軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

129 天使様と水辺

周が色々と自分を落ち着かせてから、真昼を伴ってプールに足を踏み入れる。

体格的には既に大人な周には腰の辺りのものなのだが、真昼にとってはみぞおちの辺りまであるので浅いとは言い切れず、微妙に不安そうな顔で周を見上げている。

「……真昼、溺れないから大丈夫だ」

「周くん、溺れる時は水深三十センチでも溺死するのです」

「あのなあ。……溺れさせないし、もし溺れたら人工呼吸でもしてやりますよ」

勇気づけるために茶化すように言ったのだが、真昼は周の腕にくっつきつつ見上げてくる。

瞳には、微妙に拗ねたような、それでいて期待するような色が滲んでいた。

「……溺れないとしてくれないのですか」

ほんのりと不満げな響きの呟きに思わず真昼を凝視する。

小さく唇に築かれた山は、不服と……ねだるようなものに見えてしまったのは、気のせいだろうか。

リップを塗らずとも艶を失わない薄紅の唇に思わずごくりと喉を鳴らしつつ、それでもここで理性をぽい捨てして甘い唇に噛みつく訳にも行かず視線を横にずらす。

「……も、もう少し待っていただきたいというか……その、ここでは無理だ」

「わ、私もここでして欲しいなんて言ってません。でも、その……周くん、したくないのかなって」

「し、したくないなんてある訳ないだろ!? いつだってしたい!」

好きな女の子にキスしたくない男なんて居ないだろう。比較的そういった欲求は薄い周ですら、真昼に沢山触りたいしキスも好きなだけしたいと思っている。

もちろん、段階を踏むべきではあるしいつも欲望を押し付けてたら引かれる自信があるので我慢しているが、したくないなんてのはあり得ない。

強く言い切って否定した周に、真昼は顔をこれでもかと赤くして、周の二の腕に額を押し付けて顔を隠す。

耳まで真っ赤になっている事で、自分が何を言ったのか自覚して周も顔が赤くなる。

「……ち、ちが、」

「……違うのですか」

「違わなくもないけど、その、……したら、俺が大変になるのでもう少し待ってください」

樹には奥手のへたれと罵られている周だが、今だけはそれも否定出来ない。

真昼からすれば周は焦れったすぎるのかもしれない。大切にしすぎて遅々とした歩みだから、真昼がずっと待っているのだろう。

(……真昼は、もっと進んでほしいのだろうか)

もっと、恋人らしい事をしたいのだろうか。

確かめるように真昼を見下ろすと、真っ赤な顔で半分ほど顔を隠した状態で上目遣いされる。

「……周くんの好きにしてください。でも、あんまり我慢させるの、よくないって千歳さんも言ってましたし……ほどほどに……」

「千歳ええええ」

「だ、だって、千歳さんは男女交際の先輩ですので……」

「絶対余計な事吹き込まれてるよなそれ!? い、いいか真昼、俺達は俺達なりのペースで進めばいいんだから。無理に早くしようとは思わないし、その、……真昼も、急きすぎてもあっぷあっぷになるだろうし」

恐らく、先に進みたいと思ってるのかもしれないが、あんまりに急ぎすぎると途中で真昼がいっぱいいっぱいになってゆだるので、ゆっくりペースでいいと思っている。

周としても、理性が飛んだら何をしでかすかわからないのでゆっくり進みたい。

真剣な瞳で訴えれば、真昼が瞳を恥ずかしそうに伏せて、二の腕におでこをもう一度ぶつけた。

「は、はい。その……お、泳ぎましょう、か」

「そ、そうだな……」

「……私、こういうところ初めてくるので、周くんが全部教えて下さい」

今まで誰かとでかける事なんて滅多になかったので、という呟きに、真昼の手を取って浅いプールの中を歩く。

家庭環境的にレジャー施設に連れていってもらう事なんてなかったのだろう、と察して物悲しくなったが、それも今後ゆっくりと体験していけばいい。

「じゃあ、この夏休みで真昼の初めてを全部埋めていこうか」

「……そ、そういう言い方されると恥ずかしいですけど……はい」

顔を赤く染めつつも嬉しそうな笑みを浮かべた真昼に周も笑って、もう少し人の少なそうな場所まで彼女の手を引いて歩いた。