軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

113 天使様の声でお目覚めの朝

「周くん、起きてください」

自分を呼ぶ優しい声がする。

囁くような柔らかい声に心地よいまどろみの中「ん」と小さく返事をして、重たい瞼を持ち上げゆっくりと目を開ける。

眠たさからか滲んだ視界に、窓から差し込む陽光に淡く照らされた愛しの少女が写っていた。

ベッドに片膝をついて周を揺すっていたのか、前屈みの体勢で藤のように亜麻色の髪が流れ、揺らいでいる。

「……真昼?」

「はい。おはようございます」

確認のために名前を呼んでみれば、聞きなれた声で頷かれた。

どうやら自分が寝ぼけている訳ではなく、現実に真昼が居るという事で頭が軽く混乱していたものの、真昼があまりにも当たり前のように周の部屋に居るため、つられるように混乱も引いていく。

「……おはよう。なんで真昼が?」

「昨日話した事、覚えてないのですか」

む、と微妙に眉を寄せた真昼に「昨日」と返して、それから遅れて昨日のやり取りを思い出した。

「月曜日から一緒に学校に行ってもいいですか?」

日曜日、別れ際に真昼がそう切り出した。

どこかもじもじと落ち着かない様子で不安げに見上げられて、周も微妙に落ち着かなくなる。

真昼が恐る恐る言ったのは、周が交際関係を隠すか否かというものを確認するためだろう。

一応話し合いとして、公にする事に決めていたのだが、不安になったらしい。

周としてはもうあんな公開告白まがいの事があったので隠し通せるとは思っていなかったし、いっそ開き直って付き合う事になったと言ってしまうつもりだった。

「ああ、いいぞ」

「ほ、ほんとですか?」

「嘘ついてどうするんだよ」

周の承諾に、真昼の瞳に混じっていた不安げな色は払拭され、歓喜の色が宿る。

小さく「ずっと一緒に学校に行きたかったんです」とはにかみと共に囁かれた言葉にこちらの心臓が跳ねてしまったが、彼女は気付いた様子はなく、明るい表情を浮かべていた。

「じゃあ朝周くんのおうちに行きますね。ついでに一緒に朝ごはん食べればいいですし」

「お、朝から出来立ての真昼のご飯食べられるのはラッキーだな」

「お弁当の残りですからね。……周くんのお弁当も、作っていいですか」

「それは願ったり叶ったりだな」

朝ご飯を作ってもらえるというだけでも幸せなのに、昼も真昼の料理を食べられるのだから喜ばずにはいられないだろう。

真昼ももう他人に遠慮する事をしなくていいと晴れやかな表情で、見ているこちらが嬉しくなるし、同時にくすぐったいというか気恥ずかしさも覚えた。

(明日からは、一緒に行くんだな)

今までは、真昼との関係を匂わせないために、時間をずらして登校していた。

これからは、もうその必要がなくなるのだ。

学校で交際を公にするのはやっかみも飛んでくるであろうしやはり不安もあるが、何より真昼が喜んでいるし、彼女の側に居られる事は嬉しかった。

嬉しそうに笑う真昼を眺めて「俺も明日から頑張らないとな」と小さく呟いた。

「……あー」

寝起きの頭がようやく覚醒し始めたのか昨日の事を思い出して、周は小さく呻いた。

嫌とかではなく、単純に寝起きに真昼の顔はいささか心臓に悪かったので起こしてもらうのは考えものだよな、という理由だ。

真昼は周の様子を見て呆れた様子を見せている。

それは本気というよりは仕方ないなといった微笑ましそうなものなので、周としては申し訳ないやら恥ずかしいやらで唇の辺りがもにょもにょと力がこもってしまう。

「全くもう、忘れんぼさんなんですから。……ほら、着替えて顔洗ってくださいね」

「あいよ」

真昼はその間にご飯の支度をするのだろう。

欠伸を噛み殺しつつベッドから体を起こして着ていたシャツを脱ぐと「ひゃあっ!?」と裏返った声がすぐ側から聞こえた。

脱いだシャツをベッドに一度置きつつ真昼の方を見れば、真昼は固く目を閉じてぷるぷると震えている。頬はみるみる内に染まっていった。

「で、ですから、前にも言いましたけど私が居る所で脱がないでくださいっ」

目の前で脱いだからか動揺も露な真昼に、周としてはやはり苦笑するしかない。

「別に男だし見られても困るものじゃない」

「私が困ります……」

「見せたい訳ではないし見慣れろとは言わんが、夏場プールとか行けなくなるぞ」

あまり異性の体に免疫がないらしい真昼に、中学生の夏場はどうしていたんだ……と思ったが、彼女はそもそも泳げないらしく下手したら何かしら理由をつけて休んでいたのだろうか。

性格的には真面目な真昼がさぼるというのは想像つかなかったが、全く泳げないから水泳が必修科目でない高校を選んだほどらしいので、もしかしたらあるのかもしれない。

夏にプールに行くかもしれないという曖昧な約束をしているので、あまり意識され過ぎても困るし、そもそもプールだとその辺の男が半裸で居るので彼女が耐えられるかも分からなくなってきた。

「う。……ぜ、善処します……」

真昼もそれは自覚しているのかか細い声で呻くように返事した後、恐る恐る瞳を開けて周の体を視界に映している。

微妙に半泣き気味の真っ赤な顔で震えながら周の上半身を見た真昼は「うぅ」とやはり呻いた。

正直、周の胴体は色っぽさとかそういったものを滲ませられるほど鍛えられてはいない。

二年生に入ってからは普段している体をなまらせないための運動に加えて門脇オススメの筋トレをしているので、細いだけのもやしと言われるような体型ではないが……ムキムキという訳でもない。顔を背けたくなるほどのものではない筈だ。

(……これ、慣れてもらわないと、もしもの時に困りそうな)

真昼と深い関係になるのはずっと先の事だろうが、もしその時まで免疫がつかなかったら色々と滞りそうな気もする。

ただ、周も周で真昼の体を見たら動きが止まりそうな自信もあるのである意味お互い様かもしれない。

「……あー、その、何だ。……先にご飯作っててくれ」

あらぬ事を想像してしまってこちらも顔が赤くなってきてしまったため、同じ顔の赤い真昼にそう声をかければ「じゃあお言葉に甘えてっ」と脱兎のごとく逃げていく。

その背中がドアの向こうに消えてから、周は近くの壁に一度頭を打ち付けて「朝っぱらから何考えてるんだ」と小さく呻いた。