軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

203 文化祭開始

文化祭当日は、天候にも恵まれ快晴だった。

少し肌寒くなりつつあるのが幸いしてか、割と着込む衣装でも体温調節には問題なさそうである。ネクタイをきっちり閉めても汗ばまないのは幸いだった。

「一番最初のシフトだとちょっと緊張するね」

「まあお昼になったら交代だからそれまでは頑張らないとな。門脇と真昼が居るから、結構混雑しそう」

「それはごめんね。でも、なんというか、仕方ないというか最早諦めてるよ」

先に行われた生徒向けの開会式を体育館で聞き終え、一緒のシフトである門脇と更衣室代わりの控え室で話しながら着替えるのだが……門脇は最早達観したように微笑んでいる。

見世物にされているのは日常茶飯事らしく、服装が変わるだけなので諦めて受け入れるつもりのようだ。

美形は本当に苦労に耐えないな、と周は無意識に哀れみの視線を向けてしまったのだが、それに気付いた門脇が小さく笑った。

「藤宮も気を付けなよ。椎名さんがやきもちやいちゃうから」

「俺は門脇に霞んでひっそりとしてるから大丈夫」

「よく言うよ。……まあ、妬かれるより妬く方が多いかもね、藤宮は」

「妬くというより最早不安でひやひやしてる」

真昼は可愛らしいしメイドの衣装もよく似合っている。変な男に付きまとわれたりセクハラされたりしないか心配になるくらいには、非常に似合っていた。

真昼目当ての生徒達も沢山訪れるであろうし、彼氏としては面白くないし、不躾な視線を送られないか不安になる。

周の胸中を察したらしい門脇はへにゃりと眉を下げながら苦笑いして「頑張って」と背中を叩いた。

着替えて教室に向かえば、もう粗方の準備を済ませたらしいクラスメイト達が揃っていた。ここに居ない生徒は恐らく調理室の方に居るのだろう。

昼からのシフトなので制服のままの樹が、クラスメイト達が集まったのを確認して教壇の前に立って相変わらずの明るい笑みを浮かべる。

「今日は文化祭一日目だ。正直どれだけの人が来るか分からない。こういった試み自体は前例がないって訳じゃないけど、なんたってこのクラスには人気者が居るからな」

樹はちらりと門脇と真昼を流し見る。

見られた二人は苦笑を浮かべていた。それは覚悟の上なのだろう。

「ま、オレらはオレらなりにやっていこうぜ。折角の文化祭、楽しまなきゃソンってやつだ。客がこようがこまいが関係なしだ。ぶっちゃけ来年はこんなに余裕ないと思うからな。目一杯楽しめるのは二年生が一番だ。来年はどっか頭の片隅に受験がーってあると思うし」

「そういう事言われると気が滅入りそうなんだけど」

「スマンスマン。じゃあしんみりした空気はなし! 今年も文化祭楽しくやってこうぜ!」

一瞬憂鬱そうな気配がクラスに流れたものの、樹の笑顔で一瞬で空気も明るくなる。樹が仕切り役を買って出たのは正解だった。

「あ、そうそう業務連絡っつーか注意事項な。みんな分かってると思うけど、店内撮影禁止を徹底させてくれよ。受付の時に口頭で注意喚起してもらうけど、写真はアウトな。お願いされてもそういうサービスは承っていませんで突っぱねろ。めんどくさい事が起きかねないから」

電気街にある、そういった専門店でよくある写真撮影サービスはもちろんない。あくまで学生の文化祭であり、店員の容姿を売り物にしている訳ではないためだ。

そのため店内には撮影禁止の貼り紙がしてあるし、テーブルに設置されたメニューの端にもそういった旨の文章がある。

ちなみに文化祭開催にあたり、敷地内での動画撮影は禁止となっている。他校で動画配信サイトやアプリで行事を生徒が配信した結果女生徒に対するストーカー事件が起こったらしく、我が校ではここ数年で新たに決まった禁止事項だ。

そういった禁止事項が出来るくらいには世の中が移り変わっている、と思うと感心するやら呆れるやらで忙しいのだが、とにかく規則を守らない人間は居るので気を付けなければならないだろう。

「ま、注意はこんなところかな。そろそろ始まるぞ」

樹の声が終わったと同時に、教室にあるスピーカーからノイズが僅かに聞こえた。

そして次の瞬間には、校長による文化祭開催宣言がスピーカーからこぼれ落ちる。

「じゃあ、今日と明日の二日間、頑張っていくぞー! 目指せ売上学年一、だ!」

高らかにやや無謀な事を言いつつも拳を掲げる樹に、クラス中が湧き立つ。気合いのほどは充分だろう。

周も改めて背筋を伸ばすと、側で静かに聞いていた真昼が控えめに微笑んで「がんばりましょうね」と囁いた。