軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48.検証と実証 ①

貴族教育も本格的に始まり、少し淑女らしくなったんじゃないかとちょっとだけ思っているマリーナです。

パオロ様とカルロが自領に戻ってから3ヶ月が経っており、『薬食同源』の考え方や、バランスの良い食事で病気になりにくい身体を作ることの普及に忙しい毎日を過ごしていますの。

(語尾が「の」で終わるだけで淑女っぽいわ~と思っている時点で、淑女には程遠いと気付いていないのはマリーナだけ…。)

◇◇◇

ラオ便での情報共有のお陰で、バイエルン・アイヒベルク・フェレーリ各家のプロジェクト進行における情報密度は、遜色ないレベルで維持出来ているので、4ヶ月に一度予定していた定例会はしなくても良くなった。

みんなの顔が見られないことは残念だけど、お互いの近況はラオ便で頻繁にやり取りしているし、今までよりも密な関係を築けているような気がするわ。

私は、カルロやフラン従姉様とよくお手紙のやり取りをするのだけど、2人とも凄いの!!

カルロは新しい言語や知識をスポンジのように吸収しているし、フラン従姉様はお母様達が出版した本のお陰?で、ツンデレへの理解者と愛好者が増えて、過ごしやすくなったけど気持ちは複雑だわ…という複雑な心境を語るお手紙をくれたわ。

(お母様達が『ツンデレ』で盛り上がっていたのは知っていたけど、本の出版までしていたなんてね…。しかもフラン従姉様がモデルになっているらしく、タイトルが『強気な猫目令嬢は甘くない!?』ですって。フラン従姉様はハニーブラウンの髪に蜂蜜色の瞳の猫目だし、分かる人には分かりそうよね。しかもお相手役がちょっとヴォルフ兄様っぽいのは気のせいかな~と密かに嬉しくなったのだった)

こうして、輸送時の事故や紛失などのリスクなしに、この時代としてはほぼタイムラグが無い(数日のラグはゼロに等しい)状態を維持出来ているので、集まって話すより自分たちの移動に時間が掛からない分、時間的にもコスト的にも大変助かっているのよ。

そんな時間を過ごしていたマリーナ達だったが、とうとう南大陸へ向かった商船が戻ってきたとの一報が入った。

◇◇◇

お父様とギル兄様、私の3人で港に着いた我が家の商船へと確認に向かった。

既に、商船からは荷下ろしが始まっており、作業をしている船員達を見る限りでは元気そうに見える。

「父様、みな表面的にはいつもより健康そうに見えますね。いつもは長期の航海明けは体調が悪い者が多い印象でしたが、いま見える限りでは元気そうです。」

ギル兄様も同じように感じていたようで、作業をしている船員達を見てそう言った。

「そうだな、いつもならもっと痩せていたり、顔色の良くない者も多いはずだが、少なくともいま作業をしている者達の様子は問題無さそうだ。」

ギル兄様の言葉を聞いたお父様も、ご自身が知る長期航海から戻った時の様子と比較して、状態は良さそうだと感じているらしい。

「さて、とりあえず船長と船医の話を聞いてみようか。」

◇◇◇

船長室に通され、そこで船長と船医の話を聞くことになった。

私たちが船長室に入ると、すでに船長と船医は先に部屋で座って待っていたが、すぐに立ち上がってお父様とハグをしながら挨拶を交わした。

「よく戻ったな。少し長かったようだが…まあ、お前のことだ。心配はしていなかったよ。」

そう、南大陸の今回取引をする国までは、通常なら片道で1ヶ月半~2ヶ月、往復で4ヶ月くらいの航海だが、今回は4ヶ月半ほど掛かっていて、少し心配していたんだよね。

でも、航海では天候や様々な理由で遅れが出ることは珍しい事ではないし、この船の船長さんはお父様とも何度も航海を共にした戦友のような方なので、お父様はあまり心配していなかったみたいね。

「ええ。途中で酷い嵐で1週間ほど足止めされたほか、現地での不作などの影響で補給物資が集まらず、数日出港が遅れるといったトラブルはあったものの、ちゃんと無事に戻ってまいりましたよ。」

お父様の言葉に遅れた理由を述べつつも、ニヤリと笑って少し得意げに船長が言った。

うん、男の友情ってヤツだね~、と2人の関係性を見て嬉しくなった。

まあ、一度海に出てしまえば、船の上では身分なんて何の役にも立たないしね。

自分の命を預けるに値する人間との信頼関係って素敵だよね!

「ははは。無事で何よりだったよ。さて、疲れているだろうし、早速本題に入らせてくれ。今回の航海ではいつもと違う試みを試して貰ったが、結果を報告してくれ。」

お父様は船長の得意げな様子に少し笑い、船長と船医に向けて親しみを込めた労いを述べた後、顔を引き締めて今日の本題を切り出した。

それを受けて船医が「では、ここからは私がご報告致します。」と報告を始めた。

今回の南大陸との取引において、『航海病』のリスクが大きい航路ということもあり、船長と船医と料理人には事前に『薬食同源』の考え方と、保存食のレシピや活用方法などをしっかりと学んで貰った。

みんな半信半疑ではあったものの、これで予防や改善が出来るなら簡単だし、美味しい物をバランス良く食べるだけなので、誰も損をしたり嫌な思いをしないので、試してみても良いだろうと思ってくれたみたい。

料理人に関しては、出港までの間に加工場での作業にも参加して貰って、航海中にも保存食を追加したり、傷みなどの状態変化にも対応出来るようになってもらっていた。

当初は船に乗る全船員に対して、同様の指導を行おうかと思っていたのだけど、船医が少し検証したいことがああるため、限られた範囲での共有にして欲しいと言ったので、船長と船医・料理人といった限られた人間への共有に留めることになった。

**********<報告内容>***********

今回船医は、全体を三段階のステージに分けて検証を行ったとのこと。

そして最初の段階として、船内のグループを2つに分けた。

■これまでと同様の食事内容のみのグループ[A]

■新しい保存食中心の食事のみ (バランスの良い食事)のグループ[B]

【第一段階】

食事の時間をグループ毎に明確に分けて、似たようなメニューで中身が異なる食事を摂らせる。

(同じスープでも具材を変え、付け合わせやソースなどでも変化を付けた)

この状態を数週間続けると、Aグループの船員達の中から倦怠感や歯茎・皮下の出血などが見られる者が出始めた。Bグループの者は1人もこういった症状の者は出なかった。

【第二段階】

症状が出ているAグループの者をさらに2つのグループに分けた。

■これまでと同様の食事を続ける[C]

■新しい保存食中心の食事に切り替えるグループ[D]

この状態でさらに1ヶ月ほどが経過すると、Cグループの者は全員が症状の重さに程度はあっても、重度と判断出来る『航海病』の症状が出ていた。

一方で、最初から新しい保存食中心の食事を続けているBグループは、一部の者からは風邪や航海病の軽めの症状は出ていたが、食事を続け安静にすることで、ほぼ全員が健康な状態を維持していた。

途中から新しい保存食中心の食事に切り替えたDグループに関しても、時間と共に症状は改善に向かい、Bグループと同様に健康な状態まで回復した。

ここまででも十分な検証とはなっていたが、帰港まで残り1ヶ月ほどとなった時点で検証の最終段階に入った。

【最終段階】

Cグループの重度の者達は歯茎からの出血も酷く、体力の低下から満足に食事が摂れない者も多かったため、レモン水や新しい保存食で作ったスープ(具無し)を与えて経過を観察したところ、徐々に症状の改善が見られた。

通常の食事が出来るまでに回復した者には、新しい保存食中心の食事をしっかり与えたところ、帰港するまでにはCグループの全員が軽い症状を残して、通常の生活に支障が無いまでには回復した。

帰港時点で寝込んでいる者はおらず、軽い発疹や歯茎の腫れが残る者が数名いるのみ。

以上のことから、新しい保存食中心の食事(バランスの良い食事)をする事で、『航海病』の予防は十分に可能であること、また症状が出てしまった後でも症状の改善が可能であることが実証された。

ただ、最初から最後までバランスの良い食事をしていたBグループからも、風邪や軽めの『航海病』の症状は一部出ていたので、その理由などについては検証が必要と思われる。

***********************************

ここまでの報告を聞いて、私は絶句していた。

私の考えでは、今回の南大陸への長期航海での検証は、みんなにバランスの良い食事をして貰えば、『航海病』の症状もほぼ出ないだろうし、それで予防効果が実証出来ると思ってのことだった。

いつもならほぼ間違い無く『航海病』患者が出る航路なので、それだけでも予防効果の実証としては十分効果があるもの。

『航海病』になってしまった者への食事の効果については、アンカーに寄港する他国の船や、我が家の商船などで発症した『航海病』患者がいれば、治療するという名目で検証しようと考えていたのだ。

確かに・・・確かに!今回の様に自分たちで異なるパターンの検証と実証が出来るのが、一番間違いが無いとは思うが、如何せんリスクが高すぎる…。

だって、これで改善しなかったら『航海病』になった者が亡くなってしまうかもしれないのよ!

それなのに、わざわざ『航海病』になるかもしれない状況をわざわざ作って検証をするなんて…。