軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

81. 一人になりたい二人

周囲の目が好奇心に満ちている事など、確認せずとも分かる。共に人目を集め易いタイプではあるけれど、圧倒される美貌のヴィオレットと、神聖さ溢れるロゼットでは、同じ注目でも意味が全く違ってくる。

中等部から同じ学舎に通っているが、話した事はほとんどない。言葉を交わした事はあるし、互いに存在を認識はしていたけれど、知人ですらなかった関係性は昨日を経ても変化はなかったはずだ。少なくともヴィオレットにとっては。

(ユランに気を取られて、すっかり忘れてた)

彼女との対面よりも、その後の方に意識が向いて。今の今まで、ロゼットの顔を見るまで記憶の片隅で雑多に纏められていた一日。

ヴィオレットにとっては、その程度の出来事だった。

(でも……彼女にとっては重要な事よね)

昨日、偶然知ってしまったロゼットの秘密。

ヴィオレットにとっては忘れたままでも問題ない様な、誤解を恐れずに言うならば、どうでもいいとさえ思う秘密だけれど。

知られた側にとっては、恐ろしくて堪らないはずだ。

秘密は弱点。打ち明けている人が少なければ少ないほどに、それは重みを増していく。ただ秘めているだけなのに、騙している気になったりして。

そんな代物を、抱えている中身を、他人に知られる事がどれ程恐ろしいか。そしてその他人が、良い噂のない強欲な令嬢だとしら、どれ程不安か。

考えずとも理解した。共感も出来た。仮に自分がロゼットの立場だったら、きっと同じ行動を取ったはずだ。

「……少し、場所を変えましょうか」

「っ、は、はい……! あの、実はついて来て頂きたい所があって」

「え……?」

まさかの申し出に、今度はヴィオレットの方が困惑する番だった。さっきまでの挙動不審な態度はどこにいったのか、一体何が彼女に踏ん切りを付かせたのか……何も問いかける事の出来ぬまま、ヴィオレットは、ただその背に従うした出来なかった。

× × × ×

到着したのは、見覚えも、利用した覚えもある場所。相も変わらず薄暗く、人の影どころか気配すら感じない。

「……ここ?」

そこは、昨日が出会い別れた場所。ロゼットにとってはきっと、大切な秘密を吐き出せる楽園。

「どうして……」

てっきりサロンの人払いでもしてあるのかと思っていたが、確かにここならば人に聞かれたくない話をするのに持って来いではある。とはいえまさか、昨日の今日で再び訪れる事になるとは思っていなかった。

昨日の一件で、ヴィオレットはもうここに来るつもりはなかったから。

「ここ、本当に人気がなくて……影になっているから周りから気付かれる事もないですし。それもあって、私もよく通っていたんですけれど」

「そうだったの」

ならば、あの日会ったのは不幸な偶然というほどでもないのだろう。きっとその内、二人は偶然という形で鉢合わせていたはずだ。

「だから、あの……ヴィオレット様も、そうなのかなって」

少し先で立ち止まるロゼットが、ゆっくりとヴィオレットを見る。風が二人の間を通り過ぎる音だけが鮮明で、他は何も聞こえない。

声も、視線も、誰の理想も印象も、ここには届かないのだと。

「一人に、なりたいんじゃないかって……思ったんです。だからここに来たのかなって」

そしてその場所を、自分が奪ってしまったんだって、思ったから。ロゼットがここに来ると知れば、きっとヴィオレットはもうこの場所を使わないと。

その予想は、的中していた。心を読まれたかと思うくらい、完璧に。

それはきっと、ロゼットも同じ事を考えたからだろう。ヴィオレットが使うなら、自分がもうここを使わない方が良いと、思ったから。

一人になりたい二人は、相手の気持ちが手に取る様に理解出来たから。

「でも……それじゃ、ロゼット様は」

「わ、私は他の所も色々知ってますし……! その、私が好む場所は他の方があまり好まない所なので、必然的に人気がなくて」

えへへ、と笑う表情は、いつもの清廉な姿よりも随分と子供っぽく映る。きっと、これがロゼットの根っ子にある『ロゼット』で、幸か不幸か、ヴィオレットには一番知られたくなかった秘密を知られているが故の無防備さなのだろう。

誰かの為だけに存在するのは、心が固まっていく様で、潰されていく様で、破られる様で──苦しいから。

「……気を、使わなくても大丈夫よ」

「え……」

「確かに、あなたの言う通りだけれど」

一人になりたいから、人目を避けたいから、探し出した場所。誰の目も、期待も、印象も、噂も、気にしなくて良い場所が欲しかった。

でもそれはきっと、誰もいない場所が欲しかった訳じゃない。

困惑のまま視線を逸らせずにいるロゼットを追い越して、ガゼボの中に入るとやっぱり薄暗くなった様に感じた。太陽は平等に照らされているはずなのに、木が重なりあっただけで簡単に遮れてしまう。

多くの人が鬱屈して感じるそれを、護られている様に思えてしまう。この感覚を、分からない人から離れたかった。

善悪に関わらず、向けられる感情全てが煩わしいと思う、その想いが否定されない場所にいたかった。

「立ち話もなんだから、座りましょうか」

「え……っ!? ぁ……っ、は、はい……!」

ころころと表情を変える彼女が可愛らしく思えるのは、少なからず気持ちに余裕が出てきた証拠だろうか。昨日からずっと頭が色んな事で一杯になって、パンクしてしまいそうだったのに。

予想外の所から予想外の襲撃を受けて、脳が機能を停止しているだけかも知れないけれど。

それでも、良い。今だけ、もう少しだけ、空っぽなまま現実から遠ざかりたい。

そしてほんの少しだけ……一人になりたい者同士、身を寄せ合ってみたいだなんて、思ったから。