軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

210 こわいものはこわい

昼食を終えて校内巡りを再開した周と真昼だったが、行く先々から声やら視線やらを浴びせられて真昼はほんのりお疲れのようだった。

人から注目を浴びていたのははぐれないように手を繋いでいたせいもあるのだが、手を離す事だけはしたくないらしい。控えめに、けれどしっかりと周の指に絡められた真昼の指は、離すまいと主張している。

偶々出会った一年時のクラスメイトに囃されて真昼を見てみれば、淑やかな笑みをたたえつつもそっと身を寄せてきたので離れるつもりはないだろう。むしろ主張しているようにすら思える。

(……別にいいけど、付き合ってるのは全学年知ってると思うんだけどな)

真昼が周と交際を始めた事は、恐らくこの学校の生徒なら大体知っているだろう。体育祭で堂々と大切な人と発言して、週明けには交際し始めたと宣言したのだ。

真昼が同級生のみならず先輩後輩にも有名だったからこその広がりようであるが、当時男子達の落胆がひどかった。真昼の居ない所で見知らぬ先輩に詰め寄られた事もある。

まあ、その後クラスメイトの通報によって駆け付けた真昼が笑顔でとどめをさしていたのだが。

そんな事を乗り越えてお付き合いしてきたので、流石に今更割り込める隙があるなんて能天気な事を考える男子なんて居ないだろう。主張せずとも一緒に歩いているだけで充分なのだ。

ただ、真昼は何か思惑があるようで、周の側から離れない。前のクラスメイトと別れても控えめに寄り添っている。

「……何かあったか?」

「……今周くんはばっちり決まってます」

「何がだよ」

「髪型とか、雰囲気が」

「……まあ髪型は出し物のセットのまま来てるからな」

「だからです」

「よく分からないんだが……」

別に髪型を変えてモテるなら真昼と付き合いだした頃にモテていると思うので、くっついて主張するほどのものでもないだろう。個人的にはくっついてくれるのは嬉しい反面、密着したが故の感触を味わっているのでもう少し体を離してほしいとも思ってしまう。

真昼本人がしたいようなので好きにさせてはいるが、微妙に居心地が悪いのは仕方のない事だ。

昔に比べて積極的になったなあ、なんて若干現実と周囲の視線から目をそらしつつ校内をゆっくりと歩いていく。

配布されたパンフレットを見てどのクラスがなんの催し物をしているか確認しているのだが、真昼が地味に先導して、というよりは誘導して歩く先にはお化け屋敷がある。

(……真昼、ホラー系はあんまり得意ではなかった気がするんだけどな)

偶々ホラー番組を見た時に青ざめた顔で手を握られた事があるが、あの時は強がっていた。言葉と表情は裏腹なものだったので、恐らく非常に苦手なのだろう。

ただ、学生が予算内でするお化け屋敷は、流石にしっかりと作り込まれたテレビのものと比べたら到底及ばないと思うので、問題ないと判断したのかもしれない。

「そんなにお化け屋敷行きたいのか?」

「えっ」

ぴたりと止まって恐る恐る周を見上げる真昼の表情は、全く考えていなかったといわんばかりのものだ。恐らく、適当に見歩くつもりだったので、そこまで考えずに歩いていたのだろう。

油が切れた機械のようなぎこちない表情を浮かべた真昼は、視線を泳がせている。確実に彼女はお化け屋敷に行くなんて発想はない。

「……そ、そういうつもりでは、なかったのですけど」

「てっきり行きたいものだとばかり。まあ、真昼ってホラー系苦手だから有り得ないよな」

「……そんな事はないです」

「こっちの目を見て言えよ。滅茶苦茶目を逸らしてるだろ」

あまり自分の弱点は知られたくないらしい真昼が誤魔化そうとしているが、表情や態度がそれを台無しにしている。見るからにうろたえているのに信じてあげられるほど周は素直ではない。

(別に怖いものが苦手、というのは恥ではないと思うんだけどな)

むしろ可愛らしいと思うのだが、本人的には嫌らしい。

微笑ましいと内心で思っていたのがバレたらしく、真昼は少し不満げな眼差しで周を見上げてくる。先程の衝撃が抜けないのかほんのりと瞳が湿っているので、なんら迫力はないが。

「別に平気です。お化け屋敷も行きます」

「平気なんだな。じゃあ今度一緒にホラー系の映画見ような」

「……の、望む所です」

「滅茶苦茶声震えてるじゃねえか」

一応冗談として言ったのだが、真昼は見栄を張って承諾するものだから、逆に周が困る事になっていた。

「……いいのか、強がって。一人で寝られなくなっても知らないぞ」

「強がっていませんし、もしもの時は……周くんに責任取ってもらいますので」

「……お化けより生身の方が怖いぞ」

「周くんが怖いとは思いませんので。そもそも、何度も一緒に寝てます、もん」

きゅ、と腕に身を寄せて上目遣いしてくる真昼に、とりあえず優しく真昼の口を指の腹で塞いでおきながら、そっとため息をつく。

確かに、付き合う前からうたた寝をして真昼が泊まる事はあったし、先日正式に交際を始めて初のお泊まりもした。ある意味ではお泊まりを何回もしているだろう。

ただ、非常に誤解を招きそうな発言である。周囲の生徒達が微かにざわめいている。まだそういう関係ではない身としては、誤解されるのは複雑だった。

「……お誘いみたいに聞こえるぞ」

「変な勘違いはやめてください。そもそも周くんが誘ってるんです」

「俺は他意がなかった。ただ真昼がびくびくする様を見たかった」

「それも他意と言います」

ぺしぺしと脇腹を小突かれるので、つついてくる手を握り直して阻止しておく。

手を握られるのは嬉しいのか、少し不満げだった顔も柔らかく緩むので、周は微笑み返して真昼の手を引く。

勿論、お化け屋敷の方向に。

「……あの?」

「女に二言はないって前に言っただろ」

確かお泊まりの際に言っていた気がする。

本来は男の台詞だったが無駄に堂々と言ってのけたので、今回も二言はない筈だ。

「た、確かに言いましたけどっ。い、いじわる……」

もぞもぞと身じろぎをしてほんのり潤んだ瞳で見つめてくる真昼に、周は小さく笑って容赦なくお化け屋敷に向かって手を引いた。

その後お化け屋敷の中ではずっとしがみつかれたという事は、彼女の名誉のために千歳達には言わない事にしておいた。