軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

222 親同士

「……気を使わせてしまったな」

樹と千歳が去っていったのを見届けて、遠くからこちらを見ていた大輝が苦笑しつつ近寄ってくる。

周としても、とても居たたまれなかったし申し訳なかったのだが、流石に彼らの問題に深く首を突っ込む訳にもいかないので、あのまま見送ったのだ。

近付いてきた大輝に志保子は気付いたようで、真昼を伴いながら寄ってくる。

「あー。さっきの樹の親父さん」

「これはこれは。うちの息子がお世話になってます」

「いえこちらこそ……」

よくある謙遜のしあいから名乗り合った両親と大輝を見て、何とも気まずさを覚える。

「……あー、その、大輝さん。さっきのは」

「分かっていた事だからな。私も彼女に辛く当たってしまうから、樹が遠ざけようとするのは無理もない」

悲しむというよりは諦めたように淡々と受け入れる大輝に、修斗と志保子も大輝が息子である樹の 彼女(千歳) と折り合いがよくないと痛感したのか、少し心配そうに眉尻を下げている。一応前に世間話で友人のカップルが親から認められなくて困っている、と言った事があるので、それを改めて思い出したのだろう。

大輝は両親の様子を気に留めた様子はなく、先程までの光景を思い出すように視線を斜め上に投げた後、小さく笑った。

「しかし、椎名さんは随分と藤宮君のご両親と仲がよいのだな。見ていて驚いたよ」

「ありがたいお言葉です」

「そりゃあ未来の娘ですもの。それでなくてもいい子ですから、可愛がりたくもなりますよ」

志保子と修斗の性格もあるし、真昼との交際は親公認なので将来的に娘になる相手に仲良いのも当然とは思ったが、彼には当て付けのように聞こえてしまうので口にするのは控えたのだが……志保子は気にした様子はなく、堂々と言ってのける。

恐らくわざとなのだろう、とは思ったが、考えはあるらしい。修斗も止める様子はない。

邪気は一切ない、純粋に真昼を気に入っていると言い切った志保子に、真昼は照れ、大輝は面食らったように目を見開いたものの遅れて苦い笑みを浮かべた。

「まあ、彼女ならお二方何ら不満はないでしょうな」

「そうですわね。うちの息子が選んだ人ですもの。見る目は間違いありませんし、私達も真昼ちゃんを見てこの子なら周を任せられると思いましたから」

任される側に思われていた事が微妙に不服だったが、実際世話を焼かれているので文句は言えない。

「うらやましい限りですな。愚息だとそうはいかないので」

「息子さんを信用なさってないのですね」

「愚息はお宅の息子さんのように出来た人ではないのでね。ひよっこですよ、まだまだ」

「あら、そんな事はないと思いますよ? 周に聞く限りでは、とても気遣いの出来る優しい子だと思っていますが」

「それは……」

言い淀んだ大輝に、志保子は静かな微笑みをたたえる。

同じ親として何か感じるものがあるのか、普段ならばそこまで追及しないのに、今回ばかりは遠慮をしていない。

親から彼女を庇って逃げた樹の姿を見た、というのがこの行動の大きな理由だろう。

「親として、選んだ相手に思うところがあるのも分かりますけど……男の子は自立心が芽生えるのも早いですし、あまり抑圧すると反発しますから。折角素敵な子に育ったんですもの、彼の見る目を信じて見守ってあげるのも大人の役割だと思いますわ」

そう告げて大輝に微笑みかけた志保子に、微笑みを向けられた大輝が苦虫を噛み潰したような渋い顔をする。

それが嫌悪から来るものというよりは、痛いところを突かれたからこそ浮かび上がったもののように見えた。

それ以上は口を動かそうとしない志保子を見て、修斗と淡い苦笑を浮かべる。

「まあ、先程知り合った私達が偉そうに言える事ではないのですが……明確に誤った道に進もうとしているならともかく、自分で選んだ道を歩こうとする子供を引き留めても、子供は受け入れてくれませんよ」

そう締め括って志保子と同じように微笑みをたたえて大輝を見守る修斗に、周は頬をかいてそっとため息をついた。

あまり、周の方からは口出しをするべきではないと思っている。けれど、大輝はよくも悪くも頑固な事は理解しているし、親から見たものと本人達が見たものは違って見える事も分かっている。

大輝が、千歳が悪い人間ではないと分かっているなら、あとは認識と要求の違いだ。

「大輝さん、俺からも一つ言わせてください。その、大輝さんは……千歳の事、気に入らないとは思いますけど……決して、駄目なやつじゃないです。最近は、大輝さんに認めてほしくて悩んでましたし努力もしています。別に、受け入れてくれとはいいませんけど……ちゃんと、正面から見てあげてください」

大輝の許容ラインが高いだけで、千歳自体そこまで出来ない人間ではない。極端に頭が悪い訳ではないし、肝心なところでは空気を読める人間だ。気遣いも出来る。

あえて言うなら理想が違うだけなので、全てを否定してほしくはない。

周の躊躇いがちな言葉に軽く瞠目した大輝は、ばつが悪そうに視線を逸らした。

「……善処したいとは思っている。ただ、それはそれとして、もう少し頑張りは見せてほしい。うちの名を背負うというのなら、相応の器量は持ち合わせてもらわねば困る」

「それはまあ、伝えておきます」

場合によっては妥協する、といった意味合いでの言葉にひっそりと肩を竦めて、小さな前進に安堵の吐息をこぼした。