軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

123 天使様と肌色の慣れ

結局のところ、真昼はどんな水着を買ったのかは教えてくれなかった。悪戯っぽく「着る時のお楽しみです」と言われてはぐらかされた。

一応千歳には釘を刺しておいたのだが、千歳がそれを聞き入れるかどうかが怪しい。むしろ嬉々として真昼に「周が喜ぶから」と言って露出が高い水着を勧めていそうだ。

「頼むから派手なやつはやめてくれよ」

呟いた言葉は、浴室に反響して周の耳に収まるだけ。

食後の後片付けを名乗り出た真昼に片付けを任せて汗を流すためにも風呂に入っているが、水着の事が気になって仕方ない。

周も男子高校生なのでやはり彼女がどんな水着を着るのか、というのは妄想してしまう。

ほっそりとした体を惜しげもなくさらした姿は、確実に魅力的だろう。真昼は元々起伏が豊かな体つきなので、ビキニなんてものを身に付けられでもしたら確実に直視出来ない。

想像しただけで心臓がうるさくなるし、体が火照ってくる。湯船に浸かっているせいもあるが、それとは別に熱くなっていた。

(……なんでも似合うだろうが、見るの躊躇うし隣に並べるのか俺)

見る権利はあるだろうし隣に居る権利もあるが、真昼の隣に並ぶと色々と霞みそうである。

ちらりと自分の体を見てみるが、筋肉ががっつりとついている訳ではない。

というかあまり筋肉がつかない体質なのか、鍛えてもあまり筋肉が太くならないのだ。

なので服を着れば痩せ型の男に見られるし、実際あまり肉がつかないので痩せている。頼り甲斐がある、風格のある男、というのにはどう考えても当てはまらないだろう。

もう少しがっしりとした体つきならよかったのに、とは思うものの、両親が細身なのでこれは遺伝だろうしどうしようもない。

「あー……意地でも鍛えておくべきだった」

後悔しても遅いだろう。

すぐに筋肉がつく訳ではないし、目に見えてくるには時間が必要だ。七月に入った今から注力しても、真昼と泳ぎに行くであろう夏休みに目に見えた成果を出せるとは思わない。

そっとため息をついて、湯に顔を半分ほど浸けた。

水着姿を妄想したり隣に並んだ自分を想像して悩んだりしていたら温まり過ぎた。

いつもは湯船に浸かるのは十分程度なのに、三十分以上浸かってしまったので懊悩もよく分かるだろう。

いつもの倍近く風呂に時間を割いてしまったので、二十二時も半ばだ。風呂に備え付けている防水時計で確認したので間違いない。

真昼は基本的には二十二時には自宅に戻っているので、もう帰宅している筈だ。

まあ帰ってて当然だろう、と結論付けて、体から滴る水を拭き取りさっさと服を着ていく。

浸かりすぎて体が熱いので上は着ずにクーラーで冷やしてもらう事にする。

スウェットの下と頭にかけたタオルだけという親に見られれば「だらしない」か「お腹壊すわよ」と言われそうな格好で脱衣所を出てリビングに戻る。

なんかいい番組でもやってるか、とテレビの方を見ながらリビングにたどり着いたところで、見慣れた亜麻色の髪がソファーの背もたれにかかっていたのが見えた。

(まだ帰ってなかったのか)

普段ならこの場には居ないのだが、珍しく残っていたようだ。

やや俯きがちで、何やら手元を見ながら腕を動かしている。おそらく家でやる筈の勉強をしていたのだろう。

努力家なのは相変わらずで、感心しつつ真昼に近寄る。

「珍しいな、こんな時間まで居るの」

テーブルの上に置いてあったリモコンを拾って番組を変えつつ声をかければ、集中していたらしい真昼が周に気付いて顔を上げて、それから固まった。

「はっ、え、え……」

「何だよ」

「……っな、何で、上着てないんですか……っ」

夏場の風呂上がりではやりがちな格好で別に周としてはおかしいところはないのだが、真昼は分かりやすくうろたえて顔を掌で覆っている。

指の隙間からは赤く染まった肌が見えた。

「何でって、そりゃ暑いから」

「わ、私が居るのにそういう格好しないでください」

「いやお前帰ったとばかり……もう二十二時半だぞ」

「周くんに一言言って帰ろうと思ったんですっ」

だから残っていたのか、と納得しつつ、真昼の隣に座る。

途端にびくりと肩が跳ねていたので、つい笑ってしまった。

「……そんなに恥ずかしいか?」

「恥ずかしいに決まってます!」

「でも、水着買ったなら俺の水着姿見るつもりあったんだよな? 水着より露出少ないと思うけど、これでも駄目なんだ?」

「う……」

真昼は周と泳ぎに行くつもりで水着を買うと言い出したのだ。

なら、周が水着になるのも頭には入っていた筈だ。泳ぐのだから当然だろう。

つまり半裸は見る前提という事で、見るつもりもある。

それなのに、周の半裸にこれでもかと狼狽えているのだから、実際プールに行けるのか不安になってきた。

周に照れるなら周囲の男の水着に耐えられるのか、という問題がある。

恋人ではない状態でも半裸に照れていたし、男の肌そのものを見る事に抵抗があるという事だろう。プールや海に行けるか危うい。

「……水着買ったのはいいけどプールに行けないなんてあり得るぞお前」

「そ、それは仰る通りですけど」

「なら今のうちに慣れたらどうだ?」

今なら露出は水着より少ない方だし慣れておくチャンスなのだが、真昼はぶんぶんと首を振っている。

「む、無理です。今の周くんじゃ無理です」

「何で」

「……あ、周くん、なんか、やけに色っぽいですし」

「色っぽい?」

「お風呂上がりでとても駄目なんです」

先程から目を合わせない理由は、肌色だけではなかったらしい。

色っぽいとか言われても周としては色気も男気も薄いと自負しているのだが、真昼にとってはそうではないらしい。

確かに湯上がりの真昼はとんでもない色気があるし、好きな人の湯上がり姿は余計にそう見えるのだろう。

ただ、その一言で止まってやるつもりはなかった。

「じゃあ、今抱き締めたいって言ったら、嫌か」

「え……」

「真昼をもっと直に感じたいって言ったら、嫌か?」

別に真昼に脱いでほしいとかそういう事を言うつもりはないが、やはり好きな女の子とは隔てるものをなくして触れ合いたいという気持ちがある。

もちろん嫌がられるならすぐに引くが、もし許してもらえるなら、真昼を腕に収めたい。確実に真っ赤な顔で震えるとは思うが、それすら愛でてやりたいという気持ちがあった。

「そ、それセクハラでは」

「じゃあやめとく。嫌がられてまでしたくないし」

「……い、嫌じゃ、ないです、けど……その、……へ、変な事、しませんか……?」

「俺が真昼の望まない事すると思うか?」

基本的に真昼が嫌がったり泣いたりしたら罪悪感で死にそうになるので、無体なんてまず出来ない。双方合意の上であれこれしたいのであって、無理強いは望むところではない。

今日はただ真昼の慣らしも兼ねて抱き締めたいだけで、それ以上進むつもりはなかった。

真昼をまっすぐに見つめて真摯に答えると、視線をさまよわせていた真昼が恐る恐るこちらを見て、やはり顔を赤らめる。

しかし、拒む気配は見えない。

「……そ、その……あの、……お、お手柔らかに……」

か細い声で呟いて、真昼はおずおずと手を伸ばす。

それを受け入れるように腕を広げて真昼を包み込むと、分かりやすく真昼の体が震えて腕の中で縮こまるのが分かる。

顔をどこにやればいいのか悩んでいるのか、体から離していたが、躊躇いがちに周の平たい胸板に頬を寄せた。

「思ったよりすべすべです」

「思ったよりって」

「……あと、思ったよりどきどきしてます……」

胸に顔をくっつけているから、周の心臓の音もよく聞こえるのだろう。

「俺が余裕そうに見えたのか」

「……はい」

「余裕なんてある訳ないだろ。その、真昼が初めての彼女だし、こんな格好で抱き締めた事なんてある訳ないし」

真昼も周も、男女交際は初めてで、勿論こんな風に触れ合った事など一度もない。

こうして抱き締めているだけで、体がまたほてり出すくらいに恥ずかしいし、嬉しくもある。

くっついているのに鼓動は隠せる訳もない。

「……周くんも、男の人なんですね」

「何だと思ってたんだ」

「お、思ってなかった訳じゃ、ないですよ。ま、前に注意されましたし……」

前に、というのは、定期考査のご褒美であった膝枕の翌日にあった事だろう。

油断しきっていた真昼を注意するために押し倒した時これでもかと顔を真っ赤にしていたし、男としてしっかり意識してもらった。

男である事を忘れたのかと心配したのだが、ちゃんと覚えているようで胸から顔を上げて真っ赤な顔で続ける。

「……周くんは、細いから……」

「細くて悪かったな。頼りないだろ」

「そんな事ないです。その、お、思ったより、硬くて、しっかりしてて、びっくりしました……」

真昼は指先でゆっくりと体の中心をなぞるように触れる。

いかにもといった筋肉の盛り上がりはあまりないが、起伏がない訳でもない。指先がぱっきり割れそうで割れない腹筋をなぞっていく。

「私、男の人の体なんて触った事ないから、新鮮ですし、びっくりして……」

「……いくらでも触っていいけど、あんまり触りすぎると今度は俺が真昼を触るぞ?」

茶化すように真昼の腰を軽く叩いてみると、びくっと体を震わせてた。

流石に調子にのったかと反省したのだが、真昼は嫌がってはいない。ただ、掌で顔を覆っている。

「そ、その、……ま、また、日を改めて、ちょっと、だけ、なら」

「……え、」

「……や、じゃ、ないですよ」

かなり恥ずかしかったのか、小さな声で囁いてちらりと周を見たあとにまた掌で全部隠した真昼に、周は耐えきれず呻いて真昼を強く抱き締めた。