軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

112 恋人とは

真昼と交際を始めた翌日、周はいつものようにやって来て隣で過ごしている真昼を眺めながら悩んでいた。

体育祭の翌日は休日なので真昼がくるのは日常だ。付き合う前からも頻繁にこの家を訪れていたし、特に変わりはない。当たり前の光景だ。

隣に座る真昼も隣に居るのが当たり前の様子で、周の家にある参考書を眺めている。

そう、あくまで普段通りだった。

(……よくよく考えてみれば、付き合った後って何すればいいんだ)

周は交際経験ゼロ、真昼が初めての恋人になる。

それは真昼も同様なのだが、やはり同じ経験値といえど男性側がリードしたいと思うのは仕方ないだろう。

ただ、リードするも何も知識がなかった。

昔の事もありあまり他人に興味を抱いてこなかったし、男にしては比較的薄い欲求のせいで女子と交際を夢見る事もなかった。

悲しい事に、周の意欲は勉学面と趣味に注がれてきたのだが、肝心な知識に欠けていた。

ギャルゲーというものに手を出していたらまだ交際について分かったのかもしれないが、生憎そういう趣味ではなかったので知識が身に付いていない。

周の乏しい知識では、付き合った男女は手を繋いだりデートしたりキスしたり、仲が深まれば体を重ねたりといった事をする、くらいの知識だ。

手を繋ぐ事とデートはともかく、いきなりキスしたりそういう行為に持ち込むのはあり得ない。

ではデートすればいいのでは、という事になるが、それだけで付き合うという事ではないだろう。

真昼を喜ばせたいし一緒に幸せになりたい周としては、致命的なまでに知識が身に付いていない事に軽い絶望を覚えていた。

樹や門脇なら、如才なくリード出来たのだろう。

周には色々とないものを持つ二人が、今はとても羨ましかった。

「何かお悩みで?」

脳内で自分にダメ出しをしている周に、真昼が気付いたらしく声をかけてくる。

「あーいや、うん、まあ」

「私でよければ相談に乗りますよ?」

何に悩んでいるか全く知らない真昼がにこやかに胸に手を当てて「任せてください」と自信がある様子を見せている。

彼女は彼女で周との交際が初めてなので聞くのも悪い気がしたが、初めて同士で相談するのがよいのかもしれない。一人で悩むよりは二人で話し合った方がいいだろう。

「……なあ真昼」

「はい」

「あのさ、俺達、その……付き合い始めた訳だけど」

「はい」

「……付き合うって、具体的になにすればいいんだ」

「え?」

我ながら馬鹿な質問をしているとは自覚していたものの、こっちとしては真剣だった。

「い、いや、付き合うのとか初めてだし……少女漫画とか恋愛小説とか読まないからさ。あんま、具体的にどうこうするってのが分からないというか」

「……そ、そういえば」

やはり真昼も異性に縁のない、真昼の場合正しくは異性に興味を抱かない日々を過ごしてきたらしく、周の悩みにやや困ったような表情を浮かべていた。

「何か思い当たる事はあるか?」

「……手を繋ぐとか?」

「普段からしてるな」

「お休みを一緒に過ごすとか」

「日常だな」

「おでかけするとか」

「まあやってるな」

「ぎゅっとするとか」

「やってる」

残念ながら真昼も同じくらいの知識しかなかったらしく、挙げたものはそもそも経験済みのものだった。

恋人らしい事、と言われても急には思い付かないだろうし、仕方ないだろう。

恋人って具体的にどうすれば……とため息をついた周に、真昼がおずおずと周の服の裾を引っ張る。

どうかしたのかと改めて真昼を見ると、何故かほんのりと顔を赤らめていた。

「……その、言いにくいというか、言うのが恥ずかしいのですけど……つ、付き合ってなかっただけで、普段から恋人同士みたいな事してたのでは……?」

真昼の言葉に、沈黙が訪れる。

(……言われてみれば、いや、言われなくてもそうだよな……!?)

ナチュラルに同じ空間で過ごしたり手を繋いだりお出掛けしたりしていたから気付かなかったが、そういったものは普通親しい男女がするものなのだ。

いや最初は分かっていたのだろうがあまりにも日常になりすぎていて意識していなかったのだろう。

「わ、私も、周くんに振り向いてほしくて一生懸命頑張ってましたけど……よ、よく考えれば、恋人がする事、でしたよね、と」

「……そ、そう言われれば……」

「ですから、変に恋人って意識するより、いつもみたいに……その、触れ合ったり、一緒に過ごしてるだけでも、いいかなって。それに、無理に形に合わせなくても、私達は私達なりに……その、付き合っていけば、いいのでは……?」

自分達なりに、という言葉が、胸にストンと落ちた。

(……別に、枠に囚われなくてもいいのか)

恋人の振る舞いとは何かと焦っていたが、別に焦る必要はないのだ。真昼は周の事が好きだし、周は真昼の事が好きで、付き合っている。その事実だけあればいい。

背伸びなんてせずに、二人でゆっくりと互いの理解を深めていけばいい、それだけの事だったのだ。

「そうだな。ごめんな、何か……余裕とか全然なくて。初めてだから、どうしていいのか分からなかったんだ」

「……はい」

「……その、なんだ。……いつも通りだけどさ……これからは、その、好きって気持ちは込めるから」

真昼の掌を包むように握ると、元々赤らんでいた真昼の頬が赤みを増した。

恥じらうように瞳を伏せて、それでも周の掌を握り返して周の二の腕にもたれる。

「周くん」

「……ん」

「……これだけで、幸せですよ」

「そうだな」

か細く囁かれた声に同意して、側にある温もりを静かに堪能した。