軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18 天使様はテストも完璧です

「周〜、どうだった?」

期末考査の日程がようやく終了して地獄のテストから解放された学生達はいつもより活気づいた様子で教室にたむろしている。

周と樹もまた、テストが終わった事に安堵しつつ今回の出来映えを評価していた。

「ん? 普通。よくもなく悪くもなく」

聞かれて答えはするものの、特に何か言う事はない。出題範囲をそのまま出されているので、日頃から復習をしていればそう難しいものでもない。

今回も手応えは今まで通りだったので、周としてはあまり感想はなかったりする。

周は面倒くさがりではあるものの、基本的に復習を欠かす事はない。

大体授業で習った事は頭に入っているし、過不足なく解ける。満点こそ無理ではあるが、八割九割はかたかったりする。

「そういうお前は大概するっと三十番内に入ってるんだよな……インテリめ」

「日頃の行いだな」

「お前の日頃の行いがいいというのか!」

「少なくともいちゃつくのにかまけて勉強をおろそかにしてるやつが俺に文句言うな」

周と樹の差は、頭の出来というよりは彼女である千歳に構う時間があるかないかの差だろう。

樹も物分かりはよく真面目にすればそれなりに高い順位を出せるのだが、いかんせん千歳との時間を優先してしまっているために周よりも順位は下だった。

「……彼女はいいぞ?」

「ハイハイ」

「周もさー、彼女作れよ」

「欲しいからって作れるなら世の男は血の涙を流したりしないぞ」

欲しくても与えられない人間はやまほど居るので、樹の迂闊な発言は聞く人によっては非常に腹立たしいものだろう。

周は別に目くじらたてるつもりはないし、そもそも今のところ恋人がほしいといった欲求はないため、さらっと流すのだが。

「大体作ってどうすんだよ」

「ダブルデートを」

「それ俺と架空の彼女が胸焼けして終わるだけだろ」

「オレ達にも見せ付けろよ!」

「俺の性格で出来ると思ってんのか」

「……無理だなあ」

「だろ」

周も自覚しているが、淡白な性格をしている。

人によっては冷たいと取られる面倒くさがりな性格且つ端的な物言いは、あまり人受けがよろしくない。恋人なんてそもそも出来ようがない性格をしているのだ。

万が一出来たとしても、非常にあっさりとした関係になるだろう。少なくとも樹のような人目をはばからずいちゃつくような関係にはまずならない。

「いやでも周も好きなやつくらい見付けろよ。お前、前髪もう少し切ってさっぱりして髪セットしてしゃっきりしたら絶対女子の見る目変わるから」

周は自己評価というものは正確にしているつもりで、門脇のようなイケメンでも樹のようなややチャラめの端整な顔立ちではないが、決して不細工ではないとも思っている。

ちゃんとそれなりに身嗜みを整えて格好をきめれば、その辺りの男子高校生と遜色ない程度には整う。

ただ、着飾って寄ってくる相手に愛想を振りまけるほど周は器用ではない。

「見た目によってくるやつにロクなのは居ないぞ」

「そう言うが、まずは興味を持ってもらわないと人柄に触れる事すら出来ないだろ?」

「……そうだとしても、別に今のところ彼女作りたいとかはない」

仮に彼女を作ったところで、素の周を見れば確実に幻滅するだろう。

周はズボラであり生活能力がない人間で、その上愛想もない。むしろ惹かれる女子が居たら見てみたいものだと、本人が苦笑する程である。

周としても、一々他人に構うのは面倒くさいという人付き合いに向いてない性格なため、彼女は欲しいとは思っていない。

それに、今は真昼が晩ご飯を作っているため、万が一出来た場合大惨事が起こりかねないのだ。作る予定は微塵もないので不安はないが、そういった理由でも作りたいとは思わなかった。

周の中では真昼の料理>まだ見ぬ彼女の優先度であり、恐らくそう易々と覆らないだろう。

「淡白なやつめ……ちぃの友達紹介してもらうとかもあるんだぞ?」

「余計なお世話だばか。大体千歳の友人って確実にハイテンションなやつらだろうが、俺には友達付き合いすらきついぞ」

「周は陰キャだからな」

「やかましい」

「まあ、周が言うんだったら今のところは言わないけどさ。でも、華の高校生活で彼女も作らずに一人むなしく過ごすのは辛くないか?」

「要らんしめんどくさい」

学校生活をなんだと思っている、という真面目な思考ではないものの、別に必要に駆られる事はないから作りたいとも思わない。

そもそも、好きな相手はそう易々と作れるものではないし、叶うものでもないのだ。

「……もったいねえなあ」

「はいはい」

「でもまあ、周も好きなやつ作ったら変わるぞ?」

「何で断言してるんだ」

「お前みたいなやつに限って彼女は猫可愛がりするんだ」

「勝手に言っててくれ」

自分がそんな甘ったるい人間になるなんて想像出来ないしあり得ないとふんでいる周は、樹の言葉を適当に流す。

そんな周を樹は呆れたような眼差しで見ていたが……ふと、視線が逸れて顔が緩む。

「いっくーん、帰ろー?」

「おっ、ちぃか」

ちょうど、樹の彼女である千歳が来たらしい。帰宅の約束をしていたようで、周はそれまでの話し相手になっていたのだ。

振り返れば、明るい茶髪をショートカットにしたボーイッシュな少女が満面の笑みでこちら、正しく言うと樹に手を振っている。

溌剌とした雰囲気や明るい笑顔は、見ているこちらが眩しくなってくる程だ。性格も見ての通り人当たりのよく活発で明るく、よくも悪くも賑やかし担当の少女だ。

真昼とは違ったタイプの美人である千歳は、こちらに駆け寄ってきてにこにことしている。

そのまま黙っていてほしい、と思ったのは、千歳がしゃべると大概周がいじられるからである。

「ちぃも思うだろ、周みたいなタイプが実は恋人可愛がるって」

「余計な話を振るな」

「え、何、周に恋人居るの!?」

「いねえよ」

「えー、なんだー。居たらなかよくしたかったのにぃ」

ちぇー、と唇を尖らせて残念がっている千歳。

「お前の仲良くは過激なスキンシップなので架空の彼女が可哀想になるわ」

「え、イマジナリーガールフレンドいたの?」

「今もし居たらって話の流れだっただろうが!?」

「じょーだんじょーだん」

「お前の相手してると疲れる……」

「周の体力ないだけでしょ」

「気力ごとごっそり持っていかれるんだよ……」

体力云々の前に精神的に疲れるのだ。

ただでさえ常日頃から周は親しい人間としか大してしゃべらず目立たず無気力に学生生活を送っているというのに、千歳のようなひたすらにテンションの高い生き物と会話させられると、きついものがある。

多少邪険に扱われても全く気にしていない千歳は、疲弊を見せている周に「だらしないなあ」と実に愉快そうに笑っている。

同じように樹も笑っていて「はやく慣れろ」と適当なアドバイスを投げてくるので、周はもう疲れて深く息を落とすしかなかった。

「……何してるんだ?」

帰宅して真昼手製の料理を平らげた後、周が洗い物から戻れば真昼がリビングで問題用紙を広げていた。

洗い物は交代制、というよりはなるべく負担をかけまいと周が率先してしているため、その最中は真昼はリビングに居る。なんでもさせるだけさせてさっさと帰るのは申し訳ない、との事。

「採点です」

「まあ見りゃ分かるけど」

見直しをしているのか、教科書を出して間違いがないか確認しているようだ。

「ちなみに結果は」

「解答用紙の方に私が記述を間違っていなければ満点ですね」

「流石としか言えんな」

あまりにあっさりと満点と告げられたため、周も特に大仰な反応はしなかった。

驚かなかったのは、常に定期考査では一番に名前が書かれているのを何度も見ているからである。

真昼ならやりかねないと思っていたため、満点と聞いてもやはりという感情しか浮かばない。

「勉強は嫌いではないので。そもそも、先に一年先まで丸々履修内容先取りしてますから復習で充分です」

「うわこわ。よくやるよ……」

「藤宮さんもそれなりに勉強してるでしょうに」

「俺の成績知ってたっけ」

「貼り出されている順位に入ってる人はなんとなく覚えてますよ」

どうやら話す前からある程度の存在は知られていたらしい。

てっきり上位一桁でないと眼中にないのかと思えば、割と見ているようで前回の周の順位をさらっと口にしていた。

周がそれなりに勉強するのは、学生は勉強が本分である……という生真面目な思考回路ではなく、家族との条件があったからだ。

「ま、一人暮らしの条件だからな、成績の維持は」

一人暮らしをするにあたって、成績は維持する事、と決められている。

他にも半年に一度は顔を見せるとか条件があるが、そちらは長期休暇を使えばどうとでもなるので基本は成績さえ保っていればとやかくは言われないのだ。

「困らない程度には勉強してるけどお前ほどじゃない。よく頑張るよなあ」

「……頑張らないと、いけませんので」

小さく呟いた真昼が俯く。

その表情は前髪に隠れて上手く読み取れなかったが、明るくない事は確かだろう。

しかし、すぐに顔を上げていつもの表情に戻っていたため、指摘する事は出来なかった。

出来ていたとしても、しなかっただろう。痛みに耐えているような、そんな雰囲気だったから。

時折、真昼はそういった面を見せる。

何が苦しいとか何が嫌だとかそういった事は決して口にはしないが、何かに囚われてもがいているような、そんな印象をうけるのだ。

それが家庭環境に起因するものだというのは、想像に難くない。

故に、口出しもままならない。

他人の自分が踏み込んでいい領域ではないと分かっているからこそ、周はそこには触れずにあくまで隣人のほどよい距離感を保つようにしていた。

周も、触れられたくないものはある。

土足で踏み込む事の方が失礼であり、何も知らない振りをしてくれる方が有り難いと身に染みる事もよくあるのだ。

先程の雰囲気を隠した真昼は「そろそろおいとまします」といつもの涼やかな声で告げて、鞄に教科書と問題用紙を詰め直していた。

それを止める気もないので「そうか」とだけ返して、支度をしている真昼を眺める。

真昼が全部出したものを仕舞い終わって席を立ったところで、空のコップの影に周のものではないものがある事に気付く。

ふと手に取れば、学生なら誰でも持っている学生証が入ったケースだ。

恐らく、教科書を出した際に一緒に出してしまって仕舞い忘れたのだろう。

顔写真に加えて氏名、学籍番号、生年月日、血液型といった簡単な情報が書かれたそれを眺めてから、帰ろうと玄関で靴を履いていた真昼に声をかける。

「落としてるぞ」

「ああ、すみませんわざわざ。ではおやすみなさい」

「おやすみ」

ぺこ、と丁寧に腰を折って周宅を後にした真昼に、周は見送りながらそっとため息をつく。

先程見た学生証に書かれていた生年月日……特に月日の部分を思い出して、額を押さえた。

「……四日後じゃねえか」

学生証を見なければ知らないままであっただろう真昼の誕生日に、周はもっと早く知りたかったと再び深いため息をついた。