軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87.お姫様の意味

「『お姫様』が、どうかしたか」

ロゼット・メーガン姫は、理想的なお姫様。それが段々と誇張され、今ではお姫様の代名詞とまで称されている。学園に通う多くの者が、その存在に羨望の眼差しを送る。

同じ留学生であるギアに対してとはえらい扱いの差だが、所詮は皆外見から来る印象に囚われるという事なのだろう。

自国と似た肌の色、髪の質、国民性をした姫君は受け入れ、異なる見目と価値観の人間は淘汰する。分かりやすく愚かだと思うが、だからこそ御し易い。

この国で最も忌まれていた金色の目も、ユランが成長し美しく笑う様になれば、誰もがコロッと騙された。人間中身だ等と言ってユランの存在を正当化した奴等は、きっと夢にも思わない。

自分達が見出だしたユランの中身が、何の感情も伴わない空っぽの脱け殻だなんて。

「あ、やっぱ知ってたんか」

「名前くらいは、一応ね。彼女有名だし」

「まぁ、俺でも知ってるくらいだかんな」

「身分的には同じだろう」

「うちは特殊なんでね」

「知ってる」

ギアの生まれた場所も、取り巻く環境も、他国から見ればイレギュラー過ぎて戸惑う事が多い。本人からすればそれが日常なのだとしても、当たり前は個人によって違う物だ。

ギア自身、自分の常識が外から見ると可笑しかった事に気付いたのは留学してかららしいし、常識なんて所詮はその程度の強度しかない。

「……で、そのロゼット姫がどうしたって?」

つまらない事なら張っ倒すぞ、とでも言わんばかりな視線に射抜かれて、ギアは思わず出そうになった笑いを堪えるの奥歯を噛み締めた。ここでもし笑えばその瞬間この男の機嫌は急降下を通り越して墜落炎上が目に見えている。

寝不足が祟ってか、それとも他の原因でイラついているのか。今のユランは普段よりも五割増しで短気になっているらしい。取り扱いを間違って爆発する様な事態は、ユランの性格上無いとは思うけれど。ギアの嫌がる事をピンポイントで狙って来そうな予感はする。

正直、そんな相手にこの情報を渡すのは少々心配だが……この男なら、自分が伝えずともその内に知るだろう。

「さっき、姫さんと一緒にいんの見掛けたんよ」

「……詳しく」

「話掛けた訳じゃねぇし、それ以上の事は知らんけど……めっちゃ目立ってはいたな、どっちもが」

「そりゃあね」

あの見た目の二人だ。個々でも目立っているというのに、二人揃った時の相乗効果は言わずもがな。いつもは正反対の場所にいる二人がそばに寄れば、結果は容易く想像出来る。いつもは二つに別れていた視線が、一ヶ所に集中するのだから。

ユランが思案するのは、そこではない。

(何で、二人が一緒に……)

ユランが把握する限り、二人に接点はなかったはずだ。クラスが隣である事は知っていたけれど、元より三つにしか別れていないのだからそう特別な事ではない。

今までの交流関係でも、共通した人物はいない。二人とも数多くの視線を纏っているから、全てを正しく把握するのはユランにも不可能ではあるけれど、元よりタイプの違う二人だ。彼女らに傾倒するタイプもまた、色んな意味で異なってくる。

同級生なのだから、一緒にいる理由はいくらでも想像が出来る。もしかしたら、挨拶程度の場面をギアが目撃しただけかもしれない。

ただ、それを結論付ける証拠もない。

証拠がないのなら、それは嘘でも真でもない。

「二人がどこに行ったのか、分かるか?」

「あー、あの方向なら中庭のどっかじゃね?」

「そうか」

「行くんか?」

「分かってて教えたんだろ?」

「授業までには戻って来いよー」

ギアが見送りの言葉を告げる頃にはもう、ユランの背は教室を出た後だった。

あの程度の情報でも、ユランはきっと、簡単に二人の行く先を見つけるだろう。それだけの情報網は持っているし、目立つ相手を探すのは思いの外簡単だ。

そして行き着いたユランは、ただその姿を……ヴィオレットを見守るだろう。

「……もう一人の姫さんは、どう出るんかねぇ」

ギアの脳内に浮かんだお姫様は、理想とは似ても似つかぬ迫力で笑う。

「ただの『お姫様』だと思って嘗めてたら……足元掬われんのはお前だぞ、ユラン」