軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

119 天使様と帰路

今日はやけに一日が長く感じたのは、おそらく視線を浴び続けていた事によるものだろう。

故意に見せつけていたとはいえ、やはり多くの視線をもらうのは精神的に疲れるし、視線の中にはどうしてもよくないものがあるので、神経がすり減るのだ。

それでも全員が全員悪感情を抱いているという訳ではなく、中には単純な好奇心や応援するような眼差しももらっている。

後者は女子が多く、それだけ真昼の色々な意味での人気ぶりが窺えた。

「真昼、帰るぞ」

様々な質の視線を浴びるのも、ひとまず今日はおしまいになる。

ようやく一日の授業を終えた周は、帰宅の用意をしていた真昼に声をかける。

相変わらず帰宅部である周と真昼だが、真昼は特定の部に入ると面倒が起きるし下手したら部員が偏るという事で無所属らしい。

自分の影響力をよく理解しているからこその選択だろうが、そうしないとならなかったという事実が少し周には悲しかった。

本人としては気にしていないらしく、逆に「部活に入っていなかったからこそ周くんに出会えたので……」といじらしい事を言われてしまい、周が照れる羽目になっていた。

「はい。お待たせしました」

荷物をまとめた真昼が柔らかい笑みを浮かべるので、周も自然と表情が柔らかくなる。

以前は互いに別々に帰らざるを得なかったが、今はもう二人で並んで歩けるという事が嬉しかった。

「先に帰るけどいいか?」

机の上に置いていた真昼の鞄を手に取りつつ、側に居た樹に声をかける。門脇はそもそも部活があるので既に教室からは姿を消している。

「ん、まあ新婚さんのお邪魔をするのは心苦しいし二人でお熱く帰りなされ」

「新婚じゃねえよばか」

「いや熟年なのは知ってるけど」

「そういう意味じゃねえ」

何言ってくれてるんだ、と睨むものの、樹が意に介した様子はない。

むしろ愉快そうにしていて、周の鋭い視線にもへらりといつもの軽薄そうな笑みを浮かべている。

「どこをどう見てもなあ。ちぃもそう思わないか」

「同感でーす」

「やかましい。バカップルが言えた義理か」

「よう二代目バカップル、元祖だから言ってやるよバカップルめ」

「この野郎」

「ま、まあまあ周くんも落ち着いて」

一発デコピンでも入れてやろうかと思っていたが、真昼が仲裁に入ったので諦めておく。

「赤澤さんもあまり周くんをからかわないでください」

「真昼……」

「周くんは素直ではないのでからかわれると拗ねちゃいますよ。ほどほどにしてください」

「真昼、お前もか」

「冗談ですよ」

真昼にまでからかわれて周としては複雑なものの、真昼が学校で素の笑みで楽しそうに笑うのだから、止められない。

いつも型にはめた誰もが褒め称えるような美しい笑みを浮かべるばかりで、彼女本来の笑みは押し込められていたのだ。今の伸び伸びとした笑顔や態度を咎められる筈がない。

それはそれとして、からかいに報いなければ気がすまないので帰ったら真昼を構い倒すつもりである。

「ほら周くん、帰りましょうか」

何かを察したらしい真昼がやや慌てたように促すので、周は「そうだな」と笑って真昼の手をとった。

「私、関係を公にしてよかったなと思ったのは、こうして一緒にお買い物出来ることなんですよね」

スーパーで本日の夕食の材料を選びながら、真昼はしみじみと呟いた。

スーパーはあまり学生の恋人同士が並んで行く場所ではないのだが、特にデートをする予定もなかったし夕食の支度もあるので二人でやって来ていた。

「まあ前は流石に一緒にはあまり行けなかったからな」

「はい。これからは一緒に買い物したり堂々と出来ますね」

「そうだな。なんならその場で献立相談とかも出来るし」

「はい」

基本的には事前に献立は相談しているのだが、これからは急に食べたくなった料理があってもその都度相談出来るようになる。

本来今日は和食で揃えようとしていたのだが、周が学食の日替わり定食を見て唐揚げが食べたいと言ってしまい、真昼がそれを叶えてくれる事になったのだ。

周が抱えるかごに吟味した鶏もも肉を入れている真昼は「お肉が続くので明日はお魚の献立がいいですね」と明日の夕食を考えているようだ。

「明日は何がいいですか?」

「なんでもいい……って言うと困るよな? そうだな、鯵が食べたいかな」

「旬ですから丁度いいですかね。じゃあ鯵の南蛮漬けにします。酸っぱさ控えめですよね?」

「ん」

よく分かっていらっしゃる、と笑うと「半年以上ご飯作り続けてますので」とはにかみが帰って来た。

確かに半年は真昼とご飯を共にしているので、好みも分かってくるものだろう。関わりだしてから半年強という事にもなるが、本当にこの半年で色々な事があったと感慨深くなってしまう。

「……半年で付き合ったってすげえな」

「私からしてみれば長かったですよ? 周くん、鈍いし気付いてるようで見ない振りしてましたし」

「うっ。……ごめんって」

「ふふ、いじめるつもりはなかったんですよ。……今私を好きになってくれてるって分かりますから、いいです」

悪戯っぽく笑う真昼に少し居心地が悪かったが、そもそも周がふんぎりがつかなかったのが悪いので、全面的に非を認めるしかない。

「その、これからは愛情表現はしっかりします」

「ありがとうございます、私もちゃんとしますよ」

「……真昼はあんまりすると俺が辛くなるのでほどほどにしてくれ」

「辛くなる?」

「……狼にさせないでくれ」

真昼に甘えられ続けると理性が仕事をしなくなりそうなので、ほどほどのところでやめてほしいものである。

意味を理解したらしい真昼がぽふっと音を立てそうな勢いで顔を赤らめ「き、気を付けます……」と消え入りそうな声で返すので、周は何とか顔が赤くなるのを食い止めつつ「おう」と頷いたのだった。