軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

152 第二の実家

「思ったんだけどさ、これがデートだといつもデートしてるようなもんだよなあ。真昼って大概俺の家居るからな」

おうちデートをあまり特別なイベント、という風に感じないのは、真昼が隣に居る事に馴染んでしまったからだろう。

家で過ごす時は、ほぼ真昼が居る。ただ、こうしていちゃつくというのはあまりなく、のんびりテレビを見ながら談笑したりご飯を食べたり勉強をしたりといった感じで、デートらしさはないが。

だからか、特に緊張したりどきどきしたりというのは、あまりない。

「ふふ、そうですね。毎日おうちデートしてますかね?」

「かもなあ。たまには俺んちじゃなくて真昼んちにも行ってみたいけど」

「私の家……ですか?」

「あ、いや疚しい思いはないんだけどな。一回も入った事ないから、興味があるというか」

基本的に、というよりは常に真昼が周の家を訪ねているので、逆に周が真昼の家を訪ねてみたいという欲求があった。

単純に真昼が住む部屋を見てみたい、という好奇心なのだが、男が女の子の部屋に入りたいなんて言えば下心を疑われるのでとても言えなかったのだ。

「別に構いませんけど……大したものないですよ?」

「興味本意だよ。恋人の部屋とか気にならない?」

「周くんのお部屋はよく見てますので」

「まあ真昼は起こしにきたり部屋でうたた寝するからな」

真昼が周の部屋に入る機会は割とある。朝起こしにくる事もあれば、周が居ない時にたまに入ってうたた寝をする事もある。

周が買い物から帰って来て着替えようと部屋を見たらすやすやと真昼が寝ているので、非常に狼狽した覚えがあった。

入ってもいいと言ってはいるし別に見られてまずいものは一応ないので平気ではあるが、彼女が無防備に自分のベッドで寝ている所を見てしまった彼氏の気持ちを考えてほしかった。

「だ、だって……周くんの匂い、落ち着きますし……」

「俺は落ち着かないんだけど。自分の部屋、それもベッドで彼女が寝てたら普通襲うぞ」

「……紳士ですよねえ」

「信頼に基づく油断は嬉しいけど、俺の理性が死ぬので控えてくれ」

「すみません」

「……次やったら寝顔撮影会するからな」

「そ、それはいやです」

「じゃあ気を付けてくれ」

寝顔を見られる事には抵抗があまりないらしいが、それを撮られるのは嫌らしい真昼の気持ちはよく分からない。

「寝るのは、極力お泊まりの時だけにしておきますね」

「……おう」

恥じらいつつも嬉しそうに呟いた真昼に、そういえば日にちは決めていないがお泊まりする約束をしたな、と思い出して一気に熱が頬にのぼる。

こんな調子で真昼を隣に寝かせる事になったら、理性が危うい気がする。くっつかれてはにかまれたら、手出ししない自信がなかった。

「……寝間着は分厚いやつで頼むぞ」

「暑いんですけど……」

「俺が困るんだ」

「……ひらひらの、嫌です?」

「何されてもいいなら着てくるのは好きにしてくれ」

暗に着てきたら何かするぞ、という意味を込めて返すと、真昼はこちらをじいっと見上げた後、ゆっくりと微笑みを形作る。

「周くんが望むのであれば、何されてもいいですけど」

「……そ、そうか」

「何かしますか?」

「……くそう、その信頼に基づいた発言に何も出来なくなる自分が悔しい」

こてん、とあどけなさが強い表情で首を傾げられては、何も出来ない。元々何もするつもりはなかったのだが、妙に悔しいというかしてやられたような気がする。

「……そもそも、警告してくる時点でする気なかったですよね」

「うるさい」

「ふふ。今日は私の勝ちです」

いつもしてやられていたので、と悪戯っぽく笑った真昼に「可愛いなあちくしょう」と恨み言未満の誉め言葉を送り、勝者に軽く口付ける。

これだけで顔を真っ赤にして言葉を失うので、勝利をうやむやにしてしまえるのだから可愛いものである。

「……ずるいです、そういうの」

「知らない」

「結局いつも私が負けるじゃないですか……」

「そんな事ないぞ。基本的には真昼に首ったけで負けてるので許してくれ」

真昼はいつも負けているというがそんな事はない。常に真昼の可愛さにやられている身としては、たまにの勝利くらい譲ってほしいものである。

首ったけ、という単語に「それなら仕方ないですね……」と頬を赤らめて瞳を伏せた真昼に、それで納得してくれるんだと小さく笑う。

その笑みが微笑ましさからくるものだと感付かれない内に、真昼を抱き締めて顔を自分の胸に押し付けておいた。

真昼はそれで幸せなのか、もぞりと少し体勢は変えたがちょうどいいポジションが見付かったのか周に体ごと預けてくる。

信頼しているからこそこうして甘えてきてくれるのは分かっているので、先程とはまた違った微笑ましさに口許が緩んだ。

「……甘えんぼだなあ」

「周くんが甘えていいと言ったのです」

「そうだな。幾らでも甘えてくれ」

「それだと私が駄目人間にされてしまうのですけど……」

「俺が駄目人間にされてるんだから、俺もする」

「そこはやり返さなくていいのです」

もう、と顔を上げてほんのり不服そうにしている真昼に、今度は優しく、そして軽く額にキスすると、ぽっと音を立てそうな勢いで顔を赤らめる。

「……それで誤魔化せると思ってる気がします」

「嫌か?」

「嫌ではないですが……むむ」

ずるいです、と小さく呟いてぐりぐりと胸板を額で押してくる真昼にまた笑って、少しぼさっとしてしまった髪を指で丁寧に整える。

手櫛ですぐに髪型が戻るさらさらつやつやのストレートヘアーは非常に触り心地がよくて、髪を直してからもついつい触ってしまう。真昼が嫌がってないしむしろご機嫌になっているので、やめはしないが。

猫を膝の上で可愛がってるみたいだなあ、なんて思いつつ撫でていると、真昼もすっかり落ち着いているのかすりすりと周の体に顔を寄せている。

「……幸せですね。こうして、周くんのご実家でゆっくりして、穏やかに過ごすの」

「それならよかった。うちに来て楽しいか不安だったからな」

「ふふ、帰るのが名残惜しいくらいですよ」

来る前は真昼が我が家に馴染めなくて居心地が悪かったらどうしようかと思っていたのだが、杞憂だったようだ。

「すっかり真昼も我が家に馴染んだよなあ」

「志保子さんと修斗さんがよくしてくださったお陰ですよ」

「母さん達は俺より真昼可愛がってるからな」

「拗ねてます?」

「拗ねてません」

別に志保子や修斗が真昼に構うのは分かりきっていたし、真昼が周と一緒に居ようとしてくれるのでもう拗ねたりはしない。

まあ少々両親がいずれの娘への期待と好感度が高すぎる気がするが、待望していた存在なので気持ちも分からないでもなかった。

「ふふ、そうですか。拗ねてたらぎゅっとしてたんですけど」

「拗ねてなきゃしてくれないのか」

「いいえ、周くんならいつでも」

「じゃあお言葉に甘えても?」

「どうぞ」

一度周にもたれるのをやめて周に向かって腕を広げた真昼に、どうしたものかと唇を閉ざす。

恐らく飛び込んでおいでという事なのだろうが、ただでさえ真昼は出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ、それでいて均整の取れた体つきをしているというのに、今はオフショルダーのワンピースを身に付けている。

顔を埋めたら多分幸せにはなれるだろうが、色々と揺らぐものが出てくるだろう。

しかし、別に彼氏なんだからこれくらい……と囁いてくる悪魔が自分の中に居た。

何もしなければいい、堪能するくらい許される――そう揺さぶりをかけてくる欲求に、周は小さく呻く。

魅力的な誘惑に、周は抗いきれなかった。

真昼の背中に手を回し、晒されたデコルテに顔を埋める。

少し顔を下に移動させれば柔らかな隆起に突っ込む事になるだろう。さすがにそこまでは出来なかったが、綺麗な鎖骨やひっかかりのない滑らかな白い肌に唇を寄せ、彼女から香るほんのりと甘い匂いを堪能する。

真昼は少しくすぐったそうにしていたが、嫌がる様子は全くない。むしろ、嬉しそうに周に手を回して子供を可愛がるように抱き締めて撫でている。

「ふふ、周くんもあまえんぼさんです」

「うるさい」

「いいんですよ甘えてくれて。だめだめにしますから」

「もうなってる」

どろどろに溶かされている気がするし、逆にどろどろに溶かしている気もする。お互いに甘やかしてとろけさせていて、二人してお互いが居ないと駄目、という領域にまで至っているようにも思える。

まっさらなデコルテに軽く口づけつつ真昼を見上げれば、くすりと笑って周を抱き締めたまま楽しそうにしていた。

「周くんもこうしてみると小さく感じますよねえ。普段は大きくて頼もしく感じるんですけど」

「そうか? ……真昼は、小さくて細いな。簡単に包み込めるし」

「今は私に包み込まれてますけどね。……周くんに包まれるためにこうなったのかもしれませんよ?」

「じゃあ俺専用の真昼だな」

「はい。……周くんは、私のです」

「ん」

「ふふ」

嬉しそうに笑ってよしよしと撫でてくる真昼に、周はそろそろ限界だと少し腰の位置を高くして首筋に口付ける。

びくっ、と反応が早かったのは、それだけ首は弱いという事だろう。耳もそうだが、首も敏感らしい。

「ん……っ、痕とか付けないでくださいよ」

「つけないけど、キスはする」

「そ、それもこそばゆくて困るのですが……」

「嫌なら突き放してくれて結構だが」

「……いじわる」

それが出来ないのくらい知ってる癖に、なんて拗ねたような声が聞こえたが、本当に嫌なら拒む事を分かっていてしているので問題はない。

しばらく軽い口づけを肌にしていたら、真昼がそろそろやめてほしそうにべしべしと背中を叩くのでここまでにしておく。

内側から炙られたように頬を染めた真昼に睨まれたので、宥めるように抱き締めて頭を撫でた。

「……話はずれたけどさ、帰るの、嫌か?」

さすがにこれ以上べったりすると拗ねそうなので話を戻してみると、真昼は周の言葉にきょとんとしたあと、淡く微笑んだ。

「いえ、そんな事はないですけど……少し、寂しいですね」

「それならよかった」

「え?」

「それだけ居心地よかったって事だろ」

「そ、そうですけど」

「次にまた来ればいいさ。年末とか、来年の夏とか」

別に今回帰ったところで、また周は帰省する。元々夏と冬の長期休暇は顔を出せと言われていたし、真昼さえよければまた一緒に実家に帰ってもいい。

志保子や修斗も喜ぶし、周も長い間彼女と離れなくて済む。

「……また」

「嫌か?」

「そ、そんな事はないです」

「そっか。……ここ、実家みたいに思ってくれればいいから」

「……はい」

真昼には帰る場所がある、そう思ってくれたらなという願いも込めて囁けば、真昼はじわじわと滲む喜びを隠そうともせず甘い笑顔を浮かべて、周の肩に顔を埋めた。