軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

153 またね

「本当にもう帰っちゃうのね」

帰省する際最初の待ち合わせに使った改札口前の柱の側で、志保子がしょんぼりとした様子も隠さず呟いた。

その隣には修斗が居て、明らかに寂しそうな志保子を「まあまあ」と宥めている。

当初予定していた滞在期間を過ぎたし流石に家をずっと空けっぱなしにする訳にもいかないので、流石にもう向こう……今の家に帰る事は決まっていた。

名残惜しそうな志保子の視線の先は当然のように真昼が居る。可愛い娘(予定)と離れるのが惜しいらしい。

「すみません、家でする事がありますし、予定も入っていますので……」

「母さんの言う事は気にしなくていいぞ。聞いてたら日が暮れる」

「母親に冷たい息子ね……」

「それは母さんに返すよ。実の息子より可愛い娘を優先しやがって」

「あらやだ当たり前じゃない、いつでも帰ってこれる息子よりいつ来れるか分からない可愛くていい子な娘を引き留めるに決まってるでしょ」

あまりに堂々とした反論に周は最早突っ込む気も失せていた。

言いたい事は分からなくもないのだが、それはそれでどうなんだと精神的に疲労しそうだった。

ちらりと修斗を窺えば、仕方ないなあといった生暖かい笑みを浮かべているので、修斗の制止も期待出来そうにない。

真昼は困ったように笑っていたが、やはり嬉しさの方が強いのかはにかみとも取れる笑みを浮かべている。

「その、またよければですけどお邪魔させていただいても……」

「どんと来いよ! またはばっち来いね!」

「最後まで言わせてやれよ……でもよかったな真昼」

「はい」

今度は純粋に喜びの笑みを浮かべている真昼を撫でると志保子がにやにやとこちらを見てきたが、知らない振りをしておく。

「そっか、椎名さんもうちを気に入ってくれたならよかったよ。正直遠慮ばかりされたらどうしようかって思ってたし」

「あまりに母さんの押しが強すぎて遠慮する暇なかったと思うしお陰で馴染めたんだとは思うぞ」

「はは、そうだねえ。志保子さんはよくも悪くも強引だからね」

「……二人してさらっと私を貶してないかしら」

「それが志保子さんのいいところで魅力的なところだと思ってるよ」

「あら」

拗ねた様子が一変して嬉しそうに笑った志保子に周も苦笑して、それから構内の壁に設置された時計を見上げる。

「んじゃそろそろ行くか」

「そうですね、そろそろ時間ですし……」

早めに席に着いておきたいので、名残惜しさはあるが別れなければならない。

両親もそれを分かっているらしく、残念そうな眼差しの志保子が「真昼ちゃん、またいらっしゃいね」と真昼の手を握ってぶんぶんと振っている。

修斗はというとそんな志保子を優しい眼差しで眺めてから、真昼を改めて見る。

「椎名さん、今回は来てくれてありがとう。うちも賑やかになって楽しかったよ」

「こ、こちらこそありがとうございます」

「ふふ。もし周と喧嘩したら『実家に帰ります!』って言ってこっちに逃げておいで」

「俺が真昼をそこまで傷付けるとでも思うのかよ」

失礼な、と修斗に視線を送れば、からりとした笑みが返ってくる。

「ないとは思うししたら自分の教育を疑うけど、誤解やすれ違いもなきにしもあらずだからね。……それに、一人になりたい時や大人を頼りたい時もあるだろうし、何かあったらいつでもここにおいで。私達はいつでも歓迎するよ」

「……はいっ」

いつでも来ていい、という言葉にカラメル色の瞳が一瞬滲んだが、次の瞬間には嬉しそうな色で満たされる。

心の底から幸せそうな笑みを浮かべる真昼に、周も少しだけ目頭が熱くなった。

(……少しは、真昼に家族の幸せを教えてあげられたのだろうか)

家族と過ごす事がほとんどなかったという彼女に、これからも色々な幸せを見せて体感させてあげられたらな、と思うばかりだ。

へにゃりと眉を下げて微笑んだ真昼に、周も穏やかに笑って彼女の手を優しく握り締めた。