、言わないと木戸は納得しないだろうし、そもそも斡旋してくれる相手に隠し事をするのはよくないだろう。

「……その、さ。誰にも、特に真昼には言わないでくれるか」

『あー察した。何か椎名さんにプレゼントしたいんだー。クリスマスプレゼント辺り?』

「く、クリスマスというか……その、来年の話になるんだけどさ。その、指輪をあげたいというか……」

微妙に尻すぼみになっているのは実感しながらも答えると、沈黙が訪れた。

もしかして学生なのに逸りすぎだっただろうか、と内心焦りながら木戸の声を待っていると、たっぷり十秒ほど沈黙した後『あー電話越しにあてられちゃった』と彼女は小さく呟いた。

『そっか。じゃあウチはやめておいた方がいいかもね。藤宮くんが椎名さんのために頑張るとはいえ、恋人が女の人に絡まれそうな場所で働くのは椎名さんもいい思いしないと思う』

それはごもっともなので「そうだな」と返しつつ家に帰って求人サイトでも見るかな、とこれからの予定を頭に浮かべていると、続けて『代わりに』と声が再び聞こえる。

『別の喫茶店でいいなら紹介するよー。うちの叔母さんがやってる喫茶店なんだけど、静かな所だから藤宮くんの性格的にも合うんじゃないのかな』

「それは嬉しいけど……木戸はそこでは働かなかったのか?」

『あー。私はねー、こう、叔母さんが苦手というか……』

「なのに紹介してくれるのか。ほんとごめん」

『あーいやそうじゃなくてね? 叔母さんは子供が居なくて私の事よく可愛がってくれるんだけど、甘やかされすぎて逆に自立心なくなっちゃうから』

嫌そう、というよりは困った、といった感じで告げてくるので、おそらく志保子にとっての真昼のような接し方をするのだろう。志保子は真昼がしっかりしてるのを見越してわざと甘やかしているので、木戸とは違う状態ではありそうだが。

『一応叔母さんに確認取ってみるのと、確認が取れたら見学に行くってのはどうかな。それなら藤宮くんも働きやすいんじゃないかと思って』

「それは助かるが……そこまでしてもらっていいのか」

『いいよいいよ。こう、藤宮くんが椎名さん好きなの分かってるし、お助けさせてくださいな。なんなら指輪のご相談までお受けしますよ?』

「……それはまあ、その時になって千歳と一緒に頼むかもしれん」

『ふふ、お任せあれ』

指輪云々は女性の意見も取り入れた方がいいと思うし、何より千歳は周と真昼をずっと見守ってきてくれたので、彼女に声をかけないなんて事はない。出来れば二人にも手伝ってほしい。

まあ当分先の話にはなるので曖昧に約束を交わして『また連絡、もしくは学校で報告するね』という木戸の言葉で電話を切った。

「……バイト、ですか?」

家に帰ってリビングで寛いでいた真昼に声をかけると、意外そうな目で見られた。

ちなみに両親は共にキッチンで料理を作っている。真昼が二人の料理を夕食に食べたいとねだったからだろう。

「どうしてこの時期になって急に。来年から受験生ですし、そもそも今頃は受験勉強が始まる頃ですよ」

流石にバイトの事まで隠す訳にはいかないので素直に話したのだが、真昼は至極尤もな疑問をぶつけてくる。

一応渡すまではなるべく真昼には隠していきたいとは思っているが、二年生後期という時期にバイトを始めるのは些か不自然なのは自覚していた。

「あー、その、どうしても欲しいものがあるというか」

「欲しいもの?」

「あと、社会経験を積むためってのはある。もちろん勉学に支障をきたすようなシフトは組むつもりもないし、来年部活を引退する同級生が現れる頃には貯め終わってると思うから受験が本格化する前には勉学に集中出来ている筈だ。成績の事を考えても条件的には部活やってる人と同じぐらいになると思う。成績は俺の努力次第だから、下げるつもりはないし仮に下がってもバイトのせいにするつもりはない」

バイトもしていない帰宅部だからこそ部活に所属している生徒よりも余裕があるから勉強に集中出来ているが、バイトをし始めたらやはり必要な努力量は変わってくるだろう。

今までより自主勉強を頑張って授業も今以上にきっちりと受けてその場で身に着けていきたいと思っている。

真面目な顔で真昼を見つめれば、困ったように眉を下げた。

「いえ、私が口出しする事ではありませんし、そこまで考えているのであれば周くんの選択を尊重しますよ。その、一緒に過ごす時間が減るのは、寂しいですけど……」

少し寂しげに微笑まれて、決心が揺らぎそうになるが、こればかりは譲れないので小さく笑う。

「ごめんな。その代わりに、バイト休みの日は真昼と一緒に過ごすの優先するから」

「……それはそれで困る気が」

「何で」

「だ、だって、周くん、そういうと……すごく、甘やかしてくるじゃないですか」

「そりゃあ真昼が寂しがったから……」

「ほ、程々にしてください。身がもちません」

恥ずかしそうに瞳を伏せて周の二の腕にもたれた真昼に、周は予行演習とばかりに真昼の手を握って真昼が更にもたれてくるのを受け入れた。