軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

193 文化祭の出し物について

考査を終えて次に待ち構えているのは、一年に一度の大きなイベントである文化祭だ。

周達が通う学校はこういった生徒が一丸となって行うイベントには力を入れているので、クラスごとの予算も多く、毎年凝った出し物がある。

「という訳でクラスの出し物を決めるぜいえーい!」

当然クラスで何をするかはクラス全員で決めるので、その時間がやって来れば自然と盛り上がる事になる。

ノリノリで教壇に立っているのは、樹だ。

お祭り好きの樹が文化祭委員に立候補するのは分かっていた事だが、本当に立候補して見事その座を勝ち得ている辺り笑うしかない。

「えーえー、文化祭の出し物だけど、まず大切なのは学年ごとに飲食店の数は決まってます。大体どのクラスも飲食店は候補に入ってくるから、飲食店の場合は熾烈な争いが予想されるのは覚悟しといてくれよな」

当たり前ではあるが、出店できる飲食店の数は決まっている。

遣り甲斐があり経営の実践が出来る飲食店は人気があり、下手をすればほとんどのクラスが希望する場合もある。それでは飲食店ばかりになってしまうので、制限がかけられる。

それに加えて他の調理実習室の空きの関係や衛生指導の関係で全ての希望は叶えられないのだ。

「それから、予算やら新たに使いそうで既にあるものの種類はある程度は配ったプリントに記載してるので確認してくれよな。それに書いてなくても確認したり持ちより出来そうなものはその都度確認する。とりあえずは予算内で出来そうなものをいってくれよ。……さてさて、やりたい出し物がある人は挙手してくれ」

樹の問いに我先にと手を挙げたクラスメイト達。

みな爛々とした瞳をしているのは、それだけこのイベントが重要なものであるからだろう。

学生にとって文化祭というのは一大イベントであり、楽しみにしているものなのだ。

(まあ俺は去年適当に過ごしたけど)

学生らしい瑞々しさや初々しさなど欠片もなかった周は、文化祭も適当に過ごした。出し物もホームメイドの品を販売するタイプだったので、言われた通りに作って店番の順番の時に店番をした程度だ。

なので、彼らの盛り上がりはどこか遠い別の場所で見てしまっている。

「はいはーい! やはりここは定番の喫茶店がよいと思います!」

「ほうほう、想定内ではあるなあ。ちなみにただの喫茶店?」

「メイド喫茶でどうでしょうか。」

「ほら、このクラスは椎名さんが居るから……絶対に似合うと思うんだよ」

付け足された言葉は小声になりながらちらちらと真昼を見るクラスメイトに、何だか少し面白くないものを感じるが、口に出す事でもない。

「ははは。予算の事何も考えられてない気がするがその意気やよーし。とりあえず候補には入れておくとしよう」

真昼のメイド服、という言葉に色めき立つ男子達に呆れた眼差しを送っていると、樹と目が合う。

視線でいいのかと聞かれて、周は渋い顔をした。

いいか悪いかで言えば、悪い。

ただでさえ真昼は普段から見世物に近い形で目立っているのだ。

最近はその可愛らしさに磨きがかかってきたとも言われていて、そんな真昼にメイド服なんて着せたら群がる事は確実であり、真昼が対応に困るだろう。

逆に言えばメリットとして売り上げ自体は確約される。真昼の存在は絶対的な広告であり、一目見ようと男子達が押しかけてくるに違いない。

当の真昼は自分を話題に出されて何とも言えない困ったような笑みを浮かべている。

当然だろう。自分を見世物にされるなんて気分がいいものではない。

ただ、これはあくまで提案であるし、言った側から駄目出しする訳にもいかない。真昼が本当に嫌がるなら周が拒むしかない。

「まあメイド喫茶というのは男の憧れかもしれんが、予算も考えて提案しろよー。はい次に意見ある人ー」

樹の促しにお化け屋敷だのカレーやうどんといった定番のお店を挙げていって、黒板が白い文字で埋められていく。

ただ、皆の……というよりは主に男子の関心はメイド喫茶というものにあるようで、ひそひそと話し声が聞こえる。

「やっぱ椎名さんのメイド服が……」

「いやでも藤宮のやつがいるから……」

「いや、藤宮も男だ。彼女のメイド服は見たいだろう」

聞こえてはいるが、残念ながら賛成する気はない。

全く見たくないと言ったら嘘になるが、見せびらかしたい訳ではない。真昼が疲れるのも分かっているので、進んでさせたいとは全く思わなかった。

視線を送りつつ鋭い眼差しを送れば、視線に気付いたのか勢いよく目を逸らされた。

その様子を見ていたらしい真昼が小さく笑っているので、彼らを睨むのは優しめにしておく。

「ちなみに周さんや、提案は?」

急に樹から声をかけられて、周は渋い顔も隠さずに樹を見る。

「何で俺に聞くんだ」

「物言いたそうにしてたから?」

それは樹に対してではないが、樹に名指しで呼ばれたため周囲の視線を集めているので、何も言わないというのも空気が悪くなる。

どうしたものか、と考えて、一番楽そうな提案を口にする。

「……強いて言うなら郷土史辺りの調査してまとめたものを展示発表するくらいがいいかな」

提案にクラスが静まり返ったのは、誤算だった。

盛りあがっているところに水をさしたような空気になってしまって非常に居心地が悪い。

「なあそれ誰得なんだ」

「……割と良いもんだけどな。調べるだけ調べて、後は展示中は極少数で見張りして後は自由行動。文化祭そのものはめちゃくちゃ楽しめるんじゃないのか。時間気にしなくていいから他のクラスの出店見放題だぞ」

言い方を変えれば、クラスのあちこちからなるほど、といった声が聞こえた。

周とて郷土史の展示発表は学生が楽しめるものではあまりないと思うが、周が本当の目的にしているものはその先の自由行動の猶予だ。

飲食店は人気だが、どうしても人手が要るし労力は大きく、拘束時間も長い。お金を取り扱う以上店には慎重にならざるを得ず、非常に苦労するのは見えている。

何かの展示発表という形なら、準備期間に全てを終えておけば後は展示の見張りを一人二人立たせればいいだけだ。

文化祭の期間が二日なので、一人辺り一時間にも満たないだろう。非常に手間と時間効率がいい。

金銭も発生しないので、気楽に立っていればいいだけというのも大きい。

さらに加えるなら、接客や容姿、調理の腕に自信がない人間にとっては、これほど苦がない出し物はないだろう。周もこちらの部類なので、よく分かる。

「なんつーかお前らしいというか」

樹は呆れを隠していなかったが、周はただ提案しただけなのでそっぽを向いて唇を閉ざす。

真昼も周くんらしいといった視線を向けてくるので居心地が悪いが、もう言ってしまったものは取り返せないのでそっとため息をつくだけにしておいた。

「えーじゃあメイド喫茶が得票最多なのでメイド喫茶に決定だけどいいかー?」

結局のところ、男子票が多く入ったメイド喫茶に仮決定する事になった。

「ただまあこれから生徒会に決定を伝えてそこからは恐らく抽選になるので、抽選から漏れたら二番のお化け屋敷になるぞー。あと、衣服に関しては確実に予算内で用意出来るものじゃないしツテ探す事になるから心当たりのあるやつは先にそのツテに聞いておいてくれ。なければ普通の喫茶店になるから覚悟しとけよ」

進行を任されている樹は持ち前の明るさと要領のよさでてきぱきと必要事項、注意事項を口にして、生徒会に伝えに行くのか教室を出ていった。

分かりやすく空気が緩んでざわつきだすので、周は小さくため息をついて頬杖をついたところで、真昼が近付いてくるのに気付く。

「どうするんだ」

「どうすると言っても……決まったものは仕方がないですから」

苦笑を浮かべる真昼に、仕方ないとはいえ微妙にもどかしさを感じてしまう。

「嫌だったらちゃんと言っとかないと駄目だぞ」

「嫌という訳ではないですけど……その、周くんはメイド服、嫌いです?」

「好きでも嫌いでもないよ。ただ、真昼は似合うと思うくらい。エプロンよく似合ってるしな」

「そ、そうですか……じゃあ頑張ります」

「いや無理に頑張らなくても」

「周くんに喜んでもらえるなら着ますよ」

そう言って美しい微笑みを浮かべた真昼の背後で男子がひっそりガッツポーズをしているのを見て、周は笑みが引きつりそうになるのをこらえるしかなかった。