軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

182 お泊まりのおさそい

「そういえば、ご褒美はクッションでよかったんだよな?」

帰宅して夕食後に反省会を開催した周は、隣で周が誤答した問題の解説をしていた真昼に問いかける。

ノートから顔を上げた真昼は、クッションという言葉に微妙に視線を泳がせた。

「……その、あの、クッションは、欲しいです」

「うん、あれでいいならどうぞ」

「そ、それとは、別に、あの」

「他に何か欲しいものがあるのか?」

「ほ、欲しいというか……その」

何やら非常に言いにくそうにしている真昼に、取り敢えず落ち着けという意味も込めて優しく頭を撫でる。

基本的にわがままやおねだりをしない真昼が何かを望んでいるのだ、叶えてやりたいと思うのは当たり前だろう。

撫でられた真昼は僅かにふやけた笑みを見せるが、すぐに恥ずかしげに顔が俯く。

「……そ、その、金曜日は、お時間空いてますか」

「ん? 特に予定は入れてないけど」

「……それなら、えっと……ま、前に、言っていた事を、お願いしたいというか」

「前に言っていた事?」

「……お、お泊まり、を」

僅かに震えながら告げられた言葉は意表をつくもので、周は思わず目を丸くして真昼をまじまじと見てしまった。

「……それは千歳発案?」

「い、いえ、お泊まりをしたいと言ったのは私で、千歳さんはそれを後押ししただけというか……私が、周くんと過ごしたいと思ったから言ってるのであって、指示された事ではありません」

「そ、そうか……その、お泊まり、か」

「……はい」

それ以上は恥ずかしすぎて言えないのかきゅっと身を縮めつつクッションを抱き締める真昼に、周は嬉しいやら恥ずかしいやらで頬をかく。

驚きはしたが、嫌ではない。むしろ願ってもない事だ。真昼を抱き締めて眠りに就く幸せを想像すれば、諸手を挙げて受け入れるつもりだ。

ただ、問題は、周がどこまで我慢出来るか、といったところだろう。

「……嬉しいけど、その、もし……俺が何かしたら、とか、考えない?」

「そ、それはその……周くんが望むのであれば、受け入れます。……せ、責任は、取ってくれるでしょうし」

「それは勿論。なくてももらう」

「あ、ありがとうございます……。えと、ですからその……一緒に寝る、将来の……よ、予行演習、というか」

今も半同棲しているようなものだが、一緒のベッドで寝るというのはまた違うのだろう。

真昼が彼女として彼氏の家に泊まるのは初めてなので、提案した真昼の方が羞恥で一杯の顔をしている。

「……だめ、ですか」

「い、いや、むしろ何で断られると思ってるんだ。……嬉しいよ」

急な提案に驚きこそしたが、受け入れるつもりだ。真昼が周を求めてくれる事が嬉しい。周を受け入れてくれる事が嬉しい。

もちろん、まだなにもするつもりはないが、真昼が周に全てあげていいと思ってくれている、それを感じるだけで充分だった。

受け入れられた事に嬉し恥ずかしといった様子の真昼は、相変わらずクッションを抱き締めて瞳を伏せている。

「……た、楽しみに、してます」

「お、おう」

互いにぎこちなく頷きあう。

(……金曜日、か)

ただお泊まりするというだけなのに、前にも一緒に寝た事があるのに、こんなにも緊張に似た動悸を感じるのは、恋人として、そして受け入れる覚悟を持って同じベッドで寝る事になるからだろう。

何もするつもりはない周でも緊張するのだ、受け身である真昼はもっと緊張する筈だ。

頬を染めつつ撤回はしない真昼に、周は金曜日までにもうちょっと理性を磨いておこう、と心に決めた。