軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

166 天使様にとっての余計な一言

買い出し(パシリ) から帰ってきた樹と合流した三人は、買ってきたものを食べ終えてゆっくりと人の流れに身を任せて屋台を見物していた。

「しっかしまあ、人多いなあ」

「そりゃこの辺で唯一の祭りだからなあ。屋台も多めだし規模結構でかいよ。学校のやつらともそりゃ会うさ」

まあすごすご退散してったけど、と付け足して愉快そうに笑う樹に、周は肩を竦めるだけに留めておく。

聞いていた真昼がきょとんとした顔をしているので、退散という言葉を不思議がっているのだろう。

おそらく気付く以前に眼中になかったのだと思うと、小さな優越感が胸を擽った。

(むしろ俺が居るのによく真昼の気を引こうとしたよな)

真昼が周以外を見ない事は学校の様子で知れ渡っていると思っていたのだが、諦めきれなかったらしい。

気持ちは分からなくもない。

清楚可憐で男子の理想を体現したような少女が近くに居るのだ。向こう側からすればぽっと出の男がかっさらっていったなんて納得がいかないだろう。

ただ、流石に真昼が明らかに周とそれ以外で態度が違う事くらい理解して欲しいものだった。

(……愛されてるよなあ、俺も)

勿論分かってはいるのだが、最近ますます痛感してきた。

本当に、大切に思われているし愛されている、と。

当然周も真昼が自分に抱くものと同じくらい熱量を込めて接しているが、やはり気恥ずかしさと誇らしさが同時に訪れるのでむず痒さも覚えた。

「……周もほんとまひるん好きだよねえ。顔に出てる」

「え」

「昔と比べてこう、愛想がよくなったし表情とか眼差しがすごく柔らかくて……言うのもあれだけど甘くなったよ」

「……愛想が多少よくなった自覚はあるけど、甘くなったって言われてもな」

態度が甘いなら分かるが、眼差しや表情が甘いと言われてもあまり実感がない。

周はどちらかと言えば素っ気ない雰囲気を持っているし、冷たい方だと自覚しているのだが、甘いと言われると首をかしげる。

「真昼、そんな俺甘い?」

「え、そ、それは、その……はい」

「そうかなあ。つーか目付きとかが甘いと言われてもなあ」

「今度写真撮っといてやるから自覚して悶えろ」

すごいから、と言われ、今度から人前で真昼を可愛がるのは控えようと思いながらも、真昼が常に可愛いので抑えきれる自信がなかった。

ぽっと頬を赤らめてこちらをちらちら見てくる真昼をとりあえず指で頬を撫でておきつつ、周は少しだけ頬に力を込めておく事にする。

「……今更顔引き締めてもオレ達には無意味なんだけどなあ」

「やかましい」

「まひるんも周が甘い方が喜ぶだろうし」

「え、そ、それは……その、どんな周くんでも、好きです。キリッとした周くんも、甘い周くんも、色っぽい周くんも……」

「へー、色っぽい周見た事あるんだー」

にやにやと笑みを向けられたが、別にやましい事は一切していないので渋面を作りつつも慌てる事はしない。

周と真昼は付き合って二ヶ月強経っているが、やっとキスをするようになったくらいでそれ以上には及んでいないし、暫くは我慢するつもりである。

付き合ってすぐそういう行為に持ち込むのは体目当てのようで嫌だし、負担がかかるのは真昼の方なので気軽に勢いでする訳にもいかないだろう。

真昼が望むなら考えなくもないが、そういった気配は今のところないので縁がない話であった。

「別にお前らが想像する事はしてない」

「それを堂々と言う辺りストイックというかプラトニックというか」

「でもキスはしたんでしょ」

「……お前らには関係ないだろ」

そこは報告したんだな真昼、と繋ぎ直した手を軽くにぎにぎして責めてみると、真昼が真っ赤な顔をしながら「ごめんなさい」と小さく呟く。

女子トークの弾みで口にしてしまったのだろうから文句は言えないが、こう指摘されると恥ずかしいものがあった。

千歳からしてみればキスも遅いのか「ほんと純情同士だよねえ。というか周がへたれというか」としみじみした感想を述べられて、眉の間が狭まる。

「……いいだろ、別に。俺達なりに進んでくし」

「うん、それはいいんだけどね。待たせ過ぎると女の子も焦れちゃうからほどほどにねって言いたくて」

「ち、千歳さん……」

「まひるんも素直に言った方がいいよ? 周くんがキスしてくれないって私に相談するより、」

「ああああああ駄目ですそういう事言うの!」

慌てて千歳の口を塞ごうとしている真昼に目を丸くすれば、千歳がひらりとかわしつつにこにこと真昼を愛でるように眺めてる。

いかに運動神経のよい真昼といえど、千歳も運動神経はいい上に真昼は動きにくい浴衣を着ているので、千歳を捕らえる事は出来なかったようだ。

「ふふ、まひるんは恥ずかしがるけど、私は可愛いなあって見てたんだよ。周の奥手さに呆れてもいたけど」

「……そ、それ以上言うと、千歳さんがまだ終わってない課題の最後の追い込み手伝いません」

「それは困るなあ。じゃあお口チャックしておこっと」

可愛らしい脅しに千歳が更に微笑ましそうに顔を緩めつつ、唇を横になぞりファスナーを閉めるような仕草をする。

羞恥にぷるぷると震える真昼をまじまじと見てしまって、視線に気付いた真昼が更に顔を赤くして逃げようとするのを、周は慌てて捕まえた。

抱き留めるように捕らえて、落ち着かせるように背中をぽんぽんと叩く。

「流石にはぐれたら合流に困るし真昼がナンパされるから、逃げるのはやめろ」

「……ううっ」

「真昼の事は見ないから、な?」

見ない代わりに腕の中で羞恥に駆られて震えるのを感じはするが、と思ったが口にしたら今度こそ逃げられそうなので黙りつつ言い聞かせると、真昼は素直に周の腕の中で大人しく体を揺らしている。

こういう素直なところがまた可愛いんだよなあ、としみじみ感じていると、樹と千歳が呆れた眼差しをこちらに向けていた。

「そういう顔が甘い顔なんだよなあ」

「無自覚はこれだから嫌ですなあ」

内緒話をするように言いつつもこちらにわざと聞こえる声量で話している二人に頬がひきつった。

しかし真昼が腕の中に居るので咎める事も出来ず、今度は不服なのも隠さない表情を浮かべる周だった。