軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

231 辛いと幸い

「……もしかして周くん、ずっと床に正座していたのですか」

真昼が帰ってくるまでずっと正座をしていたのだが、風呂から戻ってきた真昼は周の体勢に困惑の声を上げた。

一応直視してどうなるか分からないので彼女の方は見なかったのだが、真昼の方から視界に入ってくる。それも、目の前に。

宣言通り白のベビードールを身に纏った真昼の姿に、視線が泳ぐ。

やはりというか、スタイルがよいので目のやり場に困る。胸元が深く開いている訳ではないが、そもそもベビードール自体がアンダーバストからの切り返しがある寝間着なので、内包されるものの大きさが顕著なのだ。

白は膨張色なので尚更豊かな実りに見えてしまう。

透けるような素材ではないので体のラインは見えないが、ある程度知っているため良からぬ想像が働いてしまうのが男の性だろう。

真昼が最後の良心を発揮したのか、上に薄手のカーディガンを羽織っているので、顔を背けるまではいかないが――それでも、刺激が強いので、直視しにくい。

水着で密着した時の方が露出は多かったが、清楚かつ蠱惑的なベビードール、その上湯上がりな姿の方が刺激的で自分の良心と理性がガリゴリと削られていた。

「……いやその、まあ」

「別にベッドで待っていてくれてよかったのですけど」

「俺に死ねと」

「何でそういう発想に……」

女の子のベッドで待つなんて苦行過ぎる。嫌ではなく非常にいい思いはするだろうが、後々のために理性の耐久力は残しておきたいのだ。

困ったような、呆れたような、そんな声を上げた真昼は、周の顔を覗き込む。

「……似合ってますか?」

「似合ってる似合ってる」

「見てないのによく言えますね。目も合わせてくれないのですけど?」

そう言われて恐る恐る真昼を見て、目を丸くする。

真昼は真昼で、恥ずかしそうに周を見上げていた。白い肌はほんのりと色付き、本人の羞恥を内から滲ませている。

視線が合うと瞳をそっと伏せて睫毛を震わせ、そのまま周の肩に顔を埋めた。

「……恥ずかしくない訳ではないですが、私だって、周くんを翻弄したくて頑張ってます」

「いっ、いや、その、翻弄はやめてくれ」

「いやです。最近の周くんは手強いのでここのところでガツンといって取り返しておきます」

「な、何を」

「……優位性?」

いつも私ばかり慌てています、と小さな声でちょっぴり不服そうに呟いた真昼は、えいっという掛け声と共にこちらに体重をかけた。

足が半ば痺れている状態では、真昼の体当たりを受け止めきる事が出来ず、そのまま後ろに倒れる。

柔らかいカーペットやクッションのおかげで極端な衝撃はなかったが、それでも地味な背中の痛みに眉を寄せて真昼を見上げて、後悔した。

服装と体勢が非常によろしくない、これに限る。

視覚的には絶景が広がっているが、あまり見てしまうとよくない事になるのは明白なので目を逸らすと、真昼が周に乗りかかってじいっとこちらを見てくる。

正直なところ、上に乗られるのはまあ構わないが場所が場所なので早く退けたい。

しかし、真昼は周の胸にぎゅっとくっついているので、剥がせそうになかった。

「……ま、真昼さんや、ちょっと退けていただけると」

「嫌です」

「いやあのな」

「……わ、分かってしてますから平気です」

「尚更よくない!」

なんて小悪魔なんだ、と戦慄しながらよろよろと身体を起こすと、胸にくっついていた真昼が不服そうに周を見上げる。

「……あのさあ、多分千歳あたりに何か吹き込まれたんだと思うけどさ、その、……別に、無理しなくても」

「……無理だと、嫌々だと思うのですか?」

「嫌々とは思わないけどさあ」

「その。……私としては、周くんに……喜んで欲しいし、尽くしたいと思っています。あと夢中になってもらいたいです」

「俺をこれ以上に首ったけにしてどうするんだ」

ただでさえ樹に「お前椎名さんの前だとキャラ違う」とまで言われているのだ。

それだけ真昼に惚れ込んでいるし、大切にして可愛がりたいと思っている。

これ以上に好きになる余地がないし、あったとしても、確実に真昼の独占欲へと発展する。縛りたい訳ではないし、自由に過ごす真昼が好ましいのだ。あと理性的にも暴走は避けたい。

あまりに誘惑されたら、暫くベッドから出られなくするくらいには愛する自信があるので、真昼にはほどほどにしてもらいたいのだが――真昼は、周から退く気は一切ないようだ。

「……周くんは、最近余裕があってずるいです。私はいつも周くんに翻弄されているのに。周くんがドキドキしているのは承知の上ですけど、それでも私の方がずっと、心臓がうるさいのに」

「それは……」

「ですから、たまには私の辛さを知ってもらいます。……こんなに、胸がいっぱいで、どきどきして、切なくて苦しくて、でも心地よい、そんな 辛さ(幸せ) を」

そう囁いて口付けて来た真昼に、周はこんなにも想われて幸福なんだよな、と感じつつ、真昼の口づけを受け入れた。